2010.06.01
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

離婚は子どもの教育にどう影響しますか?

第14回目は「離婚を考えています。我が子への教育に影響はありますか?」についてアドバイスします。

離婚がもたらす子どもへの影響

 離婚する夫婦が増加しています。昨年度の厚労省推計では、離婚件数は25万3,000組(前年比2,000組増)、離婚率(人口千対)は2.01(前年は1.99)でした。またそのうち子どもがいるケースは約6割でした。

 離婚による子どもへの影響としては、まずは片親だけの収入になり、子育てや教育への出費が困難になる可能性が挙げられます。そのほか昨今の研究では、親との接触時間が極端に少なくなる。環境の変化によるストレスや集中力低下のため成績が下がる。情緒不安定を引き起こす。さらに、自閉や不登校、深刻な抑うつ状態などの非社会的な不適応行為。金品持ち出し、無断外泊、不純異性交遊などの反社会的な不適応行為などに陥るケースも指摘されています。

 他方、暴力的家庭や葛藤の高い結婚生活に終止符を打て、子どもはそこから解放される。親を支えようと早いうちから自立心が育つなど、離婚によって好影響を受けるケースもあります。

 とはいえダメージは深刻で、悪条件が揃うと、10年、15年、時にはさらに長く引きずることが判明してきました。

子どもが受ける心的外傷は深く、複雑

 子どもが受けるダメージの中で、特に心的外傷、つまり心の傷は外から見えない分、なかなか癒されません。
幼稚園~小学校低学年頃までの小さい子は、両親が別れるのは「自分のせいだ」と思い込む傾向があります。もし、母親が離婚の原因を「お父さんが悪いから別れたのよ」と父親のせいにしたら、父親を好きな子であったらますます責任を感じてしまいます。そして父親に会えない辛さが傷を深くしていきます。相手の悪口を言うなど憎しみをばらまくような離婚は、子どもに人を信じることを難しくさせ、悪影響を長く引きずる事態を招きかねません。  思春期にもなると、何か悪いことが起きたから両親は別れるのだと察しますし、精神的に不安定な時期ですから、もっと大変です。ほとんどの場合、父親か母親のどちらかを憎むことになるようです。  こんな女の子の例があります。思春期に両親が離婚し、母親に引き取られたのですが、彼女は父親をとても好きだったので、非常にショックを受けると共に母親を恨み、家出をしてしまいます。そして高校卒業前に妊娠、非常に年の離れた男性と結婚することになりました。  このように親の離婚が子どもの一生を左右することもあり得るのです。たとえ幼い頃の離婚体験であっても、年頃になってからの女子にその影響が遅延効果となって現れるケースも指摘されています。人間不信から恋愛も結婚もうまくいかない、一生結婚せずに仕事に生きるという価値観を強く持つ、などがその例です。

離婚によるダメージを最小限にとどめるには

 どうしても離婚を避けられない状況であるなら、子どもへの心的外傷を最小限にするための努力はしましょう。親権者の親だけでなく、父親・母親二人共です。

 まず離婚前には、子どもに直接説明してください。その際、「お父さんはお母さんよりも、もっと素敵な女性を見つけたの。喜んであげよう」とか、「私たち皆にとって、もっと良い未来を作るために別れるの。決して悪いことではないんだよ」などと前向きな表現をしなくてはいけません。そして「君のせいではないよ」と、子どもが罪悪感を持たないよう丁寧に言い聞かせることが必要です。

 思春期の子には、大人に対するように「私たちは本当に愛し合って結婚し、君たちを育ててきた。だからお互いに感謝の気持ちはある。でも、いろいろ考えて別れる決心をした」と、前向き且つ率直に説明し、「これからも命をかけて君たちを守り続けるから、許してくれないか。本当に申し訳ない」と頭を下げて謝るくらいの覚悟が必要です。なにしろ、子どもには「父母によって養育される権利」があるのですから。離婚しても、子どもへの愛情は変えないこと、それが大事なのです。

 離婚後はまず学校にその旨を報告しましょう。心的外傷には先生の助けが必要です。両親の離別に対する子どもの思いは複雑で、友達にはとても相談できません。先生が日頃から子どもの悩みを聞き、助言すれば子どもも頑張れるはず。宿題を出さなくなった、反抗的な態度になった、などの変化があれば親に知らせ、先生と親が一緒に手を組んで乗り越えていくのです。

 経済的に困った時には行政機関に頼ることもお忘れなく。子どもがいる場合の離婚は慎重に、そしてできるだけ多くの人や機関に協力を求め、子どもの受ける傷を少なくしてください。

参考文献
  • 棚瀬一代「離婚の子どもに与える影響―事例分析を通して」(京都女子大学現代社会研究23)

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:後藤真/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop