2005.06.14
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今日の教育と教育行政の課題 ~御手洗康(前文部科学省事務次官)

今日の教育と教育行政の課題

6月3日、有明の東京ファッションタウンビルで開催されたNew Education Expo in 東京での基調講演から、前文部科学省事務次官 御手洗康氏による講演をご紹介します。教育行政において、この2年間、何が起こったか。義務教育改革の行方、これからどのような日本人を育てていくべきか、国立大学法人の課題などについてお話いただきました。


この4月より、文部科学省事務次官から放送大学の幹事になりました。文部科学省事務次官として、この2年間、どんなことを課題としてきたかということをお話ししたいと思います。

この2年間を振り返ってみると、教育の当事者として4つの課題を抱えていました。それは、

1)教育基本法の改正
2)大学改革・法人化
3)義務教育の国庫負担縮減・廃止
4)子どもたちをどう育てていくのかいわゆる学力低下の問題

の4つです。

教育改革のプロセスは、20年前の臨教審から、第3の教育改革をどう発展させていくか、ということを課題に進められてきました。その際には、教育改革の理念として、

1)個性重視
2)国際化、情報化への対応
3)生涯学習体系への移行

の3つを挙げていました。このうち、社会の情報化などは、当時の予想以上の速さで進んでいます。生涯学習についても、たとえば放送大学は20年前から学生を受け入れていますが、現在では10万人の学生を登録するまでになっています。

大学の改革に関しては、大学審議会に数多くの大学人が集まり、問題解決のために議論を重ねてきました。その結果、自己点検評価から、平成16年に第三者評価の導入に移行しました。この第三者評価は大学として国際的なスタンダードであり、大学人が大学改革に取り組んだ結果として評価できます。また、平成16年に実施された大学法人法によって、人事権がすべて文部大臣から離れました。これからはこの新しい制度を大いに活用し、前向きに生かしていくべきだと思います。

教育基本法の改正については、平成11年、当時の中曽根文部大臣から基本法の見直しが必要との発言があり、平成12年12月に見直しの提言が出されました。これは、戦後60年同じ理念のままで21世紀に対応できるのか、という思いがあってのことです。これは大きな方針の転換でしたが、国民の間にもこの提言が受け入れられる素地があったと思います。

そして、たとえば平成4年には学校5日制の導入が開始され、平成14年にはすべての学校で5日制が導入されました。つまり、5日制の導入には10年をかけたことになります。それだけ長い時間をかけたにもかかわらず、その間に感じたのは、国民の考え方をひとつにするのは難しい、ということです。その証拠に、いまだに「学校5日制は教員のために導入したのか」という意見を聞くことがあります。

教育基本法については、平成13年に中教審への諮問がなされ、平成15年3月に中教審からの答申がありました。答申の基本方針は、基本法の理念のうち、時代に関わらず普遍的なものはそのまま受け継ぎ、今の時代に欠けているものについてはこれを付け加える、というものです。

 またほかの内容としては、教育の場を学校中心から地域・社会へ移行させる、義務教育中心から、高等教育や私学の現状を受け止め、将来への取り組みを進める、というものがあります。また、子どもの現状については、公共に対する意識がひじょうに低い、という指摘があります。そのため、伝統や文化の尊重、国際社会の一員としての振る舞いが強く求められ、これらの対応を盛り込んでいく必要があります。

この改正案は、現在政府の手を離れ、与党で議論されています。平成15年6月からは、与党のトップレベルで協議会が置かれ、基本的に週1回議論が重ねられています。今年の5月11日には文科省の仮案を提出しましたが、今後さらに議論を進めていくことになっています。

義務教育の問題については、国庫金負担の問題だけでなく、理念に照らし合わせて見直しをする必要があります。わが国の義務教育にかける費用はGDPの2.5%ですが、アメリカではGDPの3.5%をかけています。日米比較で見ると、日本の義務教育への費用が少ないことがわかります。

現在、ざっといって義務教育の負担は、国が3兆円、都道府県が4兆円、市町村が3兆円、となっています。明治以降、わが国では義務教育は市町村の責任とされてきました。そして戦前に義務教育の国庫負担制度ができています。この制度は昭和25年に一度廃止され、28年にまた復活しています。

昨年8月、全国知事会などで義務教育国庫負担金をなくし、今後は交付金として交付する、という決定がありました。この件については、今年の秋までに中教審が結論を出すことになっています。しかし、教育の国家の責任であり、教育を受けさせることは国民の義務であることを考えれば、義務教育の国庫負担制度はぜひとも守っていくべき制度だと思っています。

時間が残り少なくなってきたので最後に簡単に学力低下の問題にふれますが、現在マスコミでなされているような「右か左か」、「ゆとりか学力か」という報道に振り回されることなく、「どのような日本人を育てるべきか」という視点に立って、現場でしっかり考え対応を進めていくことが重要なのではないかと思います。

(取材・構成/堀内一秀)


 

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