2016.04.06
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

アクティブラーニングしていますかという質問への違和感

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

   京都の酒井淳平です。半年振りに復帰できうれしく思っています。

 今期もよろしくお願いします。今回は最近話題のアクティブラーニングについて書きたいと思います。

 

「先生は授業でアクティブラーニングをしていますか?」

 みなさんはこう聞かれたらどう答えますか?この質問に違和感を感じませんか?

 

1、アクティブラーニングしています??

  最近、アクティブラーニングしてますか?と聞かれることが多いです。

  同時に「○○コースではアクティブラーニングをしています」というアピール(?)を
  聞くときもあります。正直なところこの質問は好きでなく、このアピールには違和感を感じます。
  みなさんはどうお考えでしょうか?

  そもそもアクティブラーニングをするとは何を指すのでしょうか?この質問をする人の多くは、
「生徒・学生が先生の話をただ聴くだけの一方的な講義型だけではない授業」、
「グループワークの入った授業」という意味で使うことが多いように思います。
  これはAL型授業とでもいうべきものでしょうか。もしそうだとして、
 なぜアクティブラーニング型授業を意識する必要があるのでしょうか?
 授業で意識すべきなのは、そんなところなのでしょうか?
 

 このように書きましたが、冒頭のような質問をせざるをえない現状があることは事実でしょう。
   各教科に「何でもいいからアクティブラーニングの実践を集めなさい、それをHPに掲載する」
   という指示をされた学校があると聞きます(これは複数の学校から聞いた例です)。
   また学校訪問をした指導主事が、休み時間に教室の机配置がいわゆる一斉授業型だったのを見て、
 「この学校はアクティブラーニングをしていないのか」と怒鳴った例もあると聞きます。
   現状を考えると、「アクティブラーニングしてますか?」は仕方のない質問なのかもしれません。

   このような現状がある今だからこそ、改めて原点を振り返るべきでしょう。


   そもそもアクティブラーニングという言葉は、中央教育審議会の平成26年11月の諮問で登場してから、
   一気に広がりました。その試問では「これからの時代を生きていく子どもたちに必要な資質・能力
 の育成ということを考えて、(中略)、ある事柄に関する知識の伝達だけに偏らず、(中略)、
   自ら課題を発見し、その解決に向けて主体的・協働的に探究し,学びの成果等を表現し、更に実践に
 生かしていけるようにすることが重要である」と書かれています。そして、
「そのために必要な力を育むために、知識の質や量の改善はもちろん、学びの質や深まりを重視する
 ことが必要である」と明記された上で、
 「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や,
   そのための指導の方法等を充実させていく必要があります」と書かれています。

   ここからもアクティブラーニングは一方法論でしかなく、大切なことは資質・能力の育成であることが
   わかります。しかしながら実際には、(  )に書かれていたにすぎない、アクティブラーニングという
   言葉のみが強調され、広がっているように思います。みなさんは今の現状についてどう思いますか?

 

2、スポーツの世界は大切なことを教えてくれるかもしれない


   本屋に行くと「高校野球 5―強豪校の(秘)練習法、教えます!」という本がありました。
 本を購入して練習にそのまま取り入れ、「私の学校ではこんな練習をしています」と自慢する監督は
 おそらくいないでしょう。
 でも「強豪校の(秘)練習法」を「アクティブラーニング」に置き換えたらどうでしょうか?
 少なくない学校が「私たちの学校はこんな練習(アクティブラーニング)をしています」という
 恥ずかしい自慢をしようとしているのではないでしょうか。

 強豪校の練習を形だけまねてチームが強くなるわけがないということは指導者なら誰しもが
 わかっています。だから自分のチームを強くしたい指導者は、よき指導者のところに学びに行き、
 自らメニューを体験し、練習試合などで強豪校のあり方を体感します。そうした過程を経て、
 その練習法の意図や、マニュアルにならない大切な部分を吸収し、その上で自分の学校のチームの
 生徒実態に合わせてメニューを考えます。
 このプロセスでこそ練習はよりよいものになり、その結果チームは強くなります。

 スポーツの世界でのこのプロセスはアクティブラーニング型授業を実施する際に大切なことを
 教えてくれているように思います。

 

 そもそもアクティブラーニングは手法でしかなく、手法が目的になることはありません。
 まずあるべきものは目的や目標、授業でいえばねらいや育てたい力です。
 それに対応して次に方法を考えます。これは当然のプロセスではないでしょうか。
 しかし、アクティブラーニングという言葉が使われるときは、なぜか方法が先に来ることが多く、
 方法が目的になっている例が少なくありません。私が冒頭の質問に違和感を感じるのはここです。

 

 “キャリア教育を実践しよう”と言われだした頃、
「イベント(職場体験・インターンシップ・講演会など)をすること=キャリア教育」との間違った
  認識が広がり、その結果残ったのは多忙感のみとなってしまった学校も少なくなかったと聞きます。
 私はその頃にキャリア教育を担当していましたが、その時期によく聞かれたのは
「キャリア教育やってますか?」でした。こんなことを考えると、アクティブラーニングとキャリア
 教育は似ているのかもしれません(他にも似ている点が多いと思いますが、それはまた別の機会に)。

 アクティブラーニングも、グループでワークすればOKとなり、その結果”活動あって学びなし”
 ということにならないだろうか、そんな懸念さえ持つときがあります。そもそもアクティブに
  なるべきは思考であって、活動ではないということも忘れてはいけないことでしょう。

 

3、それでもアクティブラーニングにYesという

 

 アクティブラーニングについて、否定的なことを書いてきたかもしれません。
 しかし今の現状が悪いことばかりとは思いません。
 これからの時代を生きる生徒たちにとって大切な力を一斉講義のみで育てることは不可能でしょう。
 生徒たちが、変化がより激しくなるだろう社会を力強く生きるために、課題の発見と解決に向けて
 主体的・協働的に学ぶ学習は必要でしょう。こうした学習を授業という形で具体化していくときに、
 自然とアクティブラーニング型授業になるでしょう。アクティブラーニング型授業はいろいろな
 教科の授業の共通言語にもなれるので、教科をこえて教員が資質・能力を育てる授業ということを
 考えることもできるようになります。

 また、アクティブラーニングという言葉が共通言語として広がったおかげで、
 心ある先生方が集まりやすくなったこと、すばらしい実践がより広く知られるようになったことも
 大きなことだと思います(強豪校の練習は使い方が大事ではありますが、それを知ることが学びに
 なることは間違いなく、ノウハウが広がることそのものは悪いことではありません)。学校をこえて
 よりよい教育を考え形にしていくということも、共通言語があることでより進むのは事実です。


 このように考えると、やはりアクティブラーニングとキャリア教育は似ているのかもしれません。

 キャリア教育も(誤解されながらも)言葉が広がったことで、よりよい実践を目指す教員の集団が
 でき、結果的にキャリア教育の実践によって生徒たちが大きく成長した学校も数多くありました。
 アクティブラーニングも同じでしょう。言葉のみが広がっていることについての懸念はありますが、
 それでもここに書いたようにプラスの側面もあります。数年先にアクティブラーニングという
 共通言語を活用して生徒たちが大きく成長する学校が登場することも間違いないでしょう。

 アクティブラーニングという言葉にふりまわされたり、やれと言われたからやるという教員が
 増えることが今の状況を悪化させます。おそらく問われているのは、
   教師がアクティブに学べるかどうかでしょう。
 私も今の状況がより良い方向に向かうことに少しでも貢献できればと思います。

 

 ここまでお読みいただきありがとうございました。
 今回、自分の実践についてはふれることができませんでした。

 以前、私の数学の授業実践について書かせていただき、多くの方に読んでいただきました。

 「教科でのキャリア教育~数学の授業での取り組み~」 

  http://www.manabinoba.com/index.cfm/8,21741,21,185,html

 その後も実践を重ね、成功だけでなく失敗も数多く経験しました。

 次回はAL型授業の失敗事例、そこからの気づきを紹介したいと思います。

 今期もよろしくお願いします。 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop