2005.06.07
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ポスト2005年の教室はどうなる?

ポスト2005年の教室はどうなる?

教育の情報化はどこまで進んだのか。学校での情報教育はどうあるべきか。教師は情報をどう教えるのか!? 「New Education Expo 2005 in 東京」からメディア教育開発センター理事長の清水康敬氏の基調講演、金沢大学教育学部助教授 中川一史氏らによるパネルディスカッションの模様をお伝えします!


清水康敬氏

1)基調講演- 学力とITC
独立行政法人 メディア教育開発センター理事長 清水康敬

 清水氏の講演は、2003年度のPISAとTIMSSの結果紹介から始まった。そこで特に問題となるのは、数学・理科好きの割合が、日本はほとんど最下位である点だ。それも小学校から中学にかけて学年が上になるほど勉強嫌いが増えている。勉強の好き嫌いと成績に明白な相関があることを考えれば、成績が下がったことよりも勉強嫌いが増えていることの方が重要な問題となるはずだ。

 次に、生徒が情報を得るために用いる手段と成績との相関を見ていると、どの科目においてもインターネットを使っている生徒の成績が、新聞やテレビに比べて高いことがわかる。では、教師の反応はどうかというと、やはりどの科目においてもインターネットやデジタルコンテンツを使った授業が、子供たちの学習への興味を引き出すという回答が出ている。また、教師の評価をIT研修受講経験で見てみると、研修を受けた教師ほどITを高く評価していることがわかる。つまり、ITは生徒の学習意欲を引き出し、成績を上げる有効な手段になりうる、ということだ。このことは、イギリスにおける実績にも裏付けられる。

特に、授業においてICTを活用できるのは次のような場面だ。

1) 関心を持たせて学習意欲を高める。
2) 黒板ではできない提示による説明。
3) 課題を提示して考えさせる。
4) 知識を広げ、発展させる。
5) 体験学習で考察を深める。
6) 討論によってコミュニケーション能力を高める。
7) 学習した内容をまとめて発表させる。
8) 習得した知識・スキルを定着させる。

 その一方、コンピュータで指導できる教員の割合を都道府県別に見てみると、地域格差がかなり大きい(1位と最下位では倍以上)。また、普通教室へのコンピュータ整備率、LAN整備率も、2005年度末100%の目標に対してかなり低い水準で推移している。また、LANの整備率に関しては、都道府県、市町村の格差が大きいことも特徴的だ。

 ただし、高速インターネットの接続割合は目標に対してかなりいい線で推移している。また、LANの整備率は1年で急激に高くなった地域があり、予算があれば短期間に数字を上げることも可能だ。このような特徴から、ノートPCや無線LANの活用が日本では有効であると思われる。

 


 


コーディネーターを務める
中川一史先生

2)パネルディスカッション
ポスト2005年の教室をこう考える
~情報教育系中川一族の野望~

金沢大学教育学部教育実践総合センター
助教授
中川一史
(コーディネーター)
文部科学省初等中等教育局 参事官 中川健朗
徳島県池田町立池田小学校 教諭 中川斉史
広島市立安東小学校 教諭 中川祥子

偶然にも中川姓が4人そろったパネルディスカッション。会場では、一史(兄)、健朗(叔父)、斉史(弟)、祥子(妹)という設定でディスカッションが進められた。この設定からも推測されるように、ディスカッションは終始ユーモアに富みながら、充実した内容になった。
 


まずはコーディネーターの一史氏の、2005年の教室はどうなるのか、2005年以降の教室はどうなるのか、という話から始まった。現在、教育現場でのIT環境・活用は着実に進んでいる。パソコンをはじめとするIT機器の台数は増加し、古い機器は更新され、使えるソフトの数も増えている。しかしポスト2005年を考えると、二極化がさらに進んでしまうことが懸念される。それは、地域間の格差、学校間の格差、教師間の格差の3つに集約される。これをどのように改善していくか、人的支援をどのように進めていくかが今後の課題として提示された。

次にパネリスト3氏から現状の取り組みが報告された。

健朗氏は、行政側の立場から今回の野望の目的、そこへ至るまでの道筋を説明した。まず目的は次の4つ。
 

1) 子供が楽しくなること
2) 子供の目を輝かせること
3) 先生がいい授業をすること (先生も楽しむこと)
4) 先生が楽になること

そして、この目的を達成するための道筋として、次の3点を挙げた。
1)ITを使いこなせるようになること
2)e-Japanの数値目標を達成すること
3)地方交付税で措置された予算をきちんと使うこと

教育現場でITを普及させるためにはお金がかかる。必要な予算を確保するためには、予算がどのようにして決められるのか、など予算編成の仕組みや構造をよく理解することが強調された。

内閣府の調査結果によれば、教育と医療の分野はITの恩恵をあまり受けていない。まずは、教育分野はITへの対応が遅れていることを認識すべきだと指摘した。しかし、実際に教育分野におけるIT充実のための地方交付税の額は増えている。ただし、その使い道に関しては地方の首長に委ねられているのが現状だ。LANの整備率などを見ても、高校はともかく小・中学校での整備率がきわめて低い。これは市町村の財政が厳しいことの表れでもあるが、その点を克服しないと、地方格差の拡大が防げないことも強調された。

次に、地域コーディネーターの立場から斉史氏が発言した。斉史氏は昨年まで地域コーディネーターとして仕事をし、今年6年ぶりに担任をもつようになった。そして感じた現状としてはまず、地域や学校の格差が大きすぎることを指摘した。たとえば、学校によってはISDNすら導入できない。教師用のパソコンがない。学校にプロジェクターがない。職員室のネットワークすらない。

これらのことを踏まえ、現場への課題が提出された。

1) 学校の文化として、IT利用が根付いていない
2) 計画性がなく、要求が行き当たりばったりになりがち
3) 要望されたものを支給しても使われないことがある
(支給されたときに、要望した教師がすでに異動しているなど)
4) LAN接続の設計を、思いつきでしている
などである。

このような現場での課題に対し、地域をコーディネートするセンターでの課題も提出された。それは、

1) セキュリティ=制限すること、だと思っている
2) 教師に研修をすれば、ITを使いこなせると思っている
3) パソコンに詳しいだけで(教育の現場を知らないで)
重要ポストにいる人がいる
4) 教育の現場を知らない人がシステム設計に携わっている
などだった。

たとえば1)のセキュリティについては、「誰のためのセキュリティなのか?」ということが最も重要で、セキュリティは管理者のためにあるのではなく、ネットを利用する先生・子供の情報保護が大切だという点で意見の一致を見た。

このような論点から、斉史氏は次のような設備ポリシーを進めている。まず、セキュリティやウイルスの問題を考えるならば、市販されているレンタルサーバーの利用が最も適切だ、という点。


弟役の中川斉史先生

次に行政の側と同じサーバを利用するなら、まず行政と教育を分けることを勧めている。その後にファイアーウォールを入れるような形にしないと、いざ使おうと思ったら、ポートのすべてが閉じていた、という状況にもなりかねないからだ。また、学校によって状況が異なるので、コンテンツフィルターのたぐいは学校単位で設定するように勧めている。

次に祥子氏から、実際に現場でどのようにITを活用しているか、という実践例が紹介された。広島市立安東小学校では、北海道の西美唄(びばい)小学校と共同で、インディカ米の育成を行い、共同ビデオを作成した。

この活動は、初めは単なる学級間の交流から始まった。動画掲示板を使って生徒が写真や動画を送り、そのため生徒はデジカメスピーチの練習をしたという。スピーチの練習をすることで生徒たちは、伝えたいことを絞って伝える、わかりやすい文章にする、相手の立場に立って伝える、などの能力が向上した。

そうやって交流を続けていったが、ただ写真や動画を送り合うだけではお互いの行動につながりが生まれにくい。そこで共同作業の目標としてインディカ米の育成をして、共同でビデオを作成することにした。

このような活動の成果として、生徒が楽しみながら効果的な表現ができるようになった、仲間意識が生まれお互いの活動をつなぐことができた、と祥子氏は評価する。

 各自の現状発表を終え、一史氏より3氏に質問が出された。まずは健朗氏に対しては、地域差をどのようになくしていったらいいのか? という点について。これに対し健朗氏は、行政の主体が国から地域に移りつつある時代の流れを説明し、その上で、格差は地域の判断・個性の結果でもあるという見方を示した。ただ、どこまで格差があってもいいのか、という点については国が適切に援助をする必要がある。格差で被害を受けるのは学校で学ぶ子供たちだ。そのことに親や教師が気づき、対応を勧めていく必要がある。

次に斉史氏に対し、コーディネーターとして学校に関わる際のポイントが尋ねられた。斉史氏はこれに対し、関わりを持ついろいろな人の立場を考慮し、その人の立場が必要とする説明の重要性を挙げた。たとえばIT担当者に対して、教育委員に対して、教師全員に対して、何が必要とされているのかまず理解する、ということだ。その成功例として、2002年にある学校で教師全員にパソコンを配布した例を挙げた。この時には、教師ひとりひとりに対してどのような使い方をしたいかを聞き、その使用法に合わせてパソコンの仕様とアプリケーションを設定した。その結果、パソコンを導入した学校ではITを使った授業が顕著に増えた、ということだ。そしてこうした成果を教育委員会に伝え、現場にデータを返すことの重要性を訴えた。

次に祥子氏に対しては、こうした取り組みを一般の学校で進める際、敷居が高いのではないか、という問いかけがなされた。安東小学校では、活動を始める時点でデジカメがなかった。そこで企業に呼びかけ、各グループ一台分の提供を受けたという。そのデジカメを元に、現在では隣のクラスでも活動を広げ、交流学習の輪を広げている、ということだった。また、教員の研修会にデジタルコンテンツを導入し、教師の間でもちょっとした機会を利用してデジタルに対する違和感を取り除くことも重要だと語った。

まとめの前に、会場から多数出された質問を代表して、「ITの活用で、教師が楽しむのは難しいのではないか」という質問が取り上げられた。これに対し達朗氏は「現場の教師でないと解答は難しい」と答え、斉史氏は、ITの使い方を工夫することで教師自身も楽しめるのでは、と指摘した。その例として、生活指導にデジカメの写真を利用した事例を紹介した。祥子氏は、今生徒にデジカメを持たせたばかりで、子供が何でも撮ってくるのを楽しんでいる、と自分の体験を語った。また斉史氏が、ITの使用に関しては、まず初めに「遊び」の要素があるのではないか、という。本来の使い方は後回しにして、まず教師自身が楽しむ、その楽しむことを通してレベルの向上を目指せば教師も楽しめるはず、との意見だった。

最後にまとめとして健朗氏は、技術が進み機器が使いやすく安価になっている現在、みんなが楽しくなる環境を早く達成したい、と述べた。世の中が変われば子供が変わる。そのためにも地方自治体のIT戦略本部や、IT関連企業などをもっと活用してほしい、という。
 

まとめにコーディネーターの一史氏からは、教育のIT化に関しては、トップダウンとボトムアップの両面から攻めていく必要がある。「ひとりが十歩進むより、住人が一歩進む」ような活動にしていきたい、との言葉があった。

(取材・文:堀内一秀)


妹役の中川祥子先生

叔父役の中川健朗氏(手前)

 ※当記事の情報は、公開当時のものです。

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