2022.02.01
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『クレッシェンド 音楽の架け橋』国⽴⾳楽⼤学附属中・⾼オンライン特別授業(前編) 分断の時代…映画を通じて考える、音楽の「人と人をつなぐ力」とは

未だに紛争の続くイスラエルとパレスチナ。敵対する両者から若者を集めてオーケストラを結成し、和平コンサートの開催を目指す映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』。国立音楽大学附属中学校・高等学校で行われた特別授業では、同作の監督と脚本を務めたドロール・ザハヴィ氏をオンラインで迎え、生徒たちと対話してもらいました。主人公の若者たちと同世代であり、同じように音楽を学ぶ同校の生徒たちが映画を見て、ザハヴィ監督と交流することでどんなことを感じたのか。その特別授業の様子をリポートします。

『クレッシェンド 音楽の架け橋』国⽴⾳楽⼤学附属中学校・⾼等学校オンライン特別授業

●日時: 1月21日(金)
●学校名: 国立音楽大学附属中学校・高等学校
●鑑賞映画: 『クレッシェンド 音楽の架け橋』
●登壇者: ドロール・ザハヴィ監督(Zoom)

音楽家を志す若者たちの対立と葛藤、恋と友情を描く

『クレッシェンド 音楽の架け橋』© CCC Filmkunst GmbH

『クレッシェンド 音楽の架け橋』は、観た人全員に強烈なインパクトを残す物語だ。

スタートはまず、2人のカップルが自撮りしている映像から始まる。お互いの両親に自分たちがつきあっていることの報告。一見すれば微笑ましいという感じの映像。しかし男性側の言葉がちょっと気になる。それは「家には帰らない」という話をするから。また男性側が突然女性とは違う言語でベラベラと喋り、よくわからないという顔で女性が彼を見る(いずれ観客は女性がユダヤ人、男性がアラブ人であることを知る)。それがちょっとした不安感を煽る。

すると次の場面は急に夜になっており、2人が山道のようなところを歩いている描写となる。突然の閃光。車のヘッドライトが2人の姿を闇の中でクッキリと浮かびあがらせる。そして「動くな!」という言葉。おびえるカップルの表情。いかにも逃げることを促すように、カウントを数え始める彼氏。と同時に観客の不安は一挙に高まる。明らかに2人が何かから逃げ出そうとしていること、そしてその逃げ出す理由は只事ではないことが、2人の表情から見て取れるし、最初によぎった不安があきらかに『不幸』という結末に至るのを感じられるからだ。そしてカウント後、2人が走りだそうとするところで、映像はストップモーションとなる。

音楽が持つ「人と人とを繋ぐ」力を実感してもらいたい

イスラエル出身のドロール・ザハヴィ監督

といった具合に始まる本作は、厄介な問題に焦点をあてた作品だ。
未だに紛争中のイスラエルとパレスチナ。
こんないがみ合う両者から、若者たちを集めて世界的指揮者スポルクのもとでオーケストラを編成。和平への第一歩としようという企画が持ち上がる。
この映画はその楽団たちの辿る運命を描いている。

監督・脚本はドロール・ザハヴィ。
イスラエルのテルアビブ出身で、89年にドイツのベルリンに永住。そこで様々な制作活動を精力的に行っている。

そんなザハヴィ監督をオンラインで迎え、音楽家を目指す若者たちが通う、国立音楽大学附属中学校・高等学校の生徒たちと対話してもらうという特別授業が1月21日にオンライン(Zoom)にて実践された。
劇中に出てくる若者たちと同様、学校の仲間たちと日々切磋琢磨しながら音楽を奏でて生徒たちが、監督と語ることで、世界各地で分断が広がるこの時代に、音楽が持つ「人と人とを繋ぐ」力を実感してもらい、国際的な視点を得る機会にしてほしいという思いから企画されたものだ。

ザハヴィ監督とZoomでつながる生徒たち

1949年に設立された国立音楽大学附属中学校・高等学校は、オーケストラや吹奏楽、ソリスト、オペラやジャズなど、様々なジャンルで活躍する一流の音楽家を輩出してきた名門校。
人と人との繋がりを大切にしつつ、成長するという『くにおん』の精神を受け継ぐ環境の中で、海外の教育機関や音楽家たちなどとも盛んに交流をしている生徒たちが、この映画を見てどのような感想を持ったのだろうか。

日本の若者にとって、精神的にも物理的にも遠いパレスチナ問題

『クレッシェンド 音楽の架け橋』© CCC Filmkunst GmbH

そんな感想を尋ねる前に、まずはザハヴィ監督が口火をきった。

ザハヴィ監督「まず私の方から皆さんにお伝えしたいことがあります。この映画は2020年1月15日にプレミア上映という形で世界初上映されまして、ベルリン国際映画祭でシネマ・フォー・ピース、平和のための映画という、作品にとってかけがえのない賞もいただくことができました。ですがその後は、コロナ禍で作品とともにあちらこちらを回って宣伝するということができなくなってしまいました。なので本来ならば日本に伺って、皆さんとちゃんと対面してお話をしたかったのですが、こういうオンラインでの対話になってしまったことはとても残念です。でも音楽を学ぶ皆さんが映画を見てくださって、どんなふうに思われたのか、どんな質問を私にぶつけてくださるのか、興味津々ですし、とても楽しみにしています。だから質問ではなく、ご意見とか感想とかだけでも構いませんよ。正直、ここで扱っている問題は、日本の皆さんにとっては精神的にも物理的にも、どうしても遠いものではないかと思います。だからこそ皆さんの感想に関心があるのです」

『クレッシェンド 音楽の架け橋』© CCC Filmkunst GmbH

すると生徒たちから、様々な意見があがっていった。例えばこんな意見が出た。

生徒「始めは演奏をする度に口論をしていた双方の国を代表する演奏者たちが、練習をする度に絆や信頼が深まって、最終的に心がひとつになっていくストーリーに感動しました。歴史背景などもしっかり描かれているのでパレスチナ問題に興味を持つことができました」

すると監督は「映画を気に入ってくださったことを、とても嬉しく思います」と笑顔を浮かべた上でこう切り返した。

ザハヴィ監督「まさに背景にあるパレスチナ・イスラエル問題というのは、もう100年も続いています。とても複雑ですし、2つの民族を扱う上で映画では中立的な立場を取るよう念頭に置いて撮影しました。もちろん大きなトラウマは双方に対してあるわけですが、イスラエルのユダヤ人は第二次世界大戦の時のホロコーストを経験したがゆえに、自分たちが抑圧された立場にもうなりたくないということで、イスラエルという国を作ってどんどん強くなっていきました。けれどもそのためにもともとこの国に住んでいたパレスチナ人は、逆に弱くなってしまって不公平な関係になってしまった。パレスチナ人としては、なぜここにユダヤ人が来たかを慮れなかったし、そこで自分たちの方が占領されて追い出されたという気持ちの方が強くなってしまったわけです。で、軋轢が生じたわけですね。ただこの映画では、政治的な解決を提示することが目的ではないんです。私が映画監督として惹かれたのは、若い2つのグループが心理的にそれにどう向き合ったかということだったんです」

後編に続きます。

文:横森文

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