2014.08.19
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教育現場からのリポートNO.9 「発達障害を理解するためのアセスメント」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回までの2回にわたって、教師が保護者との信頼関係を深め連携を取るためにはどのようにすべきか、また保護者の方にはどのように対応していただけるとよいのかについて、例を挙げてお話を進めてきました。

 子どもの困難さというのは、発達障害に原因があると限ったことではありませんし、たとえ発達障害であったとしても、周囲の対応によっては大きく改善されることもあります。そうであっても、実際に我が子が発達障害であると気付いたときの保護者の方の精神的な負担は、とても大きいとお察ししなければなりません。

 ですから、教育の質を向上させることによって困難さを抱えたこどもたちをよりよく支援していくと共に、教師自身が豊かな感性と想像力をもち、繊細な対応を心がけることが最も重要なのです。

 

 これは余談ですが、最近では保護者の方が多忙ということもあり、教師がメールという手段で連絡を取ろうとすることもあるようです。実際に私も、保護者の方が食事中であったりお子さんの世話で忙しかったりするのではないかとの配慮から、メールで連絡を取ったことがあります。しかし、そのような場合には、面談の日程調整など事務的な内容にとどめ、決して子どもにかかわる深刻な内容を伝えるべきではありません。文章だけでは、思いを十分に伝えられるのに無理があるからです。メールでやりとりをする場合は、面談で話すときよりも、さらに気をつける必要があります。

 

 さて、保護者との面談を繰り返し、信頼関係を築くことができたら、アセスメントを取るように勧めていくことになります。

 アセスメントとは,「個人の状態像を理解し,必要な支援を考えたり,将来の行動を予測したり,支援の成果を調べること」とされています。一般的には、WICK(ウイスク)などの心理テストを行って、子どもたちの実態を把握するという意味で用いられることが多いようです。WISCについては次回に詳しくお伝えしたいと思っていますが、そういった心理テストのみならず、学級での諸活動への参加の実態を把握することと併せて活用していかなければなりません。

 ところで、私は長い間、心理テストを受けさせることに抵抗を感じていました。なぜなら、子どもをテストで判断することに疑問がありましたし、結果によって全人格を決めつけてしまうような感じがしたからです。

 ですが、最近になってアセスメントに基づいた指導を行っていくことは、とても重要なことであると考え直しました。客観的・科学的な根拠に基づいた計画をもとに指導をしていくことは、子どもたちに大きな成果をもたらすということを学んだからです。

また、アセスメントの結果から、子どもを取り巻く大人が子どもの実態を共通理解しやすくなるという利点も見えてみえてきました。その背景には、特別支援教育という考え方が浸透し、学校においても多くの大人が子どもたちにかかわるようになってきたということが挙げられるでしょう。10年以上も前であれば、小学校の場合、子どもたちは学校生活のほとんどを担任教師とのかかわりの中で過ごしていました。担任と保護者が信頼関係をもって教育を行っていけば、さほど大きな問題は起こらなかったのです。

しかし最近では、子どもたちを担任一人で育てるという考え方は見られなくなってきました。低学年であっても、多くの教師がかかわって授業を行うことが珍しくなくなってきましたし、発達に何かしらの偏りがあるようだという情報があれば、特別支援教育コーディネーターや管理職、あるいは外部機関の専門家がかかわる機会が増えてきたからです。子どもにかかわる大勢の大人が、アセスメントの結果を見ることによって、より適切な支援の方法を考えることができるようになってきているのです。

 さらに、私たち教師の立場からいっても、アセスメントの結果を残していくことは大切になってきています。例えば、中学年や高学年を担任し、保護者にお子さんの困難さをお伝えすると、たいていの保護者は、「これまでの担任からそのような話は聞いていない」と、不信感を露にされます。経験から言っても、こういうときの対応が一番難しいと思います。保護者の立場からすれば、担任の指導力が低いから、我が子が困難さを抱えることになったのではないかと考えたとしても無理のないことだからです。

 もちろん、教師の指導力や相性もありますから、こういったケースを全て否定することはできません。しかし、多くの場合は、これまでの担任が上手に伝えてこられなかったという実態が隠れています。ですから、担任の考え方や指導力が原因ではなく、子どもに何らかの困難さがあることを科学的に分析してもらうことは、双方の信頼関係を損なわないためにも大事なことであると言えるのです。また、テストを行ってくれるのは、臨床心理士などの専門家であり、彼らは多くの子どもたちと接しているので、保護者の方も信頼を寄せやすいというメリッットがあります。

 

 具体的にK君の例を挙げて、お話ししてみましょう。私は、彼が3年生のときに出会いました。不安が高く、こだわりが強い子どもでした。お父さんはK君の学校での実態を耳にしても、K君は自分の小さい頃に似ているし、お母さんの子育ての仕方が悪いのだろうと考えていたようです。お母さんは担任と父親の板挟みになり、自分が悪かったのだろうかと、ご自身を責めているようなところがありました。

 そこで、時間をかけてお母さんを説得し、K君に心理テストを受けてもらうことにしました。当時、近隣の特別支援学校のコーディネーターが学校まで出向いてくれ、相談室で気軽に検査を行ってくれました。学校で検査を受けることができることほど、保護者にも教師にも安心なことはありません。こういう形態での実施は一部の地域でしか行われていないと思われますが、今後はこういった体制作りが課題となってくるだろうと思います。

 さて、結果を見ると、K君の発達にはばらつきが見られました。コーディネーターは、テストから読み取れることや、支援方法をわかりやすく説明してくれました。K君のお母さんは、それをお父さんにも伝えることによって、子育てが悪かったせいではないと説明することができたのです。また、私たち教師も連携してK君の困難さを支援することができるようになりました。

 

 確かに、アセスメントを取ることだけが重要ではありませんし、万能薬のような働きをもつわけでもありません。しかし、子どもを取り巻く大人が一同に会し、データをもとに支援の方法を考えるきっかけをつくる上では、とても効果的な手段であると思っています。

 では、心理テストとは、実際にどのようなものなのでしょうか。次回は用いられることの多い、WISC-Ⅳについて詳しくお伝えしていきたいと思います。

 

※WISCは「知能検査」と表現されることが一般的ですが、今回は東京学芸大学の藤野博教授らの講演から、「心理テスト」という表現を使わせていただくことにしました。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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