教育トレンド

教育インタビュー

2005.01.11
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宮本哲也 中学受験は子どもにとって正しい選択か?

学級崩壊、学力低下...。教育改革で揺れる公立学校。我が子を守るためには、中学受験をさせ、私立中学に行かせるしかない。悲しいことにそう思う親は少なくない。公立校が、学校選択制、教員免許更新制などいかなる改革を実施しようとも、私立への受験熱は鎮まりそうにない。当然ながら高い進学実績をあげる大手受験塾は大人気。そんな中......

小さなビルの一室で、数十人しか生徒を取らず、しかも、無試験先着順の入塾にも関わらず、最終在籍生徒の約85%が開成、麻布、栄光、筑駒、桜蔭、フェリスといった名門校に進学という驚異的な実質をあげているという塾があるという。その名も「宮本算数教室」。今回は、その宮本算数教室の主宰にしてカリスマ講師の宮本哲也氏に、独自の教育観、直前入試必勝法などをお聞きした。


学びの場.comまず、「宮本算数教室」を始めるまでのいきさつを簡単にお話しいただけますか?

宮本哲也大学3年の時、補習塾の時間講師をしたのが塾講師としてのスタートです。その後、スパルタ特訓塾に移り、大学を卒業するときに大手進学塾に正社員で入りました。いろいろなところで、様々な指導方法を模索してきました。 1.頭ごなしに徹底的に叩き込む指導・・・短期間で成績は飛躍的に伸びましたが、子ども自身に考える力をつけさせることはできませんでした。 2.懇切丁寧な指導・・・授業の前後の補講、無制限な質問の受け付けで、成績は伸びました。親や生徒からの信頼も得ることはできましたが、授業中の集中度が私も生徒も低下しました。 3.指導なき指導(The art of teaching without teaching)・・・宿題は出さず、質問も一切受け付けません。そのクラスで一番できる子が飽きないペースで授業を進めますので、落ちこぼれる子がたくさん出ますが、フォローはしませんし、親の泣き言も聞き流します。授業に緊張感が生まれ、子どもが自発的に問題に取り組むようになりました。 3番目の指導方法に行き着いたとき、「この指導が一番いいけれど、組織向きではない。一人でやるしかないのかな。」と感じていました。
そんなとき、転勤の話が出たので、その塾をあっさりとやめました。やめた時点では教室を出す気もなく、しばらくはぼーっとしていました。 2週間でぼーっとするのにも飽きたので、「ダメ元で教室でも開くか。」ということになりました。 ですから、教室を開いた直接の理由は「ヒマだったから。」ということになります。

緊張感がいい授業を生む

学びの場.com宮本さんは「カリスマ講師」と呼ばれているわけですがご自分ではどんなところが評価されていると思いますか?

宮本哲也「カリスマ」は本の宣伝コピーで誰もそんな風には呼びませんし、自分でもそうは思っていません。評価されている部分があるとすれば正直なところでしょうね。気休めは言いません。 私の教室は無試験先着順で生徒を受け入れています。登録開始は小学校2年生の時点での10月1日午前0時で、FAXのみの受け付けになります。時間厳守で、1秒でもフライングをすると無効です。縁故枠は一切なく、卒業生、在校生の弟、妹も同じ条件です。数年前に試行錯誤の末、この方法に落ち着きました。 私の授業に順応できるかどうかは実際に授業に出てみないとわかりません。授業では子どもたちに何も強要しませんので、向き不向きがとてもよくわかります。ここの部分を誤解される方が多いので強調しておきますが、大切なことは出来不出来ではなく向き不向きです。能力の問題ではなく、趣味の問題と言い換えてもいいでしょう。

スタート時点での出来がどんなに悪くても問題に食らいついて来る子は必ず伸びます。逆に問題に全然興味を示さない子はお越しいただいても無意味ですから「うちへ来ても無駄です。さっさと辞めた方がいいでしょう。」とアドバイスしますが、無理にやめさせることはありません。また、放ったらかしにしておくと子どもの個性がはっきりと見えるので、それを元にその子に合った学校を選択することができます。学校は成績で選ぶのではなく、性格で選ぶのが正しいのです。性格の合った学校には成績に関係なく受かりますし、その学校に順応できます。 授業時間は小3が1時間半、小4以降が2時間半で休憩時間はありません。この時間を長く感じるか短く感じるかも向き不向きの判断材料になります。  授業で使う問題はすべて私が自分で作っています。教室を始めた頃は授業時間の3倍以上、準備に時間がかかりました。自分で作った問題で授業をやると子どもの反応が非常に気になります。私自身がワクワクしながら授業をやるので、子どもの緊張感も持続します。宮本methodの真髄は自分で作った教材で授業をやるというところにあります。緊張感のないところに成長はありません。また、先生自身が生徒とともに成長できるシステムでないと長くは続けられません。飽きてしまいますから。 子どもが伸びるために必要な3つの要素は、緊張感の高い空気、適した問題、手ごわいライバルです。3つとも揃わないといい授業にはなりません。

親子関係の健全さがカギ

学びの場.comそれでは親はどうでしょう? どんな親が子どもをダメにするとお考えですか?

宮本哲也これも同じです。子どもの自立をはらはらしながら見守るのが健全な親。子どもの自立を待ちきれず、次から次へと手出し口出しをしてしまうのが不健全なダメ親です。   「見守る」と「見張る」は全く違います。見守る目は暖かく、見張る目は冷たい。冷たい目で見張られた子は萎縮するかずる賢くなるかのどちらかでしょう。
ダメ親が子どもに勉強部屋を与えるきっかけは、「見張られるのはもう嫌だ!自分の部屋に逃げ込みたい!」と子どもが思うか、「もう見張るのに疲れた。見えないところで勝手に勉強してほしい。」と親が思うかのどちらかでしょう。いずれにしても「勉強部屋」は「勉強しない部屋」になってしまうでしょうね。  小学校3年生くらいまでは、ほとんどの子どもはお母さんが大好きでしょう。親に見守る姿勢があればリビングでやらせた方がいいと思います。「ぼく、がんばるからお母さん見ててね!」となるのではないでしょうか。問題が解けたら「よかったねー!えらいねー!」と一緒に喜んであげればいいんです。勉強部屋を与えるのは子どもがさらに成長して「もっと集中して勉強したい。」と言い出したときでも遅くはありません

学びの場.com好評を博している「強育パズル」ですが、これはどのようにして生まれたんですか? 実は私の子どもも「勉強より面白い」とハマっているのですが。

宮本哲也教室を開いた当初は4~6年の授業の準備に追われていましたが、開校3年目に教材が一段落し、要望もあったので思いつきで小3のクラスを始めることになりました。こちらも開設の動機は「ヒマだったから。」になります。
小4の教材の前倒しはやりたくなかったので、「ひたすら書いたり消したりするような教材はないかな。」といろいろ探しているうちにパズルに出会いました。「これは面白い!」といっぺんに私自身がハマりました。自分でパズルを作るようになるとますますパズルが好きになりました。「こんなに面白いものに子どもが熱中しないはずがない!」と試しにやらせてみたところ見事に全員がハマってくれました。 『中学への算数』(東京出版)に試しに載せてみると反響が大きく、すぐに連載になりました。調子に乗って『高校への数学』(同)にも載せてみるとこちらも最初から反応がよく、これも連載になりました。つまり私の教室の小学校3年生用のパズルを、難関高校を目指す中学生も熱中して解いているわけです。  計算ドリルの好きな子どもはいないでしょう。面白くないからです。でも、ほとんどの子どもはパズルには飛びつきます。計算ドリルをやらなくても計算系のパズルに楽しく取り組んでいれば計算力は磨かれます。どの種類のパズルも最上級のものは最難関中学の入試問題に匹敵するくらい難しいので、集中力や慎重さも身につきます。 算数、数学の学力を高めるのに大切なことは「計算の速さ」ではなく、「考える深さ」なんです。

学びの場.com中学受験自体についてはどのようにお考えですか?

宮本哲也中学受験には暗いイメージをお持ちの方が少なくないと思います。小学校低学年から遊びたいのをがまんして塾に通い、夜遅くまで宿題に追われる、それだけ勉強しても一流中学にはなかなか入れない....子どもがかわいそう。  私もそういう受験はかわいそうだと思います。これは間違った中学受験です。正しい中学受験は明るく、健全で、なおかつ子どもの自立を促進します。  子どもが正しく成長するのに必要な3つの要素は睡眠、食事、運動で、学習は4番目です。この優先順位を間違えるとうまくいきません。私の教室では入試直前の6年生にも8時間睡眠を守らせています。学習は本能ですから前の3つがちゃんと満たされれば勝手に学習します。難しいことではありません。赤ちゃんを見習えばいいんです。毎日、必死に成長しようと努力をしていますね。「立て!」と言われなくても一生懸命、立とうとしますよね。それが学習の原点です。自分の意志で、興味を持って問題に取り組まないと学力は身につきません。場当たり的な詰め込みで成績を上げても入試には通用しません。  中学入試は、適性検査とも言えます。その学校に合った子どもがきちんと合格するようにできています。だから、成績ではなく、性格で選ばないといけないのです。端的に言い切ってしまうと、人と競い合って伸びて行く子は開成向き、自分のペースで勝手に伸びて行く子は麻布向きなど学校による向き不向きがあり、入試問題もそれに対応しています。受かるかどうかよりもその学校でよりよく伸びていけるかどうかまで考えて学校は選びましょう。

「宮本流」受験直前の心得

学びの場.comそろそろ受験も目前ですが、受験直前の心得をいくつか教えていただけますか?

宮本哲也まず1ヶ月前の心得ですが、 ・ かぜを引かないこと ・ けがをしないこと このふたつです。 私は子どもに全く指図をしませんが、入試直前だけはまめに釘を刺します。これが非常に効果的です。  まずはかぜ編。 「かぜをひくと偏差値が5下がる!」と脅します。「かぜの菌は手から口に入る。だから、風邪の予防その1は手洗いとうがいだ。外から帰っていきなりそこら辺の食べ物をつかんで食べるやつは80%の確率でかぜを引く。 そして偏差値が5下がって、落ちる。だから、家に帰ったらまずせっけんでしっかり手を洗い、うがいをする。うがいは水じゃだめだぞ。イソジンで『ガラガラガラガラ、ペッ!』を3回繰り返すこと。いいな? それから、夜更かしはするな。風呂で温まった身体がほかほかしているうちに寝ろ。遅くても11時には寝るんだぞ。12時過ぎまで起きているやつは落ちる。」 次にけが編。 「学校の体育の時間以外には絶対に走るな!電車に乗り遅れそうでも走ってはいけない。特に下り階段が要注意だ。万が一転びそうになっても利き腕は使うな。利き腕を折って字が書けなくなったら、算数の問題は解けないし、国語は答えがわかってもその答えが書けないんだぞ!利き腕は命に代えても守るんだぞ。いいな。」  直前から本番にかけていちばん大事なのは、「結果が出るまで絶対に気を抜かない。」ということです。試験が終わって浮かれている子はほとんど落ちています。試験時間中、解答欄を埋めた時点ですでに気が抜けているんですね。ですから、入試直前には「試験が終わって一言でも『受かった!』『バッチリ!』『大丈夫!』などと口に出したら、その瞬間、呪いがかかって必ず落ちる!」と脅します。この脅しをかけるようになってから合格率が飛躍的に上がりました。 やっていることが間違えていなければ結果はあとからついて来ます。合格は目標ではなく、行きがけの駄賃くらいに思っていた方がうまくいきます。

宮本 哲也(みやもと てつや)

1959年生まれ。公立高校を1年で中退。大検取得後、早稲田大学第一文学部に入学。在学時に塾講師の仕事に出会い、卒業後、大手進学教室講師に。
1993年、宮本算数教室を設立。

著書に『合格パズル1~4』(東京出版刊)、『強育論』、『強育パズル1~6』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン刊)がある。月刊誌「中学への算数」「高校への数学」(東京出版)のレギュラー執筆陣の一人。大手模試の小6算数を担当。森上教育研究所主催「わが子が伸びる親のスキル研究会」講師。

聞き手:高篠栄子/構成・文:堀内一秀/PHOTO:岩永憲俊

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