2012.07.03
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17th New Education Expo 2012 in 東京 現地ルポ(vol.2)

17th New Education Expo 2012 in 東京 現地ルポ(vol.2)

「New Education Expo 2012 in 東京」が6月7~9日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。今年で17回目を迎える本イベントでは、「教育の情報化」「大学教育改革」など3日間で計4本の基調講演が行われた。現地ルポ第2回目は、このうち3日目に行われた清水康敬氏(教育の情報化)、鈴木寛氏(教育改革)の模様を紹介する。講演はいずれも札幌、帯広、福岡の各サテライト会場にライブ配信された。

【基調講演】清水康敬氏、鈴木寛氏らを迎え、新時代の教育の在り方を考える

1人1台の情報端末の学習環境新時代を目指して
東京工業大学 名誉教授……清水 康敬 氏

「フューチャースクール」20校の成果を手引書に

東京工業大学 名誉教授 清水 康敬 氏
東京工業大学 名誉教授
清水 康敬 氏

東京工業大学名誉教授の清水康敬氏は、自らが推進研究会座長を務める総務省の「フューチャースクール」について、今年3月にまとまった「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン(手引書)2012~フューチャースクール推進事業2年目の成果をふまえて~」の内容を紹介した。

フューチャースクールは文部科学省とも協力し、主に情報通信面を中心とした課題を抽出、分析する事業。現在、小学校10校(2010~12年度)と中学校8校(11~13年度)、特別支援学校2校(同)の計20校が指定され、実証研究が行われている。清水氏は、前年度のガイドライン2011と併せて「総務省のホームページからダウンロードできる。分かりやすく作り上げたつもりなので、ぜひご関心がある方はご覧を」と呼び掛けた。

NEE基調講演 東京工業大学 名誉教授 清水 康敬 氏

フューチャースクール実証校では、一人1台のタブレットPCや全ての普通教室にインタラクティブ・ホワイト・ボード(IWB=電子黒板)を配備するとともに、無線LANやクラウド・コンピューティング技術の活用などのICT環境が構築される。タブレットPCは家への持ち帰りを認め、家庭との連携についても研究している。昨年3月に起こった東日本大震災を受けて震災時の対応について触れているのも、手引書2012の特徴だという。

使えば使うほど負担感は軽減

NEE基調講演 東京工業大学 名誉教授 清水 康敬 氏

実証研究では、ICTを効果的に活用することで授業の双方向性を高め、児童・生徒が互いに教え合い、学び合う「協働教育(学習)」を想定している。小学校では10年度と比較して、11年度の1学期に活動の割合が増えたのは「同じ問題について、学級全体で話し合う場面」が11.9ポイント増の47.7%、「一人が発表したことについて、学級全体で考える場面」が3.9ポイント増の37.2%など「話し合いに重点が置かれている」と清水氏は評した。活用した教科・領域等は国語や算数が圧倒的に多いが、総合的な学習の時間や社会でもよく使われており、2年目では図工や音楽、学校行事でも割合が増えている。

IWBは「理解を深める場面」「発表させる場面」など多様な場面で活用されているが、とりわけ「課題を提示する場面」では10年度に比べて大幅に増えている。教員に尋ねても「使いやすい」との評価は変わらず、教材準備や立ち上げ、片付けなど多くの項目で「負担でない」という回答が増加しているのは、支援員の存在に加えて「以前に比べ、かなり機能が向上している」(清水氏)ためで、使えば使うほど負担感は軽減されるという。

NEE基調講演 東京工業大学 名誉教授 清水 康敬 氏

教員のICT指導力も、実際に授業で活用することを通して「教材研究・指導の準備・評価」「授業中」「児童のICT活用」「情報モラル」「校務」と全項目で伸びた。

活用によって児童の「意欲」「理解」「表現や技能」を高めたり「思考」を深め広げたりするのに効果がある、という見方は当初から高かったが、2年目にはさらに増加。子どもたちも効果を実感している。

国力を上げるキーワードにも

NEE基調講演 東京工業大学 名誉教授 清水 康敬 氏

清水氏は最後に、小学校外国語活動のデジタルコンテンツや、中学校理科の実験での活用場面、テスト採点など支援システム例を紹介。児童・生徒の手書きプリントを読み取って自動採点・集計したり、複数の児童・生徒が書き込んだ白地図を重ね合わせたりすることもできることを示した。「フューチャースクールでは、本当に必要な、効果がある機能を明確にすることを目標にしている」と意義を強調。今後は「スマートフォン(多機能携帯電話)の教育利用も大きな視点になる。民間企業との連携も必要だ。『一人1台』は学力向上や指導力向上はもとより、国力を上げる一つのキーワードになる」と指摘して、基調講演を締めくくった。

日本の教育の課題と展望~人材のイノベーションによる日本の再生から教育の情報化ビジョンまで/2年間の文部科学行政を振り返る~
参議院議員・元文部科学副大臣……鈴木 寛 氏

教育との関わりは情報化から

参議院議員・元文部科学副大臣 鈴木 寛 氏
参議院議員・元文部科学副大臣 鈴木 寛 氏

鈴木氏と情報教育の縁は深い。教育との関わり自体も通産省(当時)官僚時代の「100校プロジェクト」(ネットワーク利用環境提供事業、1994~98年度)が始まりで、同省を“脱藩”後は母校・灘高校の情報科の教諭を経て慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部の助教授に就任している。New Education Expoにも第1回から携わったことから、「お久しぶりです」とほほ笑みながら基調講演を始めた。

学びに向かう能動的学習者の育成が急務

NEE基調講演 参議院議員・元文部科学副大臣 鈴木 寛 氏

「コンクリートから人へ」を掲げて政権交代を果たした民主党政権は、文部科学省予算の額が1年目で国土交通省予算と並び、2年目ではるかに超えるなど「予算構造の劇的な改革」を果たした。これは、日本の社会構造が劇的に変わっていることを反映させたものだという。教育や福祉、医療などの「ソーシャルヒューマンサービス(人に関する産業)」を中心に雇用を増やし、失業率を大幅に下げる成果を上げた。

文科省でも高校授業料無償化、奨学金の充実、コミュニティ・スクールなど新しい学校づくり、教員の質と数の充実など数々の成果があるが、情報化関係では何といっても総務省のフューチャースクールと対になる「学びのイノベーション事業」だ。目下の教育課題は子どもを「パッシブ・ラーナー(受動的学習者)からアクティブ・ラーナー(能動的学習者)へ」変えることにあり、いかに学びに向かわせるかが小学校から大学まで全ステージの課題だと鈴木氏は強調した。

NEE基調講演 参議院議員・元文部科学副大臣 鈴木 寛 氏

阪神、東日本と2度の大震災を経て、日本は本格的な「ポスト近代」に突入している。大量にエネルギーを使って大量生産・大量消費・大量廃棄の文明や産業構造を維持することは、もはやできない。「教育の課題はいかにして『近代の次』(卒近代)の時代を担う人材を作り出すか」であり、「人間のあらゆるアクティビティー(活動)がクリエーティブ・コラボレーティブ・アートワーク(創造的な共同制作の芸術作品)にならなければならない。教育はまさにアートだ」という。

ICT活用で一斉・個別・協働の学習を組み合わせ

NEE基調講演 参議院議員・元文部科学副大臣 鈴木 寛 氏

卒近代の社会では、知識の再生を中心とする「工業社会型人材」ではなく、論理的思考力や批判的思考力、情報編集力、コミュニケーション力を高めた「イノベーション(技術革新)人材」「成熟社会型人材」が求められる。教育も「一斉学習に加えて、カスタマイズ・ラーニング(個別学習)やコラボレーション・ラーニング(協働学習)のバリエーションを増やさなければならない」。そのためにも学校の教育力を高め、PISAの低位層(レベル2~1)の成績を引き上げることが公教育のミッション(使命)だと訴えた。

その際、ICTが大きな効力を発揮する。デジタル教材なら個々の学習者に合わせたカスタマイズも簡単だし、学習者がどこを間違えたかの「アーカイブ(保存記録)」にもなる。一斉学習・個別学習・協働学習、あるいは講義・対面対話・自然体験・実験・PCのベストミックスも容易になる。デジタル教材を支えるために単年度で800億円を交付税措置する教材整備計画(12年度から10年間)をスタートさせたのも、そのためだ。

3タイプの新たな「人財」育成を

NEE基調講演 参議院議員・元文部科学副大臣 鈴木 寛 氏

そうしたICT活用の教育を担う教員の質の向上も重要であり、学校・地域・保護者をICTでつなぐこともコミュニティ・スクールの課題となる。コミュニティの問題を解決するための「熟議」も、対面とネットの組み合わせが有効だ――。鈴木氏はこのようにさまざまな文教政策を関連付けるとともに、高等教育修了者を諸外国並みに増やし、(A)人類に新たな価値を創造するチームを担う人材、(B)日本で創造した価値を磨き、諸外国の人たちとコラボレーションして広げていく人材、(C)世代や立場を超えてコミュニケーションできる人材――の3タイプを「人財」として育てていくよう訴えた。

写真:赤石 仁/取材・文:渡辺敦司 ※文・写真の無断使用を禁じます。

 
 

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