2015.01.06
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子どもの道徳性、家庭でどう養う?

第68回目のテーマは「小中学校では道徳が教科化されるようですが、家庭でも子どもの道徳性を養うことはできるでしょうか?」です。

学校よりも家庭で身に付けたい道徳性

小中学校の「道徳」が教科化される見通しとなりました。生命を大切にする心、他人を思いやる心、善悪の判断などの道徳性が、子どもの身に付くかどうかは、学校以前の、家庭生活の影響も大きいと思います。今月は、どうすれば家庭でも子どもの道徳性を養うことができるかを考えます。

まずは大人がぶれない軸を持つ

道徳が教科化されるということは、「子どもの道徳性が家庭や地域だけでは身に付かないから、学校でもっとしっかり教えるべきだ」ということではないでしょうか。だとすれば、これは、「大人が、子どもたちにしっかり道徳教育をしていない」と国から指摘されているようなものです。

もし、家庭や地域できちんと教えていれば、「学校は今まで通りで結構です」と反論もできるでしょうが、反論ができるほど大人達が自分自身の中に揺るぎない道徳性を持っているかどうか? 残念ながら疑問だと思います。まずは大人が、何が良くて何はいけないのか、自分自身の中にしっかりとした軸を持つ必要があるでしょう。

情報化社会の今、特にインターネット上にはありとあらゆる情報が流れています。例えば、排外主義的なサイトには、自分達を正当化するための都合のよい情報だけを寄せ集めて主張している所もあります。このようなサイトを見た子ども達は自分の軸、言い換えれば確固たる道徳性を持っていなければ洗脳されてしまう可能性もあります。ですから、今の時代は特に道徳性を身に付ける必要があると言えるでしょう。子どもに善悪を判断するための軸を持たせるためには、大人自身がぶれない軸を持つこと。「私はこう考える」という姿勢を大人が持っていなければ、子どもに道徳性を身に付けさせることはできないでしょう。

世界的に有名な宗教や哲学者の言葉をヒントにする

では、親自身が揺るぎない軸を持ち、子どもにもそれを伝えるにはどうすればよいでしょうか。私自身は幼い頃からキリスト教徒でしたので、道徳性は聖書を通じて養われました。例えば、人を助けなさい、大事にしなさい、困っている人がいたら喜んで自分のものを差し出しなさい等、人間が社会生活を営む上で守るべき、行うべき重要な指針を繰り返し教えられたので、それがすっかり私の中で軸となっています。子育て中も、子どもが何か悪いことをした際には、それらをお説教の中心テーマにして伝え聞かせました。子ども達がどの宗教を信じるかは彼らの自由ですが、善悪や人間の生き方に関する大事な考え方等は伝えられたのではないかと思っています。

キリスト教だけでなく、仏教やイスラム教、神道等、何千年も続く世界的に有名な宗教の教えには普遍的で道徳的なものが多く含まれています。日本人は特定の宗教を信仰する人は少ないようですが、これらメジャー宗教の教えを勉強することは、自分の軸を確立するのに役立つと思います。あるいは、プラトンや孔子等の有名な哲学者の言葉や、世界人権宣言を読むのもよいでしょう。これらから、世界中の人達がどんな道徳性を持っているかを知ることもできるでしょう。同時に、他国の人々がどのようなバックボーンを持っているかがわかり、国際理解にも役立つはずです。

「でも、我が子に『人を助けなさい、他人を愛しなさい』なんて、親の自分もできないのに、恥ずかしくて教えられない」という人も、中にはいるかもしれません。確かに、私達人間は不完全で、正しい考え方や行動を完璧にすることはなかなかできません。そんなときは、人知を超えた「神」という存在を借りてみてはどうでしょう。つまり、「キリストがこう言っているのよ」「お釈迦様がそうしなさいと教えている」というように、自分ではなく神の教えとして、“理想”を子どもに伝えることはできるかと思います。

また、親に「何がよくて、何が悪いか」の規準が確立できていないと、“後追い”の子育てになってしまうでしょう。例えば、普段あまり子育てに関わっていないお父さんが、休日に子どもを公園に連れて行ったとします。そこで活発な子どもは木登りを始めました。お父さんとしては怪我をしそうだからやめてほしい、でも普段お母さんは登ってもいいと言っているのかな、と迷いつつ「やっぱり危ないから降りて」と言ったとします。子どもは後から言われてもすぐにはやめたがらないもの。これは後追いの子育てです。

お父さん自身が「木登りは落ちて怪我をしたら危険だから、まださせない」「木登りはバランス感覚を育てるのに有効だから、補助ができる大人がいるときだけはしてもいい」等、良い悪いの判断やその理由を予め持っていれば、出かける前に子どもに教えておき、子どもも納得して遊べるでしょう。これが“先回り”の子育てです。先回りの子育てをするには、親がどういう軸を持って子育てをするか、保護者間で共有しておくことも大切だと思います。

子どもが道徳性を身に付けるには、まずは大人が道徳について勉強し、自分の中に確固たる軸を持つ。そして、折に触れ、善悪や人間の生き方に関する理想の教えを子どもに伝える。それにより、子ども自身は自分の軸を確立することでしょう。子どもたちがその軸を持って、より健全で快適な生活を送ることを願っています。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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