2004.11.23
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デジタル時代、子どもの創造力・表現力はどう変わる? 総務省主催シンポジウム ネット、キッズ、ポップ

デジタル時代、子どもの創造力・表現力はどう変わる?

11月17日午後、総務省地下講堂にて、「ネット、キッズ、ポップ」と題してシンポジウムが行われた。このイベントは、政府のデジタルコンテンツ政策の一環で、総務省が主催するもので、共催は、子どもの参加型創造・表現活動を進めるNPO法人CANVAS。シンポジウムテーマは、前半「子どもの創造力と表現力」、後半「ポップカルチャー政策」の2部構成。この第1部に参加した。

 総務副大臣 山本公一氏による冒頭挨拶のあと、CANVASが今年1月開催した、「ワークショップコレクション2004」のイベントの様子がビデオで紹介された。CANVASは、「デジタル時代に国民ひとり一人のコンテンツ創造力を高め、国際的に情報を発信・共有できる環境を整えることを促進する」ことを目的としたNPO。「ワークショップコレクション2004」では、コンピュータを使って絵を書いたり、CGやアニメーションを作るなど、デジタルを使った表現の世界を子どもたちが体験した。子どもたちは、"デジタル"という世界に何の抵抗もなく解け込み、ワイワイ言いながら、イベント当日に初めて出会ったソフトを使って自由に作品を作っていく。ネット犯罪や佐世保の事件など、デジタル・ネットワーク社会についてネガティブなイメージを持つ人も少なくないだろう。しかし、デジタル社会に光と影があるとすれば、映像の中の子どもたちはまさに光の中。デジタルという技術を使って、アナログではできない自由な表現の世界を楽しんでいた。


 
ワークショップコレクション2004の様子(写真提供:CANVAS)

 


中村伊知哉氏

 続くパネルディスカッションでは、パネラーたちが、壇上ではなく、フラットなスペースに円形に並べられたテーブルにつき、その周囲を参加者の椅子が同心円を描いて取り囲んでいる。パネラーたちは互いに「~~先生」ではなく「~~さん」と呼び合うというルール。リラックスしたムードの中で議論が始められた。
 ファシリテーターはスタンフォード日本センター研究部門所長で、CANVAS副理事長の中村伊知哉氏。パネリストは、ゲームクリエイタ―、コンテンツ制作に携わる企業人、大学の先生、学校教師など多彩な顔ぶれ。

(五十音順、敬称略)
飯野 賢治 ゲームクリエイター・株式会社fyto代表取締役
石戸 奈々子 特定非営利活動法人CANVAS 理事兼事務局長
鈴木 均 日本電気株式会社CSR推進本部 統括マネージャー
鶴谷 武親 フューチャーインスティテュート株式会社 代表取締役社長
松浦 季里 ビジュアルプロデューサ
三橋 秋彦 墨田区立竪川中学校 主幹
山内 祐平 東京大学大学院情報学環 助教授
山田 真貴子 世田谷区助役
渡辺 康生 株式会社ベネッセコーポレーション 教育研究開発本部主任研究員

 


三橋秋彦氏


飯野賢治氏

 

 議論は、「今何が起こっているのか?」「なぜ今、子ども+デジタル+表現なのか?」「日本の子どもは表現が得意か?」「課題は何か?」「情報化の光と影?」「学校と企業と地域の役割はなにか?」という順で進められた。
 興味深かった発言を一部紹介したい。


●ゲームクリエイターの家庭でも子どもにゲームは禁止!?

 現役の中学校教師である三橋氏は、学校での情報教育について現状を述べ、「今学力低下が問題となっているが、創造力や表現力も教師が子どもにつけさせなければならない"学力"。これをきちんと教えるために、教師の力量が非常に問われるようになってくるだろう」と、問題を提起。
 家庭でのデジタル教育はどうなのか。ゲームクリエイターの飯野氏が答える。氏は幼稚園のお子さんの父親でもある。

「我が家では、小学校まではゲーム禁止。幼稚園からゲームなんかさせてたらダメです!」ほかならぬゲームクリエイターからの発言に会場から笑い声が。「子どもは、たとえばペットボトルを飛行機だといったりロケットだと言ったりして、いくらでも遊べる。大人にはできないことです。子どもは小さいうちに、こういう想像力や、工夫する力を充分に養う必要がある」


小学生になる子をお持ちで、かつては総務省で情報流通のルール作りに携わっていた山田さんも

「うちではゲームばかりかテレビもほとんど見せない。子どもには少なくとも2歳まではゲームは禁止。今、情報があふれすぎていて、何もしなくてもどんどん与えられる。インターネットが登場した時に、これからは誰でもメディアの作り手になれる、双方向型のコミュニケ―ションができる、と言われましたが、実際はそうはなっていない。子どもは小さいうちに、自分で工夫して何か作り出すことや、人ときちんと話すことを充分にしていないと、情報をただ一方的に与えられることしかできなくなってしまう、情報の作り手にはなれないと思うのです。」

 


鶴谷武親氏


山田真紀貴子さん


松崎季里さん

 

●日本人の表現力は結構イケてる!

 ところで、よく「日本人は応用力はあるが、独創性がない、表現力がない」といわれるが実際はどうなのか。長くアメリカで仕事をされていた鶴谷氏によると、

「日本人の表現力は結構イケてる、と感じました。アメリカでは、1970年代~80年代の日本の高度成長に驚異を感じ、理科系の教育に力を入れた反面、芸術教育をないがしろにしてしまった。その結果、今になって、優れたクリエイターはほとんどがアジア系の外国人であることに気づいた。ハリウッドスタジオに勤務しているのは外国人ばかり、という状況に、アメリカは大変焦っているのです。日本では、だれでも絵が描けたり、縦笛が吹けたりする。これはすごいことで、義務教育の功績だと思います。アメリカ人は絵を描かせたらとてもヘタだし、だれでもが楽器を使えるわけではない。筆が使え、楽器が鳴らせられるから使いたくなる、それがクリエイティビティにつながっていると思います」

「日本の表現って独特なんですよ。世界中のCDや本がすぐに手にはいるという環境にあり、なんでも採り入れる柔軟性がある。テクノあり、ハウスあり、メロウありのごちゃまぜのポップ性、これは日本独特の世界だと思います」と飯野氏。

●大人は汚いことをしているのに子どもだけきれいな世界、は無理!

 佐世保の事件以来、子どもとデジタルの関係が問題となっているが?という石戸さんの発言に答え、山田さんは

「よく、子どもにはインターネットを使わせない、と、子どもを隔離することを主張する人がいるが、大人は汚いことをしているのに子どもだけきれいな世界に隔離することはできない。これからは、子どもといっしょにルールを作っていくべきではないでしょうか」

「包丁を使うのと同じだと思うのです。危なくても、きちんと使い方を教えて使わせるべき。まず、こうやって使うのよ、と技術を教え、次に、人に渡すときは刃を自分の方に向けてね、と使い方のルールを教える。デジタル場合、大人のほうが技術を教えるのに精一杯で、モラルどころでない、というのが今の現状なのでは?」とデジタルクリエイタ―の松浦さん。

NECの鈴木氏は「自分の身は自分で守る」ことを子どもに教えるべく、ご自身が手がけた、インターネット上の仮想空間で、デジタル社会のマナーやルールを学べる「あんぜん・あんしん・インターネット~家族みんなで楽しむために」(http://www.nec.co.jp/literacy/kids/)を紹介。


 


鈴木均氏


渡辺康生氏


山内祐平氏


石戸奈々子さん


パネラーたちのコラボレーションによるキャッチフレーズ

 

●何かというと「地域、家庭で」というのはちょっと難しい?

学校、家庭、地域は何をするべきか、という議論の中で、

 「そろそろ情報教育は情報担当の先生ではなく、安全教育担当のほうでやってくれ、と思いますね。交通安全を教えるのと同じように、情報モラルも教えるべき。でも、そのためには教える方の大人のデジタルデバイドが心配。これだけ社会が進んでいるのに、学校の情報インフラはあまりにも脆弱です」と三橋氏。

学校の現状を聞いて、飯野氏は

「え、そんな状況なんですか。デジタル時代の到来、とか言われて20年以上も経つのに? それでは表現とか創造とか言ってる場合じゃないですよ!」と驚きの声をあげるという一幕も…。

「悪いことをしたら町のおやじが叱るような、そういうことがデジタルの世界でもあっていいと思う。まずは、家庭や地域でデジタル世界のしつけをするべきでは」ベネッセコーポレーションの渡辺氏。

「こういう議論をしていると結局最後には、『地域、家庭で』、とよく言われるのですが、現実味がない。やはり学校が中心になるべき。地域や家庭にまかせると、苦手な家庭や地域は取り残される」と鶴谷氏。

「新しい動きが出るとネガティブに捉われがち。この動きがサスティナブル(持続可能)な動きとなるためには、評価基準も必要だし、ルールや工程表が必要」と山内氏。

 新しい社会のルールをこれからどうしていけばいいのか、とますます議論が盛り上がりそうなところでお開きの時間に。

 締めくくりに、「提言として、何かキーワードを出しましょうか」と中村氏。子ども、表現、技術、想像力、場、と言葉が出され、それを石戸さんがパソコンに打ち出し即時にスクリーンに表示される。パネラーたちの声をつなぎあわせてできたキャッチフレーズは…

「デジタル時代の 創造・表現を楽しめる 場や技術を 子どもたちに与えよう」

 もはや後戻りできないデジタル化の流れ。その流れは、ルールや仕組みができあがるよりも早く、私たちの日常生活の隅々まで広がっている。一方で、いち早くデジタルの自在性、拡張性を直感的に感じ、新しい創造の世界を広げつつある子どもたち。彼らがデジタル社会の闇ではなく、光の部分で活躍できるよう、大人たちは導いていかなければならない。

(取材・構成/学びの場.com 高篠栄子)


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