2009.10.20
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チリメン・モンスターを探そう 【食と環境】[小6・理科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第三十九回目の単元は「チリメン・モンスターを探そう」。ちりめんじゃこの中に混じっている小さな生き物を通して、海の環境や生物の多様性に関心を持たせましょう。

ちりめんじゃこを食べていて、イカやタコなどが交じっていることがあります。選別前のちりめんじゃこの中から小さな生き物を探すことで、海の環境や 生物の多様性を知ることができます。何よりも子どもたちが夢中になるおもしろさがあります。6年生の理科の学習で1時間ほど取り上げました。

※選別前のちりめんじゃこを使って、チリメン・モンスター探しをする活動は、「きしわだ自然友の会」 が始めて、全国に広がっています。
■参考書籍:偕成社刊『チリメンモンスターをさがせ!』きしわだ自然資料館、きしわだ自然友の会、日下部敬之=監修

ちりめんじゃこの栄養は?

子どもたちに「ちりめんじゃこ」を見せます。
「ちりめんじゃこだ」
「給食に出たよ」
「食べたことある」
など、子どもたちの声が上がります。
「カタクチイワシやウルメイワシの稚魚を、塩水で煮た後、乾燥させて作ります」
と簡単に説明します。
「ちりめんじゃこを食べると、体にはどんないいことがあるのかな」
と問いかけると、
「カルシウムがとれる」
「歯が強くなる」
などの意見が出ます。そこで、骨ごと食べられる小魚は、カルシウム供給源として優れていること、小魚は牛乳に次いで吸収率が高いことを話します。

「ちりめんじゃこを食べていて、中に違う海の生き物が入っていたことはないかな」
と聞くと
「タコがいました」
「そうそう、小さいタコ!」
「名前のわからない魚もいたよ」
と、にぎやかに話が出ます。
「今日は、ちりめんじゃこの中に隠れている不思議な生き物を探します。みんながふだん食べるちりめんじゃこは、あらかじめ選別されていますが、選別前のち りめんじゃこを用意しました。不思議な生き物は、チリメン・モンスターと呼びます。さあ、どんなモンスターが見つかるかな」。

チリメン・モンスターを探す

用意するもの

【用意するもの】
○選別前のちりめんじゃこ
:スーパーなどで売っているものは選別を経ていて他の生き物が少ないので、ちりめんじゃこを加工している工場から直接買うか、問屋さんから購入します。今回は、和歌山県の海産物店「カネ上(じょう)」 から購入しました。

○ピンセット
:「チリメン・モンスター」を取り分けるのに使います。

○ルーペ

○図鑑
:先に紹介した参考書籍や、きしわだ自然友の会のウェブサイト「チリモン図鑑」を参考にします。

 用意したちりめんじゃこを小皿などに取ります。よく観察して、色の違うもの、形の違うものを探します。 見つけたら、ピンセットなどで取り分けます。取り分けた生き物を観察して図鑑などで種類を調べます。

 子どもたちは夢中になって探します。だれかが、変わったチリメン・モンスターを見つけると、自分も見つけようと盛り上がります。子どもたちの一番のお気に入りは、「タツノオトシゴ 」でした。

チリメン・モンスターと食物連鎖

チリメン・モンスターには、いろいろな種類の生き物がいます。
節足動物:カニ、エビ、ゾエア (カニ・エビのなかまの幼生)、メガロパ(カニ・エビの幼生でゾエアが成長したもの)、シャコ
軟体動物:タコ、イカ
棘皮動物:ヒトデ、ウニ
刺胞動物:クラゲタイの仲間、アジの仲間、ヨウジウオの仲間、タツノオトシゴの仲間
……などなど、非常に多くの種類の生物がいます。魚の餌になるものなど食物連鎖の重要な位置にいるものもたくさんいます。

「海の生き物といえばどんな生き物を思い浮かべますか」
子どもたちはサメ、ウミガメ、クジラなど、大きくてたくましい動物たちを連想します。

「海の中にはものすごく小さい生き物たちがいっぱいいて、エサとして食べられることで小魚や大きな動物たちの生活を支えて いるのです。そんな小さな生き物たちがちりめんじゃこの中に隠れているのです。植物性プランクトンを動物性プランクトンが食べて、動物性プランクトンを小 魚が、そして小魚を大きな魚が食べるという食物連鎖があり、チリメン・モンスターの多くは動物性プランクトンの世界に属しています。私たちが知っているの は魚より大きな生き物ですが、チリメン・モンスターがいなければ、私たちが食べている魚は存在できないわけです」。
と食物連鎖の話をして授業を終えました。

 授業後の子どもたちの感想です。

「ちりめんじゃこの中にエビやタコが入っていて驚きました。いつも食べているちりめんじゃこでもこんなに入っていてすご かったです。それだけ海にはいろんな生き物がいるということです。小さいので見つけるのが難しかったです。今度はもっとめずらしいモンスターを見つけたい です。チリメン・モンスターを全部集めて図鑑にしたいです」。

チリモンに夢中

「ちりめんじゃこの中にいろいろなモンスターがいることがわかりました。モンスターにも種類がたくさんあることがわかり、とても勉強になったと思います。 チリモンを探した りするのも勉強になったし、チリモンの正体を見つけたりするのも勉強になりました。こんなにたくさんのモンスターがいるから大きな魚も生きているんだとわ かりました」。
授業の展開例
  • ちりめんじゃこは栄養が豊富です。そのまま三杯酢か醤油で食べても、大根おろし、酢あえでも、また味が出るので、煮物、炒め物に加えても、おいしくいただけます。どんな食べ方があるかを調べて作ってみましょう。
  • 「シラス」とは主にイワシの稚魚のことです。厳密な区別はありませんが、一般に乾燥の具合によって呼び方が変わり、しらすを干したものが「シラス干し」、さらに干したものが「ちりめんじゃこ」。スーパーマーケットでどちらが売られているか調べてみましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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