2003.04.22
  • twitter
  • facebook
  • google+
  • はてなブックマーク
  • 印刷

動物園・水族館での教育を考える 社団法人日本動物園水族館協会シンポジウム

動物園・水族館での教育を考える

「動物園や水族館の持つ生涯学習施設としての機能・役割を再確認し、これからの可能性や課題を探る」2003年3月15日、東京大手町のサンケイプラザにて社団法人日本動物園水族館協会主催の「動物園・水族館での教育について考える」というシンポジウムが開催された。園館関係者、教育関係者など多数集まり、実際、動物園を利用した授業を実践している小学校教諭や受け入れる側である動物園解説員などの発表やパネルディスカッションで盛り上がった。




 
 












 
 
 

無藤隆さん





石井雅幸さん
 
 
 



佐藤哲さん

 
 

 

草野晴美さん











                 



















博学連携ワークショップ(福岡)






オリエンテーリングの検証(東京)






動物解説パネルの作成(大阪)






石田おさむさん

 会場となった東京大手町のサンケイプラザには、動物園水族館関係者を中心に、教育関係者、学生、NPO関係者など約160名が集まった。中には当日の午前中まで東京の葛西臨海水族園でのワークショップに参加していた人たちも含まれている。


■動物園・水族館でしか体験できないこと

 動物園水族館協会では平成12年度より3カ年計画で文部科学省の委嘱を受け、動物園水族館での教育普及推進事業を展開している。これは、近年の情報化・高齢化に伴った生涯学習のニーズが多様化したことや、学校教育が見直しされるようになったことを受けてのことである。また、総合的な学習の時間が始まり、学校の利用形態も広がりを見せていることから、初年度は教育事業の現状調査・分析。次年度は新しい教育プログラムの開発を行った。最終年度である今年度はより実践的に取り組むため、園館関係者以外の人材を交えた教育方法論的研究や、動物園水族館施設での教育事業推進ワークショップを開催し、開発したプログラムの見直しを図っている段階だという。

 プログラムは4名の講演から行われた。

 無藤隆さん(お茶の水女子大教授・発達心理学)は「子供の発達に応じた学習」と題して、人間にとっての生き物の意義や、子供たちへの働きかけの方法について例を挙げて話した。これからの動物園水族館は、「見る」だけではない見る側の年代・目的に応じた科学的情報の提供ができることが重要だとし、それには、本来の生息環境に近づけた展示や、解説員の設置が有効だと言う。

 小学校で動物園を活用した授業実践を行っている石井雅幸さん(東京都府中市立府中第一小学校教諭)は、「学校からみた動物園・水族館」と題して、自らの実践をもとに話した。石井さんは「今まで、小学校から見た動物園は「遠足の候補地」だった。すなわち学校のイベントのひとつで、出かけてお弁当を広げ、動物を一通り眺めて帰る、いわば「集団行動を学ぶ場所」に過ぎなかった。それが現在では、動物園は子供の学びの場として、また、動物園の動物は身近な教材になった」と言う。石井さんが考案した小学校の教科と動物園との関連は、下表のようにあらゆる教科に渡っており、動物園は子どもの学びの可能性を広げる絶好の場となることがわかる。

 (表) 動物園と小学校各教科の内容との関連(一例)

国語 国語の教科書の中には、沢山の動物が登場する。
中でも、説明文には動物を扱った題材が多い。
社会 人とのかかわりの中での動物(食料生産に関係する動物)
自然環境の中の動物と人々のくらし
理科 昆虫の体のつくり、昆虫としょくぶつのかかわり、昆虫の成長(3年生)
季節の変化と昆虫、動物との活動の変化(4年生)
人や魚の発生と成長(5年生)
生き物と水、空気、食べ物とのかかわり(6年生)
植物を食べる動物(6年生)
生活 生き物の世話
音楽 曲の中に登場する動物
図画工作 動物の絵や立体作品つくりの対象
体育 表現運動の中に登場する動物の動き
道徳 自然や崇高なものとのかかわりに関すること
総合 環境に関わる内容等

 授業の中で動物園を活用するためには、解説員との連携が欠かせない。石井さんは解説員との連携に当たっては、まず学習目的を明確にすること、学校が何を用意し、必要か考えること。次に、事前学習での様子を解説員に報告、事後学習での協力依頼をすることで解説員ともスムーズなやり取りが可能となる。最後にその学習結果を動物園にフィードバックすれば、動物園側にとっても今後のプログラム開発や学校への対応に役立つだろう。このように動物園と学校の双方で「協力してつくりあげていく」意識を持つことが大変重要だという。

 次にWWFジャパン自然保護室長の佐藤哲さんによる「動物園・水族園は何を伝えようとするのか?」。佐藤さんは東京都葛西臨海水族園にて嘱託として教育活動研究をしていた経験から、動物園・水族館の社会的使命や「動物園・水族館でしかできないことを考える」として、リアルタイムに生きた動物を見せることができる利点を活かすこと、子どもたちの科学的観察を支援する必要性、多様なメディアを活用することなどについて提案した。

 講演の最後は、東京都多摩動物公園動物解説員の草野晴美さん。「動物園での学校向けプログラム」と題して、多摩動物公園で草野さんが実際に行っているプログラムについて話した。(下表参照)その中で今回は、「観察カード」を用いた観察指導を例に挙げ、学校側の動物園に来る目的と実際の動物園との間に存在するズレをなくすために事前によく相談することや、子どもたちがどれだけ「気付き」、その「気付き」を正しく理解しているかを支援することが動物解説員の役目であると話した。また、この観察指導の延長にある「子ども動物解説員」プログラムにも触れ、内容や子どもたちの反応、一般来園者への効果、問題点・対策案などをまとめた。

 (表)
 多摩動物公園で行われている主なプログラム

形態 方法 教科
ガイド コースガイド、スポットガイド 遠足
生活科
クイズラリー 動物を見ればわかる問題
レクチャー うんちの出展、動物の見方 生活科
総合
理科
観察指導 直接指導、観察カード
昆虫教室 コオロギ相撲、虫いろいろ

 その後に行われたパネルディスカッションは、先の講演者4名に、小川潔さん(東京学芸大学教育学部助教授)、嵯峨創平さん(IDEC環境文化のための対話研究所主宰)が加わり、石田さんがコーディネーターとなって進められた。パネラーや参加者からの質問をテーマに行われ、「個別化への対応について」や「長いスパンで考えた動物園体験の意義」、「解説員がいない園館ではどう対応すればよいか」など予定時間では収まりきれぬほど盛況であった。


■産学協同でプログラムの検証
                  ~全国4箇所で開催のワークショップ


 ワークショップは福岡、広島、大阪、東京と全国4箇所で開催された。

 東京会場では葛西臨海水族園にて毎週土曜日に行われるプログラム「オリエンテーリング」の検証を行い、改善策を検討・試行し、その評価を行った。現在、行われている一般来園者向けのオリエンテーリングを体験し、クイズの内容から言葉遣い、パネルの書体などビジュアル面まで様々なアイデアが提案された。この考えた改善案をパネルにまとめ、園内に掲示し、実際に来園者に参加してもらった。オリエンテーリング実施と同時に、「会話の聴き取り」「追跡」「アンケート」の3つの手法によって、来園者の調査も行った。

 動物解説パネルの作成プログラムを実施したのは大阪の天王寺動物園。園内を下見してパネルの設置場所、対象動物を決め、解説内容やどんなことを伝えたいか、手法、などを参加者たちが意見を出し合って作成した。作成したパネルは実際に展示し、一般来園者の反応から、さらなる工夫点や改善点を再考することができた。


■動物園・水族館に期待される効果的な教育事業の開発

 本シンポジウムのコーディネーターを務めた、社団法人日本動物園水族館協会教育推進事業委員長の石田おさむさんは終了後、「3月15日という教員にとっては、最悪の日程でしたが、期待通りの参加者数で、主催者としてはほっとしたというのが正直な感想です」と胸をなでおろす。また、今回のシンポジウムを振り返り、こう話した。「動物園・水族館の教育関係者は一様の悩みを抱えています。来園館者の多くが、小さい子どもであり、彼らにどのようにメッセージを伝えるか、短い時間の通りすがりの来園者に強い印象やその後にも残る観察を誘導するためにはどうしたらよいか、学校関係者・教員とどのように接触し、利用してもらうのか、など教育に携わる職員には、必須の問題についての討論がなされたことは、主催者としては大いに満足しています。現在の問題に少しでも切り込むことができたと思っています」

 今後の抱負については、「動物園・水族館の社会的役割の一つに教育が語られて久しいのですが、その課題を効果的に推進するのは、並大抵のことではありませんでしたし、今でも成功しているとは思いません。今回のワークショップやシンポジウムを通じて、これらの困難さが分かるとともに、解決への道筋がほのかに見えてきたので、次年度以降は具体的に実行する手法などを探求して、全国どこの動物園・水族館でも、来園・来館して、感動を得たり、発見をしたりできるような状況を作っていきたいと改めて感じています」と語った。

 最後に石田さんから学校の先生にこんなメッセージが、「学校からみると、動物園や水族館はあまり利用できないようにうつるかもしれません。しかし、ここのところ大きく態勢が変わってきています。学校受け入れ窓口も開かれてきましたし、プログラムの用意もあります。動物園は豊かな教育の可能性のある場です。動物園を大いに活用して、子どもたちの発達と発見の場にしてください」

(取材・構成:学びの場.com)



■参照URL

社団法人日本動物園水族館協会HP http://www.jazga.or.jp/

 

pagetop