2016.06.14
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この はしの むこうに(vol.3) 【食とくらし】[小2・生き方]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第116回目の単元は「この はしの むこうに(3)」です。

魚が苦手な子どもが増えています。魚を嫌いな理由として実に72.5%の人が挙げたのは「骨があるから」でした。続いて「食べるのが面倒(37.6%)」、「食べるのに時間がかかる(15.6%)」となっています(水産庁ホームページ「平成20年度 水産の動向 特集2 子どもを通じて見える日本の食卓~子どもをはぐくむ魚食の未来~」より)。子どもが好きな魚料理の第1位は「お寿司」です。つまり、箸を使って骨を取って食べることを苦手としている子どもが多いということがわかります。そこに「いのち」はあるのでしょうか?

人間は他の生き物の命をもらって自らの命をつないでいる……。この現実に子ども達が向き合う、2年生「領域:生き方」の授業実践「この はしの むこうに」(全21時間)を4回に渡って紹介します。今回は第3回です(領域「生き方」とは、生活科〈3年生からは総合的な学習の時間〉、学級活動、道徳の時間の内容を再編成して行った学習。詳しくは記事末の筆者プロフィールをご参照ください)。

箸の持ち方の前に、取り上げ方を・・・

子どもたちはマイ箸で給食を食べた後、
「自分の箸を正しく使えるようになりたい」
 という新たな願いが生まれました。そこで、食育関係のゲストティーチャーから正しい箸の使い方について学ぶ機会を設けました。しかし、ゲストティーチャーから授業の前に宿題に出されたのは、箸のことではなく、小さな折り紙で鶴を折ってくることでした。

さて、授業当日。子ども達は、予め家庭で伝統的な箸の持ち方を習ってきたので自信満々。ところが、ゲストティーチャーが最初に見せた物は「箸置き」でした。そう、宿題の鶴は箸置きだったのです。

ゲストティーチャーは
「箸置きがないと、箸を持つ前に、箸を取り上げることができないのですよ」
 と言いながら、両手で大切そうに美しく箸を取り上げました。その仕草を見て子ども達は、
「だから“お”箸なんだ!」
 と気づきました。この時点では、
「箸は大事な物だから“お”を付ける」
 と、子ども達は考えていました。

さあ、いよいよ実践!
1. 右手で箸の中央あたりを上からつまんで少し持ち上げて左手を下から添え、
2. 右手を右端にくるっと滑らすように移動して下に添え、
3. 正しい位置で持つ。

子ども達はゲストティーチャーと「いち、に、さん」と言いながら頑張りますが、これがなかなか難しい……。
「ふう、食べるまでに大変だ……」
 と言いながらも練習を重ね、やっとの思いで箸を取り上げることができるようになりました。そして、伝統的な箸の持ち方を習い、今日から2週間、夕食を必ずマイ箸で食べて「おはし日記」をつけることにしました。

マイ箸で食べて「おはし日記」をつける

「おはし日記」は、「夕食のメニュー」と「箸の取り上げ方・持ち方の評価」「自分の感想」「おうちの人からの評価」の4項目を毎日記録していくものです。毎日担任に提出し、担任からのコメントを書いていくようにしました。保護者からは、子ども達の様子について次のような感想をいただきました。

●マイ箸で食べるために、すっかり外食が少なくなりました。お箸で食べやすいように食材を適度な大きさに切ったり、和食にしたりと少々大変ですが、子どもが正しい持ち方で食べようと頑張っているのを見ると作りがいがあります。

●学校で習ってきた箸の取り上げ方から家族皆で練習しています。お箸の持ち方だけではなく、姿勢やマナーも良くなり、親の方が注意されることも……。

●先日ラーメン屋さんに行った時に、大将に「お箸持っています」と息子から言って、お店の割り箸を使いませんでした。マイ箸は物を大切にすることにもつながりますね。

●マイ箸で食べるようになってから、自分が食べた箸を自分で洗うことが日課となりました。

保護者からの評判も上々です。しかし、副菜や汁物は伝統的な箸の持ち方で食べることができても、小骨の多い魚になると「△」の評価が目立つようになりました。そこで、ゲストティーチャーに「おはし日記」の取り組みの成果を報告する機会を設けました。

「この はしの むこうに」あるものは?

食べにくさを感じている子どもが最も多い「魚」に関して、ゲストティーチャーが焼き魚を残さずきれいに食べた写真を提示すると、
「どうやったら、こんなにきれいに食べられるんだろう?」
 という声が上がりました。
「お箸の使い方がすごくうまいんだよ!」
「魚のむしり方のコツがあるんじゃない?」
 などと様々なつぶやきが出てきます。

このような子ども達の声に対して、ゲストティーチャーは、なんと生きたアジが刺身になるまでを目の前で見せたのです。子ども達は、さっきまで水槽で泳いでいた魚に包丁を入れ、身をさばき、魚の血やしばらくして動かなくなった魚の様子を間近に見て衝撃を受けました。

その後、ゲストティーチャーは子ども達に、焼き魚の食べ方よりも刺身になるまでを見せたわけを伝えました。子ども達はそれを受けて、自分達が箸で食べているものは何かについて話し合いました。

Aさん:お魚は死んでしまったら、私達の体に入って大きくなれない。だから(魚を殺して食べることは)少しいけないと思います。

B君:人間っていうのは生き物を殺して食べるんだけど、その前に「いただきます」って言うから、命をもらうんじゃなくて命をいただくんだと思います(だから、食べることは悪くない)。

C君:ゲストティーチャーの方は、正しい箸の持ち方の前に、箸を使ってこんな風に命を食べるんだよって教えたかったと思います。

子ども達は、「食べ物は食べ物となる前に命ある生き物だった」ことを改めて確認し、「この はしのむこうに」は、食材となった様々な動植物の命があることに気づきました。

こうして、「自分の箸を正しく使えるようになりたい」という願いが、「命を大切に思って食べたい」という願いへと広がりました。

第3回は、ここまで。次回は、いよいよ最終回! 命を大切に思って食べ続けた子ども達の成長についてお話したいと思います。

山田 深雪(やまだ みゆき)

福岡教育大学附属福岡小学校 教諭

現任校勤務3年目。言語文化部(国語科)担当。
心から思うことや考え抜いたことを自分の言葉で伝えることを通して、人や社会とのつながりを築くことができる子どもを目指して日々実践を進めています。

領域「生き方」は平成25年、26年度の2年間「文部科学省教育課程特例校」の指定を受けて、生活科(3年生からは総合的な学習の時間)、学級活動、道徳の時間の時数を合わせ、それらの内容を再編成して行った学習です。本校は新たに、平成27年度より4年間、文部科学省研究開発学校の指定を受け「未来社会を創造する主体としての子どもの育成」を目指し、新しい6領域の教育課程編制の中においても領域「生き方」の学習を継続しています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・山田深雪/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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