2015.01.08
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子ども達のアウトプットを考える

広島県公立小学校 教諭 中村 祐哉

子ども達のアウトプット

 新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

 今年最初のつれづれ日誌は,『子ども達のアウトプット』について考えていきたいと思います。

 なぜ,このテーマを今年最初のテーマに設定したかと申しますと,今年度の転勤を機にはじめて小学校中学年である4年生の担任をさせて頂いたことにあります。これから進級する高学年に向けて,子ども達が自信をもってアウトプットすることができる素地をつくる学年として,その重要性を強く感じたからです。

 今回は,『子ども達がアウトプットできる場(環境)』と『子ども達のアウトプットを評価する場』をお話の軸に,最後は子ども達の他者理解と自己肯定感の向上へとつなげることができればと考えております。

 

 子ども達がアウトプットできる場を多く設定する

 ここでのアウトプットとは『(子ども達の)思いや考えの発信』と定義付けしてお話をすすめていきたいと思います。

 義務教育段階の子どもたちは,さまざまな面で大きな成長期にあたります。その中においてアウトプットすることが得意な子と,そうでない子がいます。 

 しかし,ここで見落としてはならないことは,アウトプットが不得意な子でも,思いがない子や考えていない子はいないということです。このことをふまえて学級経営を進めていくことは非常に重要なことだと考えています。

 学校生活の中で大部分を占める授業内でのアウトプットとしては,まず第一に児童の発言や挙手を伴う発表を思い浮かべることができると思います。一日の授業の中や一単位授業を通じて,『クラス全員発表』や『全員挙手』ができるということはすばらしいことです。それだけ子ども達が安心して発言できるクラスの雰囲気づくり・支持的風土がその学級の素地にあることが伺えます。

 そのような素地を作るために,『クラス全体読み』を含めた音読指導や,『クラス全体の場で声を出すゲーム』を取り入れること,帰りの会などでおこなう『一分間スピーチ』やグループで毎日1つお題を決めて給食中などにテーマに沿ったフリートークを行う『ザ・キーワードトーク(※中村学級での名称です)』等,全体の場で声を出す様々なアウトプットの場を学級開き間もない4月には徹底して取組みます。

 これらの活動が小学校高学年・国語科のディベートにもつながっていきます。ここまでは比較的一般的な実践といえると思います。

 今回,私がここで主として述べたいことは,発言や発表というアウトプットの方法をクラスの子どもたち全員が一番自分に合ったアウトプット手段として選択するべきなのだろうか?という点です。

 私は,担任教師は様々なアウトプットの手段をもっと子ども達に気づかせたり教えたりする必要性があるのではないかと思っています。

 前述した内容と重複しますが,発言できる・発表できるということはすばらしいことです。今後進級し,また最終的に社会に出るためにも,必ず必要になってくる力です。自分の学級でも力を入れて育んでいるものの1つです。

 しかし,学級の子どもたちによく目を向けると,こんな様子に気がつくことができます。

 学級活動の中で,私が子どもたちのある課題に対して,子どもたちそれぞれの考えを問う発問をしました。

 すると…

 学級の約85%の子どもは,その場で即,挙手しました。

 約5%の子どもたちは悩んでいました。

 では,あと約10%の子どもたちは…鉛筆を握っていたのです。

 遅かったかもしれないのですが,そこで初めてハッとなったのです。

 教師になって5年が経ち,私自身3回目の6年生を担任した時でした。

 それまでは,発言・発表がアウトプットの手段として充実するクラスを徹底して追求していました。

 またそのような場の設定も多くとってきました。もちろんそれは今も私が子どもたちにつけさせたい力のひとつですが,この経験によって次のように教育的視野が広がりました。

 発表という手段を使ってアウトプットしたい児童もいれば,書いてアウトプットすることを一番に選択した児童もいるということです。

 もしかすると,もっと別のアウトプットの手段を選択したかった児童もいたかもしれません。

 場所や状況をふまえることはもちろん大切ですが,このことを担任教師が見取ることで,子どもたちのアウトプットの可能性や良さを底上げすることにつながるのではないでしょうか。

 例えば,私が過去担任した5年生の学級に,発言や発表に対してなかなか気が進まない児童(A児)がいました。クラスのみんなと積極的にコミュニケーションをとることも少し苦手でした。しかし,A児は絵がとても得意でした。

 そこで,私は,係活動の子どもたちが毎週作って更新していた学級新聞のイラストレーターをA児に頼んでみました。あの時の,A児の笑顔は今も忘れられません。

 それからというもの,毎週学級新聞にイラストを載せ続け,その頑張りとすばらしさに,ついに学級新聞で大特集が組まれました。A児はイラストを描くことを通じて自分の思いを表現し,クラスにそれをアウトプットしました。時には,社説に沿った風刺画のようなものまで書き上げてくれました。

 この活動を通じてA児は自分に自信をもつことができました。周囲に肯定的に認められたことによって自己肯定感も高まり,3学期にはクラスで1,2を争うほど発表が充実した児童へ成長しました。ここでA児が選んだアウトプットの手段は発言や挙手からの発表ではなく,描くという手段でした。このようなきっかけを見い出すということも担任教師の非常に重要な役割だと感じました。

 ここまで述べてきた発言や発表すること・書くこと・描くことのほかにも,児童それぞれに得意と感じるアウトプットの方法をもたせることが自己肯定感の向上にもつながっていくといえるのではないでしょうか。

 

子ども達のアウトプットを評価する場をつくる ~『日記へのコメント』と『学級通信』~

 子どもたちは,前述してきた自分のアウトプットに対して周囲から肯定的評価を受けることによってそれを得意だと感じます。

 つまりアウトプットとそれに対する評価は一体化していなければなりません。

 子どもたちから子どもたちへのアウトプットの評価としては,学級のベースに『お互いを認め合える支持的風土』があれば,さきほどの『学級新聞特集掲載』や,『すてきなアウトプットには拍手!』などが子どもたちの中から自然と生まれてきます。

 では,教師はどのように『子ども達のアウトプット』を評価をするとよいのでしょうか?

 ここでは,一般的な本人への言葉かけやクラス全体への言葉かけといった直接語りかける評価以外について考えてみたいと思います。

 多くの評価方法があると思いますが,ここでは私の実践を2例ほど紹介させて頂きたいと思います。

 まずは,前回の私のつれづれ日誌にも記載があります日々の『日記へのコメント』です。

 この時期、『100日日記』に取組んでおられる先生方も多くおられると思います。私は,子ども達が日記に書いていること以外のことも返事のコメントの中に入れています。「そういえば最近○○くんは…」のような書き出しで,その児童のアウトプットに関して日記内容以外のものをプラスワンでコメントをします。

 担任教師から日記の返事は,日記ノートを返却するとほぼ全員の子どもがその場でノートのコメントを開いて見ていますよね?

 先生からのコメントは,子どもたちにとっては,とても楽しみなものなのです。そこに普段のアウトプットの評価を付け加えると,子ども達は必ず目を通しますし,仮に学級の児童全員とどうしても話せない日があったとしても『先生は私を見てくれている=評価してくれている』という安心感が子ども達の心に広がり,その効果は大きいものがあると言えます。

  そして,2つ目は,なんといっても『学級通信』です。年間通じて160~200号発刊する『学級通信』の中で,クラスの子どもたちのアウトプットを日々の取組と共にバランスよく紹介することで,保護者もそのがんばりにエールを送ることができます。

 『学級通信』というツールを使って褒める,評価するということは,「同じクラスの子ども達」「保護者」,そして「担任教師」という3方向からその児童のアウトプットへの評価を生むことができます。この「評価の包み込み」が子ども達の自己肯定感と他者理解を深め,次なるアウトプットへの自信へとつながっていくのです。

 これからも子ども達のアウトプットに対するより効果的な評価の方法を,日々の実践の中で見いだしていきたいと思います。

中村 祐哉(なかむら ゆうや)

広島県公立小学校 教諭


「社会科教育」「国際教育」「ESD」をメインテーマに,日々授業実践と研究に取り組んでおります。拙い教育実践ではありますが,共に学ばせていただければ幸いです。

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