2015.03.31
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子どもが新しい環境に馴染むためには?

第71回目のテーマは「子どもが幼稚園に入りましたが、毎朝号泣して登園を嫌がります。どうしたらよいでしょうか?」です。

新しい環境に馴染めず起こる小1プロブレム、中1ギャップ

4月は進級・進学の季節。新しい環境に入った子ども達が、精神的に不安定になることがあります。保育園や幼稚園でなかなか親から離れられず毎朝号泣する子をはじめ、学級崩壊が起こりやすい「小1プロブレム」、いじめが発生しやすい「中1ギャップ」等も、子どもが新しい環境に馴染めないことが原因と考えられます。

こんなとき、家庭はどんなサポートをすべきでしょうか? 今月は、春から新しい環境に入っていく子ども達を支える方法を考えます。

子どもは友達ができると変わる

私の長男が2歳半で保育園に入園したときのことです。毎朝登園を嫌がり、何とかなだめて園へ送るのですが、着いた途端に泣き出します。保育士に「お母さんが近くにいると、離れるのが辛くてずっと泣き続けるので、すぐに子どもと離れてください」と言われ、後ろ髪を引かれる思いで門を出ました。そして今度は、私自身がその場で泣いていました。泣き叫ぶ息子と離れることがあまりに切なかったからです。

担任の保育士はとても良い方で、息子を理解しようと努力して下さっていました。また、息子自身が環境に慣れれば泣かなくなるだろうと期待していましたが、一向に収まらず、結局1か月半くらいで転園しました。すると、次の保育園では初日に友達ができて、翌日からは喜んで登園するようになったのです。

息子は友達ができてすぐに変わりました。子どもにとって、友達ができる・できないは非常に大きなことのようです。従って、入園前から子どもに他の子と遊ぶ機会をなるべく与えてはいかがでしょう。子どもは人生初の集団生活を保育園や幼稚園で経験することになります。入園前に他の子どもと多く遊んできた子の方が、友達作りのきっかけなどを心得られるでしょうし、友達作りの練習にもなると思います。

次男のときは入園前に、保育園へ通っている子どもがどんな1日を過ごしているかが楽しく描かれている絵本を読み聞かせていました。おかげで次男は比較的スムーズに保育園へ通えました。

このように、これからどんな所に通い、どんな一日を過ごすのかを、子どもに本を読んだり話して聞かせたりして、事前に伝えておくとよいでしょう。幼い子どもが親から離され、しかも全く想像していない環境にいきなり入れられれば、不安からパニックに陥るのは無理もない話です。また、保育園・幼稚園選びの際、親と一緒に子どもも見学しておけば、なおよいでしょう。幼稚園では最近、入園前にプレ幼稚園として2歳児が幼稚園での活動を体験できる機会を増やしている所が多いので、活用してみては? 現場を訪問しておくだけでも違うはずです。

新入生の問題の多くは「縄張り争い」が原因

小学校1年生で学級崩壊が多く生じたり、中学校1年生でいじめが増えたり。これらには、動物が本能的に起こす「縄張り争い」の心理が関連すると考えます。つまり、人間も初めての環境に投げ込まれると、その不安から自分の縄張りがどこまでかを知るために周囲の人々を威嚇するということです。

小学生が授業中でも構わず立ち歩き、友達にちょっかいを出すという行動も、どこまでが自分の縄張りかを確認する行動と見ることができます。中学生は初めての環境に置かれるだけでなく、第二次性徴期を迎えるため、性ホルモンの働きによりイライラしやすくなっています。このため、周囲を自分に従わせようと、あるいは自分の強さを周囲に誇示しようと、自分より弱そうな子を徹底的にいじめる行為に出ることがあります。これは、発情期を迎えたサルが集団の中でより優位に立とうとし、ヒエラルキー(階層)をつけるため仲間と争う行動と似ています。

では、このような子ども達をサポートするには、家庭はどうすべきでしょう。

小学1年生の場合、ある程度自由だった保育園や幼稚園時代と違い、小学生になったら朝早く登校して授業を受けるなど、規律正しい生活サイクルになること。そして、学校にはルールがあり、皆で気持ち良く過ごすためにはルールを守らなければいけないことを伝えておく必要があると思います。また、これまでとガラリと変わる生活環境に慣れるため、徐々に入学後の生活リズムに切り替えていくようにしましょう。さらに、新しい靴やランドセル、文房具等を準備して、子どもが小学校に入ることをワクワクするように仕向けることも一案です。

中学1年生には、先述の縄張り争い行動を説明して、「しかし、人間はサルとは違う。本能のまま縄張り争いをしてはいけない。むしろ、全員が気持ち良く学校生活を送れるよう、お互いに協力していかなければならない」ことを伝えましょう。特に、「いじめは絶対にいけない。相手の子の人生を崩壊させてしまうことだ」と、強く言い聞かせましょう。ただ、思春期のため感情のコントロールが難しい時期でもあるので、中には反抗的な態度をとる子もいるかもしれません。しかし、言わないよりは言った方が、心理的なブレーキになると思います。

子どもの荒れをすべて学校や教師のせいにしてしまっては、なかなか解決できないでしょう。何か問題が起きたときは、家庭と学校が協力し合って原因は何かを考えるべきだと思います。今回のように、新しい環境に入ったための不安感が原因かもしれません。それなら、家庭ができるサポートもあるはずです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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