2015.02.25
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大学、社会で力強く生きていくために必要な○○

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

  1、将来の見通しをもつことの大切さ

  さっそくですが、質問です。○○に入るのは何だと思いますか?
  もちろん答えは一つではないでしょう。 しかしここに入るものを考え、
  日々の実践に組みこむことが大事ではないでしょうか。

  近年、高校現場では”△△大学合格××人”という出口の実績ばかりが
  クローズアップされがちです。 しかし大学合格は通過点に過ぎません。
  目先の結果ばかりを追うとこの当たり前の視点を忘れてしまいがちです。
  国内最難関と言われる大学でも大学入学がゴールと思っている学生や、
  言われたことしかできない 受け身の学生への指導に苦慮されているという現状を聞くと、
  大学のことだから大学にお任せではなく、 高校から力強く生きていくための
  素地を育てるということを真剣に考えないといけないと感じます。

 
  京都大学の溝上慎一先生は大規模な調査結果から、将来の見通しを持っているかどうかが
  学生の成長に大きな影響を与えるということを明らかにされました。
(”高校での将来への見通しが大学での力強い成長を促す”『学研・進学情報』2011年6月号)。
  溝上先生の研究から、以下の2つのことがわかります(*)。

 1)大学入学時に将来の見通しを持っているかどうかは、その学生の学生生活に影響する。 
 2)大学入学時に将来の見通しを持っていない学生は、 就職活動開始時にも将来の見通しが
  ない可能性が高い。

   他にも将来の見通しを持っていない学生は、アクティブラーニング的な授業
 (負荷はかかるが、その分大きく成長する授業である場合が多い)を受講しない傾向がある
  ことなども明らかにされています。

  ともあれ、大学入学時に将来の見通しを持っているかどうかは高校で決まるので、
  この調査結果は高校での教育の重要性を示唆しています。
  溝上先生の論文は下のURLをご覧ください。

 

  2、キャリア教育授業(CSL)で将来の見通しを持つ生徒が増える

  ひとつワークをしましょう。 この画面以外一切見ず、次の問いに答えてください。
「あなたのまわりにある赤いものを言ってください」
  30秒ほど考えたら、まわりを見てください。

  どうでしょう?こんなところにも赤いものがあったということに気づきませんか。
  人は意識したものしか見ない、見えません。

  大学という自主性に任される環境で、チャンスをつかんで大きく成長する学生と、
  チャンスをつかめない学生の違い、それはチャンスに気づき行動できるかどうか
  ではないでしょうか。(書いていて思いましたが社会人も同じでしょうね)

  そして「赤」と意識するだけで、まわりの赤いものに気づくように、 
  人はアンテナを立てれば情報が飛び込んできます。
  将来の見通しを何かしら持っている学生は、そうでない学生に比べて
  アンテナを立てていることは間違いありません。
  このように考えると溝上先生の調査結果にはすごく納得できます。

  本校では生徒たちの将来の見通しについて調査をしました。
  高校入学直後の4月と、高校1年生1月の2回にわたって将来の見通しについての調査をしました。  

  また対比するために、CSL授業がなかった学年の生徒にもあらかじめ(CSL実践開始前年に)
  同じ調査をしました。 今回は調査結果を2つ紹介します。

 

  結果1 キャリア教育授業によって将来の見通しがないという生徒が減少

  <将来の見通しがないと答えた生徒(高1_1月)> 

    CSLを受講していない学年  33% 

    CSLを受講した学年(2年平均)21%

 

  結果2 高校生もキャリア意識は思ったほど変わらない 

*高校入学時「将来の見通しがない」と答えた生徒の約半数が1月でも「将来の見通しなし」

*高校入学時に「将来の見通しがある」と答えた生徒で、1月に「将来の見通しなし」 

 と答えたのは10%あまり  

 

  結果1からCSL授業を実施することで「将来の見通しない」と答える生徒の比率が
  減少したことがわかります。「CSLで自分の将来と向き合えた」と答える生徒は多いですが、
  そのことが数字にも表れています。  

  結果2から高校生もキャリア意識は思ったほど変わらないということがわかりました。 
  結果2は中学校までの教育が大事ということも言えますが、同時にどこかの段階で 
 「将来の見通しを持つことが大事」ということも示していますので、 
  CSL授業で「将来の見通しを持つ」ということの重要性も同時に示唆しています。  

  全体的な傾向としては上記の通りです。しかし学校では生徒一人一人と関わります。 
  たしかに入学時に将来の見通しがなかった生徒は、1月時点でも将来の見通しがない
  可能性は高いのかもしれません。しかし入学時に見通しがなかったのに、
  高校1年生の終わりには見通しを持っている生徒もいるのです。
 
「なぜ半数の生徒は将来の見通しを持つことができたのか」、ここに注目することが
 現場での教育実践の改善につながります。  

 本校では将来の見通しが変化した生徒を対象に、
 なぜ将来の見通しを持つことができたのかを調査しています。
 また、高校に入ってから将来の見通しをなくしてしまった生徒を対象に
 なぜ将来の見通しを持てなくなったのかを調査しています。

 この結果は次回書きたいと思います。  
 このような調査が積み重ねられていけば、キャリア教育の質も向上します。 
 本校でも将来の見通し調査は、今後も継続して実施します。 
 継続調査でたとえばCSLを受講した生徒たちは、CSLを受講していない生徒たちと
 2年生時点で比べても将来の見通しを持っているということが明らかになりました。  

 文科省の研究指定のおかげでこうした調査を実施できるのですが、 
 これからも調査を重ねていくので、いろいろなことがわかるでしょう。

 

3、最後に

  キャリア教育の重要性が言われ、様々な取り組みが進んでいます。 
  しかしその成果となると、「アンケートでの満足度が高い」に
  終わっているものも少なくありません。  

  しかしどのような取り組みをしても、生徒によってその受け止め方や、
  授業による成長は違います。同じ授業を受けても、テストで大きな差が
  出ることからもこのことはわかります。  

  今後のキャリア教育を考えるときに、評価という視点は欠かせません。 
  そして評価を考えることは、担当者間での目標の共有や、生徒実態のより確かな把握
(個人差含めて)につながるのです。 
  生徒実態のより確かな把握は、実践の可能性と限界も明らかにします。  
 

  実践の成果と限界を明らかにすることは、実践に研究という視点を持たせる
  ということですが、これは今後キャリア教育を推進するために欠かすことはできません。  
  今回は将来の見通しにしぼって報告しましたが、本校ではルーブリックを用いた
  ポートフォリオ型評価にも取り組んでいます。来年度は年度当初に生徒にルーブリックを
  示してのポートフォリオ型評価にも着手しようと考えています。  

 

  今回書けなかったことは次回に書こうと思います。
  お読みいただきありがとうございました。
 

(引用)
高校での将来への見通しが大学での力強い成長を促す 『学研・進学情報』2011年6月号 http://smizok.net/seminar/img/jpeg0251x.pdf  

*溝上先生は将来の見通しを持っているかに加えて、その見通しを実現するために
 必要な行動をわかっているか、またその行動を日々実践しているかも質問し、
 学生を以下の4タイプに分けておられます。
 
 「見通しなし」、「見通しあるが、何をしたらいいかわからない」
 「見通しあり、何をしたらいいかもわかっているが行動はしていない」 
 「見通しがあり、やるべきことを理解し、行動している」

 本校でも同じように調査しましたが、
 今回は見通しのある・ないにしぼって結果を紹介しました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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