2016.05.31
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親子の対話は必要ですか?

第85回目のテーマは「親子でじっくり対話することがありませんが、必要でしょうか?」です。

軽い会話だけでは重い悩みが打ち明けられない

昨今、友達同士のように他愛もないおしゃべりに興じる半面、真面目な話をじっくりすることがない親子が増えているように感じます。毎日が明るく楽しく、人生に何の悩みも問題も生じなければ、それでも良いかもしれません。しかし、そんな幸運は非常にまれでしょう。

普段から親と子に真剣な対話がなく、軽い会話しかしていない場合、例えば子どもがいじめに遭い悩んでいても、親には相談しにくく、一人で抱え込み、最悪の場合は自殺に追い込まれることも考えられます。日頃から親子間に対話があるかどうかで、子どもの命に関わるような大きな問題が発生した際、解決できるかどうかが決まる、と言っても過言ではないでしょう。

対話によって思考力がつき、頭も良くなる

深刻な悩みを子どもが抱えた時、少なくとも子どもが親に打ち明けられれば、そして親が真剣にその話を聞ければ、子どもは自殺にまでは追い込まれないでしょう。

また、親子の対話は危険回避のためだけではないと思います。対話は相手の話を聞いて、自分の意見を言うことの繰り返しなので、たとえ自己主張の強い子どもであったとしても、対話の訓練によって、自分だけ話さずに相手の話も聞こうと思えるようになるでしょう。これは一種のソーシャルスキルトレーニングです。ソーシャルスキルを身につければ、周りの人とのコミュニケーションがとりやすくなり、結果的に生きやすくなるでしょう。

そして、互いの思いを言葉にして伝え合うことで、欲求不満が解消され、精神が安定する効果も期待できるでしょう。ひいては、困難に負けない、立ち直る力を身につけることにもなるはずです。

さらに、小さい頃から親子で対話をする癖をつけていると、学力アップにもつながると思います。例えば、テレビでニュースを見ながら、親が「私はこの報道についてこう思うけれど、どう?」と子どもに聞き、子どもは「僕は違う意見かな、なぜなら……」と答えるとします。こうした日常の対話の中で、人の意見を自分の中に取り入れつつ、一つのテーマについて深く考える力、つまり思考力を身につける練習になるでしょう。学校の勉強も、自分の持っている知識を組み合わせて課題に向かうことの繰り返しなので、この対話で身につけた思考力が役立つのではないでしょうか。

1対1の時間を意識的に作る

多くの子どもは幼児期、こちらから話しかけなくても「今日ね、○○ちゃんとね、○○してね、それでね……」と、たくさん話をしてくれるもの。親はそれを「今忙しいから後でね」と言わずに真剣に聞き、「そうなのね。話してくれてありがとう」と伝えましょう。すると、子どもは親に話すことに抵抗がなくなり、成長してからも親子での対話がしやすくなると思います。

小学校高学年頃から思春期に差し掛かると、子どもは本音を話さなくなる傾向が表れます。また、親が話そうとしても、5分ともたずに子どもが逃げてしまうという話も聞いたことがあります。その場合、話のテーマが子どもにとって興味のないものである可能性が高いので、違うテーマに変えてみる、あるいは普段とシチュエーションを変えて、子どもと1対1になれる場所を設定してみてはどうでしょうか。散歩に連れ出したり、バスで町内を循環する小旅行に出かけたりしてもいいでしょう。ポイントは、子どもと二人だけという点です。

そして、親が先に自分の最近の悩みを正直に話してみるのです。「おばあちゃんが年とってきてね、介護が必要になりそうなのよ。どうしたらいいかなぁ……」とか、「仕事でなかなかうまくいかないことがあってね……」など、親自身の悩みを話すと、子どもも悩みがあった場合、親に話しやすい雰囲気が作れると思います。

思春期の子どもは、親よりも友人に悩みを相談するという傾向もあります。子ども同士で解決できればよいのですが、解決できない場合もあるでしょう。例えば、いじめが発生した場合、いじめられている子が他の子どもに相談したとしても、相談された子はいじめっ子の報復を恐れて何もできないことがあると思います。やはり、親に相談する方が解決につながるはず。仮に子どもから切り出せなくても、普段から子どもの目を見て対話していれば、子どもは悩みがある時、親と目を合わせようとしないので、「何かあったのかな?」と異変に気づくことができるでしょう。

真剣な対話は、時に子どもの命に関わる重い悩みを解決に導いたり、また精神を安定させたり、ひいては思考力や学力のアップにもつながると思います。親はいつでも子どもの話を聴けるように、日頃から対話を心掛け、準備をしておきたいものです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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