2014.08.05
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スマホを子育てに活用してもよい?

第63回目のテーマは「むずかる子どもにスマホを見せるとおとなしくなります。育児に活用してもよいでしょうか?」です。

スマホを見せると子どもは泣き止むが…

バスや電車でぐずる子どもにスマートフォンのアプリを見せてあやすお母さん。最近よく見かける 「スマホ育児」の光景です。「公共の場では、とにかく周りに迷惑をかけたくない」「むずかる子どもへの世間の冷たい視線に耐えられない!」という気持ち、 よくわかります。こういう状況への社会の不寛容さも、スマホ育児が流行る原因の一つかもしれません。

しかし、それだけでしょうか? 「すぐに泣き止むから」「あやし役に効果バツグン」等と、安易にスマホを多用している親御さんも少なくないのでは? また、「家事をしている間だけでも静 かにしてほしい」と、テレビやスマホを見せている方も多いでしょう。核家族化が進み、一人の大人だけで育児をしなくてはならない家庭では、便利な電子機器 の力に頼りたくなるのも無理もない話なのですが……。今月は、スマホやタブレット端末、テレビ等の電子機器を育児に活用する際のリスクと、うまく活用する ための留意点を考えます。

「スマホ育児」による子どもの心身への影響

スマホやタブレット端末を長時間見せられた子どもは、目、特に眼底(網膜等、視力に直接関係す る組織のある場所)に悪い影響があると言われています。確かに、大人の私でもそれらを長時間使用していると、眼精疲労は相当あります。電子機器の中でもス マホは画面自体が非常に小さいので、動画等を長時間見せると幼い目にはかなりの負担を与えるのではないでしょうか。

また、スマホ、タブレットだけでなくテレビや従来型携帯電話等でも、 明るすぎる画面を寝る直前まで見ていると、寝つきが悪くなると言われています。私もよく就寝前に電子書籍を読んでいて、眠れなくなることがあります。十分 な睡眠がとれないということは、身体にとって決して良いことではないはず。ただ、身体への直接的な影響については、臨床データが出揃っていないため、まだ 明確にはわかっていません。とはいえ、乳幼児が電子機器の画像・映像から受け取る刺激は、かなり強いことは確かではないでしょうか。

心理面への影響も少なからずあると思います。例えば、テレビ番組や ウェブ上の動画を長時間見ている子どもは、絵本への興味が薄れるかもしれません。なぜなら、絵本は自分から手に取りページをめくり、能動的に味わっていく ものですが、テレビやウェブは自分が何もしなくても面白い映像を次々と与えてくれます。このような受け身態勢で楽しめる娯楽に慣れてしまうと、子どもは絵 本に物足りなさを感じるようになるかもしれません。

それに、絵本の読み聞かせは親と子の絶好のコミュニケーションツールなのですが、子どもが絵本に興味を失えば、そのチャンスも失うことになります。また、 親に対してだけでなく、生身の人間との交流自体にあまり興味を持たなくなるかもしれません。人とやりとりしながら遊ぶよりも、テレビやウェブから勝手に流 れてくる映像を見ている方が刺激的で面白い、と思うようになるのではないでしょうか。

以上のような点から私は、乳幼児にスマホやタブレット端末を与えるのはあまり好ましくないと思っています。例えて言うなら、乳幼児の目の前でたばこを吸うのと同レベルの悪影響がある、そう考えています。

簡単な解決法ばかりとることのリスクを考えて

「家事をしている間だけでも静かにさせたい」というのであれば、スマホやタブレット端末等の小さい画面ではなく、大きい画面のテレビで、良質な子ど も向け番組を厳選して、短時間だけ見せてはいかがでしょう。放送中のものを見せると次々に番組が続き、切りが無いので、見せたい番組を予め録画しておき、 それだけを見せるのが理想的だと思います。

公共の乗り物や場所で、子どもがぐずり始めたときはどうすればよいで しょうか。まずは、「なぜ、子どもがぐずっているのか」をさっと調べます。抱っこして身体を触ってみれば、汗をかいていて暑そうだとか、お尻のほうを触っ てみれば、実はオムツが濡れていて気持ち悪そうだとか、おっぱいを吸うような仕草をしていれば、お腹が減っているようだ、喉が渇いたみたい……等々、子ど もが発するサインを受け取ります。あるいは、そのどれでもないとき、小さな絵本や音の出ないおもちゃで遊ばせたり、紙に絵を描いて見せたりと、電子機器に 頼らない方法をとってみてはどうでしょう。そうやって親が一生懸命お世話をしていれば、案外周りの人たちも温かく見守ってくれたり、助けてくれたりすると 思います。それでもだめなときは、一度乗り物から降りて落ち着かせるのも手です。赤ちゃん連れの外出はそのくらいのタイムロスを計算しておく方がよいで しょう。

子どもがぐずったからと安易に電子機器に頼り、その場しのぎばかりし ている親は、子どもの心身に悪影響を与えるだけでなく、子どもと真正面から向き合って試行錯誤しながら子育てしていくという経験をしないことになると思い ます。親は、実は子育てをすることで、忍耐力や判断力等を身につける絶好のチャンスを得ていることが多いのです。その場しのぎの親は簡単な道ばかりとるこ とにより、せっかくのチャンスを水に流していると言えるでしょう。便利な電子機器を使うことは、時代の流れでもあるので完全にやめることはできないと思い ますが、使う場合はその機械の特性や、子どもへの影響をしっかりとわかった上で、なるべく害の少ない方法で利用していただきたいと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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