2012.05.01
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消極的な子が積極的になるには?

第37回目のテーマは「とかく積極性を求められる学校生活。消極的な子はどうすればよいか?」です。

とかく積極性が重視される教育現場

授業中、答えがわかっていてもなかなか手を挙げられない、人前で何かをすることや目立つことが恥ずかしい、苦手……。クラスにはこのようなタイプの子が少なくとも一人や二人いることと思います。学校生活では「積極的に」ということが重視されますので、消極的な子にとってはそれが苦痛な場合もあるかもしれません。

さて、教師や親は、消極的な子にどのような対応をすればよいのでしょうか。

「消極的=おとなしい」ではない

まず勘違いしてはいけないことは、「消極的」という言葉の意味することです。学校や学習の場で消極的というのは、何も考えていない、参加しようとする意志がないことを指すと、私は考えます。つまり、「おとなしい」や「内気」とは意味が違うのです。おとなしい子というのは、考えていることはあっても、それを表現することが少し苦手なだけであり、消極的なわけではないのです。ですから、おとなしいという性質は、学校生活ではそれほど問題ではないと言えるでしょう。

本来、教育というのは、教えられたこと、覚えたことを自分の中で咀嚼し、消化・吸収して成長する、このプロセスが出来る人を育てることが目的だと思います。消極的な子とは、このプロセスを実行しようとしない児童生徒のことですから、単におとなしい子に「積極的になりなさい」と指導するのとは違うと思います。

では、自分の目の前の児童生徒が消極的か積極的かを知るためにはどうしたらよいでしょうか。私はよく大学で学生たちに、「正しい答えがない問題」について意見を求めます。たとえば、「家族全員で揃って食事をすることについて、あなたはどう思う?」など。誰でも自分なりの考えを述べられることを質問するのです。そこで自分の考えをまとめ、表現できる学生は消極的ではありません。一方、何の考えも持っていない学生も時々います。そんな時は、「後でもう一度聞くから、考えておいてね」と言います。そうやって何度も考えることを促し、授業への消極性を打破させるようにしています。さらに、「どんな意見も皆で共有すれば、課題への考察が深まり、授業が有意義なものになる」こともその都度伝え、学生たちの積極性を育むよう努めています。

固定観念は差別の始まり

このように消極的な態度は改善すべきと思いますが、おとなしい性質はそれほど問題ではないと先に書きました。ただ、教師や親が「この子はおとなしい」と固定的に見てしまうことは問題でしょう。なぜなら、私は「固定観念は差別の始まり」だと考えるからです。

たとえば、大人が「おとなしい子」と思って接すると、その子は活発な面を持っていたとしても、おとなしい子どもを演じようと、どんどんおとなしくなってしまうという現象が生じることがあります。心理学ではこれを「ロールパーフェクト」と言います。

これは私自身、小学生時代に体験しました。当時、私は親や教師からよく「勉強はできないし、不美人で暗い子だ」と言われ、6年生の時ついに成績下位の児童ばかりが集められたクラスに入れられてしまいました。ところが、このクラスの担任の先生が「私は、あなたたちが勉強のできない子たちだなんて信じていない」と言ったのです。この先生のおかげで、私は香港の統一試験でかなりよい成績を収めることができました。

また、先生はこの統一試験の願書に貼る私の顔写真を見て、「なんて可愛いの!」とも言ってくれたのです。私はそれまで周囲から不美人と言われていましたし、願書の写真も身なりや表情を整えずに写したものだったので、その言葉にびっくり。けれど、この先生に出会えたことで、私は自信が持て、勉強や交友関係、ボランティアなどいろいろな活動に積極的に参加する子どもになれたのです。

学校現場では、子どものイメージは固定化されがちです。先生方、また親御さんも、子どものイメージを固定化しないよう気をつけていただきたいと思います。そして、消極的と、おとなしい・内気を決して混同しないこと。消極的な子には積極的な子に変わっていく機会を提供してあげることを心がけていただければと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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