2014.09.30
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「男の子らしく」「女の子らしく」育てることは良い?

第65回目のテーマは「男の子は男らしく、女の子は女らしく育てるのは良いことなのでしょうか?」です。

日常にあるある、子育て上の性差

「男の子だから運動ができる子になってほしい」「女の子だからピンク色のかわいい物を持たせたい」等、親は日常生活の中で無意識のうちに子どもに性差を持たせようとしてしまいがち。果たして、それは良いことなのでしょうか?

私は、子どもの性別によって育て方に性差をつけることは良くないと思っています。なぜなら、そのことが女性・男性それぞれの生きにくさにつながっていると考えるからです。例えば、日本社会にはまだ「女性は男性を立てなくてはいけない」「男は外で稼ぎ、女は家事育児をするものだ」等の性別役割分担の意識が残っていることは否めないでしょう。その結果、本当は専業主夫をやりたい男性が無理をして外で働いたり、大勢の部下を率いて企業経営者として働きたい女性が我慢して家庭内にとどまっていたりという事態もあるはずです。このような固定観念が形成されるのは、幼い頃から「男の子は男らしく、女の子は女らしく」育てられていることも原因の一つではないでしょうか。

先日、ケネディ駐日米国大使のパーティーへ行った折、「ケネディさんのご夫君は何をしている方かしら」と話している参加者を見かけました。前任のルース大使のときには「ルースさんの奥方様は何をしている方かしら」と話す人はいなかったと思います。このように、ちょっとした会話にも人々の性別への固定観念が窺えます。

今月は、子育てに性差を持たせる・持たせないでどのような違いが起こるか、子どもを男女平等に育てるには家庭や学校で何ができるか、考えたいと思います。

性差のない家庭環境で育った子は、将来の選択肢が多い

幼い頃からピンク色が好きな男の子にはピンク色の物を持たせてあげる。活発で元気な女の子にはサッカーでも野球でも、彼女が望む運動を存分にさせてあげる等、子どもが望むことを「男だから」「女だから」ということで制限しない。このような家庭で育つ子どもは、自分らしく生きることを否定されずに成長するので、将来やりたいことや目標を色々持つことができるでしょう。

例えば、女の子でも「私は将来社長を目指す」と言うかもしれませんし、男の子でも「僕は家事や育児にとても興味があって好きだから、専業主夫に憧れる」と言うかもしれません。それで良いと思うのです。男の子も女の子も性別に関係なく、自分が目指したいことにためらいなく進んでいけるような、そんな家庭環境でありたいものです。

逆に、性差をつけて育てられた子どもは、既存の性別役割分担の意識に縛られて、「女だから、でしゃばった真似はしてはいけない」と委縮したり、「男だから、強く頼もしくなくてはならない」と必要以上に威張ったり等、心に葛藤や抑圧が生じるかもしれません。自由に自分の個性や才能を伸ばせず、将来の可能性を狭めてしまう、そんな生き方は子どもにとって不幸だと思うのです。誰でも将来の選択肢は多い方が幸せ。その人らしくいられる、生きやすい社会が望ましいと、私は考えます。

家庭や学校で子どもを性差なく育てるには?

では、性差をつけずに子育てするにはどうすればよいでしょうか。

共働き家庭であれば、まずは「家事はお母さんの仕事」という意識を夫婦が持たないようにする所から始めてみては? 家事は夫婦できっちり分担。子どもは親の背中を見て育ちますから、両親共に仕事も家事もする家庭に育てば、それが当然だと思うようになるでしょう。

母親が専業主婦で特定の仕事をしていない家庭でも、両親がお互いを尊重し、自由に意見を言い合ったり、家事をどちらか一方に押し付けたりしない環境であれば、子どもは性別に関係なく、家事は誰もが(大人だけでなく子どもも)するのが当たり前だと思えるようになるでしょう。

ただ、家庭以外の社会では、「男の子は男らしく、女の子は女らしくあるべき」と考える人の方がまだ多いでしょう。そういう壁に子どもが阻まれたときこそ、親は一番の応援団となって、子どもが希望する道を歩めるように支援することも、家庭でできることの一つだと思います。

学校では、以前は名簿が男女別に並んでいたこともありましたが、最近は混合になる等、性差をつけない教育は広まってきていると思います。しかし、男子運動部のマネージャーには女子が多い等、まだ一部には性差があるようです。マネージャーは男女ペアで務める、あるいは女子チームのマネージャーは男子が務める等、授業以外の活動でも男女平等に直していかないと、無意識のうちに生徒は「女性は男性を支える立場だ」という固定観念を持ってしまうかもしれません。

性差なく育てるとはいえ、社会規範の中で性別を意識しなくてはならない場面もありますから、それは親も教師も教えなければならないでしょう。例えば、女性は女子トイレを使い、男性は男子トイレを使うといったルールです。それ以外は、性別によって育て方に差をつけることはなくしたいと思います。なぜなら、人間としての価値は皆同じ、可能性も皆同じに持っているからです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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