2016.08.22
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

この はしの むこうに(vol.4) 【食とくらし】[小2・生き方]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第117回目の単元は「この はしの むこうに(4)」です。

自分が何を食べたか。ハンバーグ、カレーライス、ポテトサラダなどなど、料理の名前を答えることはできても、その中にどのような食材が使われていて自分の体が何から作られているのかを知っている子どもは少ないのではないでしょうか。ハンバーグならば、タマネギ、牛肉、牛乳、パン粉、卵……などなど。今日の自分は昨日までに食べたものでできている。子ども達が子どもなりにこのことに気づく、2年生「領域:生き方」の授業実践「この はしの むこうに」の第4回(最終回)を紹介します(領域「生き方」とは、生活科〈3年生からは総合的な学習の時間〉、学級活動、道徳の時間の内容を再編成して行った学習。詳しくは記事末の筆者プロフィールをご参照ください)。

「せい長日記」を作る

いよいよ、「この はしの むこうに」、最後の活動です。それは、生きた魚が刺身になる所を見て、子ども達が「食べ物は命だった。命を大切にしながら食べたい」と実感したことを実際にやってみること。この活動を通して、命をいただいて自分が成長していること、この学習を通して自分のものの見方や考え方が変化したことを実感することがねらいです。
「せい長日記」の表紙

「せい長日記」の表紙

そのために、命を大切にしながら食べていくための方法を話し合い、「おはし日記」を改良した「せい長日記」を作ることにしました。

まず、それぞれに「大切にしたい食べ方」を決め、それについての自己評価と家族からのコメントを毎日記録していきます。右の写真の日記を作った子どもは
「はしを使う時に、気持ちを込めて好き嫌いせず、残さず食べるようになりたい」
という願いを持ちました。

さらに、自分の体の型をとり、その中に自分が命をいただいたものの名前(生き物ではなく食べ物の名前でも可)をシールに書いて貼っていきました。これは、「あなたが食べたものはあなた自身」という、本実践でお世話になったゲスト・ティーチャーの生き方を子どもにわかりやすく示したものです(資料1)。

資料1:「せい長日記」の取り組み

資料1:「せい長日記」の取り組み

あなたが食べたものがあなた自身

資料2:学習の振り返り

資料2:学習の振り返り

このような体験の後に、箸について自分がわかったこととこの学習を通して自分ができるようになったことを作文に書き、学習全体の振り返りを行いました。すると、今までの自分の食べ方や友達との関わり方を振り返り、成長した自分を見出す姿が見られました(資料2)。

このような気づきがもたらされたのは、自分の体が自分の食べた物で埋まっていく様子、つまり自分の体の型がシールで埋め尽くされていく様子を見ることによって、自分の成長と食べ物はつながっているのだと実感できたからではないでしょうか。資料2の作文には
「ぼくたちは、生きものでできている。あと、生きものを食べないと生きていけない」
という気づきや
「生きものに、かんしゃの気もちをもって食べること」
という表現があり、見方や考え方の変化が伝わってきます。

おわりに

これまで4回にわたって「この はしの むこうに」の実践を紹介してきました。この子ども達は、1年過ぎても自分で作った箸を大切に持っています。きっ と、右の写真の絵のように、学習の光景が子ども達の心の中に強く残っているのでしょう。この絵の吹き出し(矢印部分)には、「しんでくれてありがとう。き れいにたべるからね」と記されています。谷川俊太郎さんの絵本『しんでくれた』(詩・谷川俊太郎 絵・塚本やすし 佼成出版社)を思い出しませんか?
ある日の授業参観の後、本実践に関わった子どもの御祖母様が色々な箸を持って教室にいらっしゃいました。
「今までエジソン箸、六角箸、そして給食用にデパートで作った名前入りの三角箸と色々な箸を買って、孫の箸の持ち方を直そうとしてきました。姉は5年生で 未だに持ち方が違うのですが、妹は正しく持つことができるようになりました。どのような箸で試してもだめだったのに、自分で作った四角箸……。これが一番 孫に合っていました。自分で自分の手に合うように作り、その苦労が孫の手と箸を正しく合わせてくれたのだと思います。この2年生での学習は、本当に良い機 会でした」
これまで使ってきた箸を布に包んで大切に持って来られた御祖母様(上写真)。大切な孫の箸の持ち方への積年の思いが伝わってきました。そのような御祖母様の願いを叶えるお手伝いが、少しできたような気がして嬉しく思いました。

いかがでしたか? 本校の生き方学習「この はしの  むこうに」。捨てられる割り箸からヒントを得て、捨てられない箸を作り、命と心をつなぐことに取り組んできました。子ども達が、大人になっても忘れない学 習、おじいちゃん、おばあちゃんになっても次の世代の食べ方を見守る人になっていればと願うばかりです。

長きにわたり、私の実践をお読み下さいました皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

山田 深雪(やまだ みゆき)

福岡教育大学附属福岡小学校 教諭

現任校勤務3年目。言語文化部(国語科)担当。
心から思うことや考え抜いたことを自分の言葉で伝えることを通して、人や社会とのつながりを築くことができる子どもを目指して日々実践を進めています。

領域「生き方」は平成25年、26年度の2年間「文部科学省教育課程特例校」の指定を受けて、生活科(3年生からは総合的な学習の時間)、学級活動、道徳の時間の時数を合わせ、それらの内容を再編成して行った学習です。本校は新たに、平成27年度より4年間、文部科学省研究開発学校の指定を受け「未来社会を創造する主体としての子供の育成」を目指し、新しい6領域の教育課程編制の中においても領域「生き方」の学習を継続しています。平成29年2月17日(金)・19日(土)に2年次の研究発表会を開催いたします。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・山田深雪/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop