2016.08.12
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あなたは夢・ビジョン・目的・目標を持ってますか?

岐阜県可児工業高等学校 電気システム科 教諭 河合 英光

あなたの夢は何ですか?

あなたが、今教員として働いているという事は、何かしら夢や目的があってこの教育の世界に入ってきたのではないでしょうか。(他業種であっても、その企業に入ってこんな仕事がしたいとか、あんなことをしてみたい。という気持ちがあって入社するのではないでしょうか。)
しかし、現実は夢や希望をもって職場を選べる人の方が少ない気がします。私自身も教育の世界に入った当時は、夢や希望があったわけではありません。
私自身のこれまでの経緯を話します。私は工業高校を卒業しコンピュータの会社に入社しました。当時はプログラマーになりたかったのですが、会社の適性検査でプログラマーとしての適性がなく、ハードウェアの保守をする仕事に就きました。その後、2年ほど勤めましたが事情があり地元に戻ることになりました。その時、卒業した工業高校の恩師に仕事を辞めたことを伝えに行ったのですが運がいいことに、その工業高校でコンピュータが扱える実習助手を探していました。すでに仕事もやめている私は、まさに適任でした。そこから教育の世界で仕事をすることとなりました。その後、昼は工業高校で働き夜は夜間の大学に通って教員免許を取得しました。教員採用試験を数回受けてめでたく教諭となりました。その過程で夢や希望や目的を見つけたかと言えばそうではなく、ただ、この仕事が楽しいという漠然とした気持ちだったと思います。ただ、昔から上手に教えるにはどうすればいいんだろう?っていう思いはありました。
教諭になり、担任業務や授業を行い卒業生を送り出し、数年後には卒業生たちの結婚式にも呼ばれるようになり卒業した生徒たちのその後の人生にも関わることができて、それなりに楽しい日々を送っていましたが、それでも授業をすると理解してくれる生徒はいるのですが数名の生徒はなかなか授業に集中してくれないのです。どうすればクラス全員が理解してくれるのだろうか?っという気持ちは消えませんでした。(授業がうまくなりたいと思い、本屋さんで多くの教育書を購入して読み漁りました。それでも、多少は良くなったとは思いますが、納得のいく授業はできませんでした。)そんな時に、本校に文部科学省の評価に関する研究指定を行うことが決まりました。そこで私が主担当として研究を進めることになりました。これが私の人生において大きな分岐点だったと思います。京都大学の西岡先生に指導していただき、また、園部高校の田中容子先生や他県の指導主事や校長、教頭、大学の准教授など多くの熱心な先生方と話をすることによって自分も何かやらなくては、という気持ちが出てきました。「逆向き設計」論をベースにパフォーマンス課題やルーブリックを実際に授業で実践しながら、少しずつ手ごたえを感じ始めました。今まで自分の中でもやもやしていた「もっと授業が上手になりたい」という問の答えが見えてきました。それは、この「授業が上手になりたい」という問そのものが間違いだと気づきました。「逆向き設計」論で大切なのは、まず初めに「求められている結果を明確にする」ことです。これは、「どのような生徒を育てたいのか」という事になります。今までの私は「私が、授業を上手にしたい」のであって、決して生徒が主体ではありませんでした。教科書に書いてある内容を、その授業でただ教えるためのテクニックだけを身に付けようとしていることに気が付きました。しかし、1年間を通して、もしくは、3年間を通して生徒たちをどのように育てるのか。という事が一番大切なんだと気が付きました。確かに、毎回の授業は大切です。でも、計画性のない授業は短編小説のショートショートを読んでいるようなものだと思います。全部が面白ければいいのですが、きっと私の授業はそうではなかったと思います。このころから私の中に、自分が学んだことや、体験したことなどを若い先生方に知ってほしいという気持ちが芽生え始めました。まだまだ、私自身が自信をもって授業を行えるほど経験を積んでいるわけではありませんが、この3年間の研究は正しいと実感しました。このあたりから私の目的や夢が「多くの先生方に、逆向き設計論やパフォーマンス評価、ルーブリックなどを伝えること」になりました。この「教育つれづれ日誌」の執筆を行おうと思ったのはそのためです。

さて、ここからが本題です。あなたの夢は何ですか?あなたの目的は何ですか?あなたはビジョンを持っていますか?あなたの目標は何ですか?

目的・目標

私たち教員は、4月のホームルームなどで生徒たちに「1年間の目標」を立ててください。と言ってクラスに掲示したりしてますよね。(最近はそうでもないかな?)そのこと自体は良いことだと思うのですが、テスト監督などでクラスに行って生徒たちの目標を見ると「欠点をとらない」とか「宿題は期限内に出す」「無遅刻無欠席」といった内容を書いている生徒がいます。これは目標になるのでしょうか?
ところで、目的と目標の違いって何だと思いますか?生徒に説明できますか?ちょっと考えてみてください。

 

 

「目的」…最終的に実現しよう、成し遂げよう、到達しようとして目指すもの。
「目標」…目的を実現さるための具体的な目印、マイルストーンになります。
目的、目標があることが、モチベーション(やる気)やエネルギー(元気)に影響することを知っていますか?

「3人のレンガ積み」の話はご存知でしょうか?
中世のとある町の建築現場で3人の男がレンガを積んでいた。そこを通りかかった人が、男たちに「何をしているのか?」とたずねた。
1人めの男は「レンガを積んでいる」と答えた。
2人めの男は「食うために働いているのさ」と言った。
3人めの男は明るく顔を上げてこう答えた。「後世に残る町の大聖堂を造っているんだ!」と。
この3人の中で今後一番成長する可能性があるのは、果たして誰だと思いますか?

目的がない状態で目標を立てても、ただのノルマでしかありません。目指すべき目的があってこその目標となります。果たして皆さんはどんな目的や目標を持っているのでしょうか?1人めのレンガ積みのように、ただ、仕事だから授業をしているのでしょうか?2人めのレンガ積みのように、家族を養っていくために授業をしているのでしょうか?3人めのレンガ積みのように、何か目的をもって授業をしているのでしょうか?今一度考えてみてください。
ここで、気を付けなければならないことがあります。目的は具体的であっても、具体的でなくても構わないのですが、目標はできるだけ具体的な内容で、数値的もしくは見た目で変化が分かる内容にすること。さらに、期日を入れる必要があります。目標は目的と違って変化が分からなければ自分の成長を確認することができません。例えば、目的が「夏までに痩せる」だとすると、目標は「〇月〇日までに〇〇kg体重を落とす」とか「〇月〇日までにウエストを59cmにする」等といった内容になると思います。日付と数値目標を入れて査定しないと評価ができないからです。漠然とした目標だと、人によってはいつまでたっても実行できない目標になってしまうからです。目標は実行できなければ意味がありません。果たして、クラスに掲げられている生徒の目標は、目標になっているのでしょうか?それも、自分の達成具合も評価できる内容で。

私はいつも生徒に言っている言葉があります。「できない事ができるようになることが成長だよ」って。昨日と同じ今日を過ごし、今日と同じ明日を過ごしていたら成長しません。だって変化がないんだから。その方が楽かもしれません。不安もなく、ドキドキもない。企業から与えられるゲームで遊び、テレビで聞いた言葉をさも自分の言葉の様に話し、努力や変化を避けていては何も変わりません。日々目的や目標を持つことによって、今までできなかったことや、現状より良い状態になろうとすることができます。それも、自分の達成具合も評価できる内容で。だからこそ、目的目標を持つことは成長することであり、モチベーションやエネルギーを高めるツールとなると思っています。

皆さんの目的は何ですか?目標は何ですか?

夢・ビジョン

皆さんは夢とかビジョンを考えたことはありますか?
夢とは、将来実現させたいと心の中に思い描いている漠然とした願い。(別に1つでなくても構いません)
ビジョンとは、夢を実現させたときの将来の光景。(夢を実現させたとき、どのような人に囲まれていて、どのような感情なのかをイメージすること)
だと思います。
夢とは漠然とした願いなので、何個あっても構いません。例えば「ポルシェのオーナーになりたい」とか「本を書いてみたい」「海の見える丘の上に住みたい」のような感じです。そして、ビジョンとはその夢が実現したときのイメージになります。さらに付け加えるならば、夢が現実味を帯びてきたら、それは目的になり、その目的が叶うように目標を立てていきます。
教育者だから教育の夢でなければならないわけではありません。(でも、1つぐらい教育的な夢があってもいいとは思います。)
夢のある先生と、夢のない先生ではその先生の存在感が違うと思いませんか?さらに言うならば、夢を語れる教育者と夢を語れない教育者では、どちらが生徒からの信頼が厚いと思いますか?

皆さんは夢を持っていますか?

終わりに

今回は夢・ビジョン・目的・目標の話を書きました。今の生徒たちに「君の夢は何ですか?」「あなたの今の目的は何ですか?」と質問して即答してくれる生徒はほとんどいません。夢や目的がない人というのは自分に自信がないからだと思います。さらに付け加えるならば、夢や目的を持つという事は自分の行動を決定するという事です。逆に考えるとその他の選択肢を捨てることになるのです。これってとっても不安なことなんだと思います。無意識に将来こうなるかもしれないって思うと今の行動を決定することができなくなります。夢や目的に向かうことを決めると、それが達成できなかったらどうなるんだろうって不安になるからです。だから、夢や目的が持てないんだと思います。高校生の中には「将来歌手になる。」とか「俳優になる」「サッカー選手になる」と言って、その道に向かう生徒がいます。(私の周りでは、2年に1人位いるかな?)でも、それらの生徒たちのほとんどは漠然とした思いだけで行動が伴っていません。そういった生徒には「今の君の思いでは、その夢の実現は難しい」とはっきり言います。それでも夢に向かって進みたいという場合は、保護者と相談して「〇〇才までに、ここまで行かなければ就職しなさい。」と期限を切ります。(そうしないと、先生が、保護者があの時反対したから自分はこんな人生になってしまったと将来、すべて他人のせいにして人生を過ごしてしまう可能性があるからです。)しかし、ごく稀に自分の夢に向かってすでに努力しており、情報を積極的に集めて、すでに行動している生徒がいます。そういう生徒は応援します。きっと、この生徒は夢が叶わなくても、このときの経験がどこかで生かせると思うからです。そういう生徒は目が輝き、自信にあふれています。

先生だって一緒だと思います。日々授業を行う先生の目が輝いていて、自信にあふれ、夢を語り、未来を語る。そんな先生が増えたらきっと生徒が変わり、学校が変わり、地域が変わり、日本が変わるのではないかと信じています。そんな先生に生徒は付いてくるのではないか思います。

最後に、あなたの夢は何ですか?今、目的としていることは何ですか?

河合 英光(かわい ひでみつ)

岐阜県立可児工業高等学校 電気システム科 教諭
「生徒の成長のために我々は何ができるか」を最近よく考えています。そのための方法として「逆向き設計」論を実践しています。京都大学 E.Forum所属

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