2016.07.06
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内弁慶の子、どう付き合う?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。第86回目のテーマは「外ではおとなしいのですが、家の中ではわがままに振る舞う子に困っています」です。

家と外で全く態度の違う子

家の中ではわがままで感情的、家族にも強く物を言うような子が、なぜか学校では影を潜めておどおどしている……いわゆる内弁慶な子がいます。親としては、「学校でも積極的になってほしい」「家で好き勝手に威張り散らすのをやめてほしい」と思われることでしょう。

一方、親が困るだけではありません。このような二面性を持つ子ども自身も、生きづらさを感じているはず。家の中での自分を、学校などの外では隠しているので苦しいのです。将来この性格を引きずらないためにも、今のうちから対処しておいた方がよいと思います。

主な原因は大人の模倣

内弁慶な性格を引き起こす原因として考えられるのは、多くの場合、大人の態度を見て真似をしていることです。例えば父親。会社などでは人当たりの良い態度をとっているのに、家に帰ってくると威張り散らす。家の外では妻のことを大事にしているように見せておいて、家事などは一切しない。また、母親にもいるでしょう。外では「あら、ごきげんよう」と上品に振る舞っていても、家の中では乱暴な口調で陰口をたたいたり怒ってばかりいたりなど。子どもはこうした大人の二面性を敏感に感じ取り、「家では好き勝手にしていいのか」と思い込むのだと思います。

子どもの内弁慶な性格が気になるなら、まず親自身が自分の行動を振り返ってみましょう。もしも思い当らないようでしたら、ゲームや漫画、テレビなどでそうしたシーンを見て真似ている可能性もあります。

子どもが家で暴れたり暴言を吐いたりすれば、親は「扱いにくい子どもだ」と思うでしょう。すると、子どもは「お母さん達から嫌われている」と感じ取るので、その自己中心的な自分の姿を外でも出したら、他の人からも嫌われるに違いないと思い、外ではますます引っ込み思案になるのだと思います。そして、ありのままの自分を外で出せないことに苦しみ、生きづらさを抱えることになるでしょう。

さらに、人間は必ずしも暴れて人を困らせて楽しいと思う生き物ではないため、一時的な快感は得られても、少し経つと後悔し始めるでしょう。すると、そうした沈んだ気持ちの自分が嫌で、また家の中で暴れるという悪循環に陥るのだと思います。

このように悪循環に陥った子どもは、家で威張る自分と、外でおとなしい自分しか知りませんが、実は人間には色々な側面があるもの。例えば、他者に優しくして喜ばれる自分、他者から優しくしてもらって嬉しくなる自分、楽しくて笑っている自分、誰かを笑わせる自分……など。内弁慶な子どもに新たな自分自身に気づかせてあげれば、家の中でも外でもありのままの自分を出すことができるでしょう。そして、他の人に嫌われる恐れや不安もなくなり、生きづらさを解消させてあげることができると思います。

新たな自分に気づかせる

では、子どもが色々な自分に気づくには、どうすればよいでしょうか。

まずは、親が子どもに優しく接します。例えば、何か達成できた時に頭を撫でて褒めるなど、スキンシップも含めたわかりやすい行動で、子どもを認めてあげてはどうでしょうか。スキンシップを抵抗なく受け入れられる小学2年生頃までに行うと良いと思います。

同時に、子どもが他者に優しくできる訓練を積ませます。人間は、好きな相手に認められると変わるもの。愛される嬉しさや楽しさを体験すると、自分も相手が喜ぶことをしてあげたいと思うでしょう。従って、子どもが何か家事をしてくれた、自ら勉強を始めている等のシーンを見たら、満面の笑顔で喜びを表してあげましょう。子どもは「僕がこんなことをすると、家族が笑ってくれる」と、新たな自分に気づいていくはずです。動物の世話をさせることも同様。その動物からなつかれたり信頼されたりすると、子どもは自己効力感を持つことができるでしょう。そして、優しくする・される経験から喜びを感じる自分を発見することができるでしょう。

このような時、人間の脳内にはドーパミンやセロトニン等のポジティブな物質が分泌され、とても気持ち良くなっています。この気持ち良さを味わうと、つまり、気持ちの良い新たな自分を発見すると、これまでの内弁慶な自分、嫌な自分には戻らなくなるでしょう。

親の態度や声掛け一つで、子どもは良い方にも悪い方にも変わってしまうことを覚えておきたいと思います。家で暴れる子どもに「もうあなたなんて知らない」と突き放したら、子どもの態度はもっとひどくなるかもしれません。親の気を引こうと、ますます傍若無人に振る舞うからです。

子どもが家の外でも中でも、ありのままの自分を出すことができれば、他者とのコミュニケーションもうまくいき、生きづらさは解消されていくでしょう。そのためにも、まだ知らない自分への気づきの機会をたくさん提供できるようにしたいものです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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