2017.07.18
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意外と知らない"デジタル教材"(vol.2)

前回は提示型教材・デジタル教材の変遷について解説しました。今回は、小学校・中学校で普及しつつあるデジタル教科書についてご説明します。

デジタル教科書とは?

現在、デジタル教科書として提供されている商品は、基本的に紙の教科書と同じ内容が収録されており、提示教材として使用したり、タブレット端末上で表示したりできるソフトウェアです。

ただし、それ自体は検定教科書ではなく、教科書会社が教科書準拠教材として制作しているソフトウェアという位置づけです。

では、これまでの国や教育現場の動きを踏まえて、デジタル教科書が今日のように普及するまでの変遷を見てみましょう。

デジタル掛図の時代

平成14年度(2002年度)になると、教科書会社から教科書準拠のPCソフトウェアとして「デジタル掛図」が販売され始めます。

掛図とはアナログの教材として教科書会社や教材会社から従前より販売されていたもので、指導用に使う図版や地図などを大きく拡大したものでした。主に教室の前方に掲示して児童・生徒に見せながら指導する教材で、タペストリーのように巻物状になった掛け地図などは一般的に学校で使われていました。

デジタル掛図は名前の通り、掛図をデジタル化した商品です。指導用に使いやすい図版をプロジェクタ等で提示できるように収録したものですが、単なる拡大静止画ではなく、クリックすると動くようなインタラクティブ性を持つものも多くラインナップされていました。

ただし、デジタル掛図は、図版があるとより指導しやすくなる部分をピックアップして収録されていましたので、教科書紙面がすべてデジタル化された訳ではありませんでした。

デジタル教科書の登場

光村図書出版株式会社 小学校国語のデジタル教科書より

光村図書出版株式会社 小学校国語のデジタル教科書より

本格的なデジタル教科書の始まりは、光村図書出版(株)が平成17年度(2005年度)に発表した小学校国語のデジタル教科書といわれています。

教科書の紙面をそのまま電子化し、拡大機能・書き込み機能に加えて、朗読機能や教材に関連するワークや動画なども収録されていました。

現在では「指導者用デジタル教科書」という呼称で定着していますが、当時は他に指導者用デジタル教科書が無かったために、教科書準拠の教授用ソフトと説明することもあったようです。

光村図書出版株式会社 小学校国語のデジタル教科書より

光村図書出版株式会社 小学校国語のデジタル教科書より

この指導者用デジタル教科書は紙のデジタル教科書がそのまま収録されているということが特長でした。児童・生徒が今手元で開いている紙面と全く同じレイアウトで表示することができ、それが一つの売りでありましたが、さらに提示用に最適化されたレイアウトで表示できるモードもありました。

光村図書出版株式会社 小学校国語のデジタル教科書より

光村図書出版株式会社 小学校国語のデジタル教科書より

当時は、まだプロジェクタや電子黒板が広く普及していたわけではないので、「とても欲しいけれど、提示する装置が学校にない」ということで悔しい思いをした先生もいらしたようです。中には自前でプロジェクタを調達して授業に活用するという大変熱心な先生もいらっしゃいました。

収録する内容や、設計思想などは、光村図書出版(株)の国語デジタル教科書が礎となり、その後登場する他社の指導者用デジタル教科書にも大きな影響を与えたといえます。

デジタル教科書の普及拡大期

株式会社内田洋行 EduMallより

株式会社内田洋行 EduMallより

平成23年度(2011年度)になると、教科書改訂の時期と合わせて、ほぼすべての教科書会社から指導者用デジタル教科書が発売されます。この時期が指導者用デジタル教科書の普及元年といえます。

平成21年度(2009年度)のスクール・ニューディール政策により、学校には最低1校1台以上の電子黒板が導入されていたため、利用する環境も一気に整いつつありました。

各自治体では、夏休みの時期などに、指導者用デジタル教科書の使い方を先生方に説明する研修会等が数多く実施され、教科書会社の担当者は全国から引っ張りだこだったと聞きます。

まだ、指導者用デジタル教科書自体を初めて見る方も多かった時期ですので、この頃、学校の授業参観に参加されて、先生が指導者用デジタル教科書を使っている授業の様子を見て、学校の教育が先進的になってきたと感じられた保護者の方も多かったのではないでしょうか?

また、拡大期には、DVD-ROMで指導者用デジタル教科書をPCにインストールするタイプの他に、東京書籍(株)のEライブラリや、(株)内田洋行のEduMallなど、インターネット上でデジタル教科書を配信するサービスも利用者数が増え始めました。

学習者用デジタル教科書の試験的運用

指導者用デジタル教科書が広く発売される時期と前後して、総務省が「フューチャースクール推進事業」(平成22年度~平成25年度)を、それと連動する形で文部科学省が「学びのイノベーション事業」(平成23年度~平成25年度)を推進しました。

全国20校の学校を研究指定校とし、電子黒板にとどまらず、無線LAN装置、児童・生徒が1人1台で使えるようにタブレット型端末を配布するという先進的な試みでした。

本実証事業では、児童・生徒が書き込み・保存できる機能が付いた「学習者用デジタル教科書」が導入され、大きく提示することを前提に作られたこれまでの指導者用デジタル教科書と併用した授業での活用方法やその効果など、多くのノウハウが蓄積されました。

CoNETSの登場

平成27年度(2015年度)になると、教科書会社が集まって(※2017年7月現在:13社)共通の規格に基づいたデジタル教科書が制作され始めます。これらは「CoNETS(コネッツ)」という共通のブランド名で販売されています。

デジタル教科書に共通の規格が採用されたことで、利用者は一つの本棚から様々な教科書を呼び出すことができるようになりました。また、書き込み機能や拡大機能などのボタンも共通化されたため、教科書会社が違っても同じ操作感で使用できるようになりました。

CoNTESデジタル教科書は広がりを見せ、現在は、指導者用デジタル教科書に加えて、タブレット端末での利用を想定した学習者用デジタル教科書も販売されています。

ただ、現時点はすべての教科書会社がCoNTESグループに参画しているわけではなく、独自の規格・仕様でデジタル教科書を制作している会社も存在します。

技術の変遷と共に変わるデジタル教材

このように時代を経て形を変えながら普及してきたデジタル教材ですが、背景にはこれらを制作し快適に利用するための技術の進歩がありました。

デジタル掛図の時代は、Adobe Flash(※当時はMacromedia Flash)で動くものが多く、続いて平成23年度(2011年度)の指導者用デジタル教科書もAdobe Flashで動くものがほぼ全てでした。

一方、2007年にAdobe FlashをサポートしないiOSがAppleより登場すると、Webの世界ではAdobe Flash離れが少しずつ進み、インタラクティブなコンテンツがAdobe Flashで制作されるケースは徐々に主流ではなくなります。

平成27年度(2015年度)以降のデジタル教科書では、HTML5で制作されたデジタル教科書や、iOSで動くものも登場しはじめます。

現在、CoNTES版デジタル教科書は電子書籍で一般的に使われているEPUBを元にした拡張EPUBが採用されています。

今後も、基盤技術や利用環境の変化に伴い、より使いやすく教育的効果を高めるデジタル教科書が生まれることを期待しましょう。

今後のデジタル教科書における課題1:制度的な位置づけ

現在のデジタル教科書はあくまで教科書準拠のソフトウェアだということは、冒頭にご説明しました。なぜ、デジタル教科書が「教科書そのもの」にとって代わることができないのでしょうか?

それは、デジタル教科書を「検定教科書」として検定するための制度が存在しないことや、教科書無償給与制度は紙の教科書を想定しているため、デジタル教科書はその制度の範囲に含まれていないことなどが理由として挙げられます。

そのような状況を踏まえて、平成27年(2015年)に「『デジタル教科書』の位置づけに関する検討会議」が設置されました。ここで提出された最終まとめ(2016年12月)では、「デジタル教科書の学習内容は紙と同一であることから、改めて検定を経る必要はないとすることが適当」、「中長期的には、普及・定着の状況も勘案しながら制度面検討と併せて、紙の教科書とデジタル教科書のいずれか一方又はその双方を、無償措置の対象とすることを検討することが望ましい」とされました。将来、デジタル教科書が紙の教科書と同等の位置づけとなる日も遠くないといえるのかもしれません。

今後のデジタル教科書における課題2:著作権法の問題

紙の検定教科書は著作権法第33条で定められている「教科用図書等への掲載」を根拠に、掲載した著作物に対して補償金を支払えば著作物を掲載できることとなっています。法律上は著作権者に事前に著作物の使用可否を問う必要がなく、掲載が可能ということがポイントです。

しかしながら、現在のデジタル教科書は教材であるため、このような著作権法の裏付けがなく、一般のソフトウェアに著作物を載せるという扱いになります。

著作権者によっては、紙に比べて複製・配布が容易なデジタル教科書への著作物の掲載について難色を示す場合があり、紙の検定教科書に掲載されている図版でもデジタル教科書には、掲載できない事例が出てきています。

今後は、著作権法の改訂に向けて、文化審議会等において、デジタル教科書への著作物の掲載許諾等に対応する権利制限の在り方についての専門的な審議が進められていきます。

このように、技術開発のスピードと制度面の整備にギャップのある現状は、徐々に解消されていくでしょう。教科書が変わると、授業も、子ども達も大きく変わります。これからのデジタル教科書の進化や授業の在り方にも注目していきましょう。

第3回(最終回)では、「1人1台端末の時代のツールやコンテンツ」をご紹介いたします。

資料協力
  • 光村図書出版株式会社

構成・文:内田洋行 教育コンテンツ企画部 石島有剛

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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