2016.04.19
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もったいないを考えよう 【食と暮らし】[小6・家庭科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第114回目の単元は「もったいないを考えよう」です。

環境を守る世界の共通語として有名となった美しい日本語「MOTTAINAI」。「もったいない」には、Reduce(ゴミ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)という環境活動の3Rをたった一言で表すだけでなく、かけがえのない地球資源に対するRespect(尊敬の念)が込められています。ノーベル平和賞を獲得したワンガリ・マータイさんは、この「もったいない」という日本語に強く感銘を受け、環境を守る国際語「MOTTAINAI」として世界に広めていくことを決意しました。無駄にされる食材を皆で協同して新たに活用する視点から、「もったいない」について考える1時間の授業です。

「ろすのん」の願いは、食品ロスをなくしたい

「の願い」と書かれた短冊を黒板に貼る所から、授業が始まります。子ども達からすぐに
「の願い……」
 と読み上げる声が聞こえてきました。
「今日、皆と勉強したい『の願い』は……」
 と言いながら、「のんの願い」と書かれた短冊を少し見せます。子ども達は、貼られた「のん」から、何だろうと必死に考えています。皆の様子を見渡しながら、
「『ろすのん』って言う言葉が前に入るんだよ。皆、知っているでしょ? ろすのん」
 と、問い掛けました。子ども達から、
「あ、くまもん……?」
「ゆるキャラ……?」
 などの声が上がり、戸惑いながらも「ろすのん」についてのイメージが徐々にわいてきた様子です。そこで、すかさず
「皆、ろすのんを見てみたい?」
 と聞き、ろすのんのデザイン画(内閣府ホームページ)を見せます。子ども達は身を乗り出し、ろすのんに興味津々です。そして、「日の丸」「ラーメン」「食べ物」と、ろすのんから思いついたことを話し出しました。
「皆、ちょっと待って。1分間あげますので、ろすのんを見て気づいたことや、これ何かなとか、不思議に思ったことを隣の人と話し合って下さい」
 すぐに子ども達は話し始めました。
「あの絵からさ……」
「やっぱり日の丸弁当でしょ……」
 隣の人に伝えるためにろすのんを指差したり、身振り手振りを交えたりしながら一生懸命、ろすのんについて話し合っています。

1分後、子ども達から
「何か涙みたいなものがある」
 との声。どうやら、ろすのんの右目に注目したようです。
「そうなのです。ろすのんは泣いているのです。どうしてろすのんは泣いているのだと思う?」
 と問い掛けると、すかさず
「鼻がでかいから」
 という声が聞こえてきました。ワッと、クラス中から笑いが弾けます。そこで、
「鼻がでかいなぁ。鼻の部分に注目」
 と、子ども達に焦点化する視点を示しました。すると、
「日の丸みたい」
 という発言が。それを受けて、
「どうやら日本のことで泣いているようですね」
 と返します。今度は
「環境問題とか……」
 さすが、6年生 ならではの答えが返ってきました。さらに子ども達から、
「ロスタイム」
 との声。
「ロスタイム。いいセンスしていますね。ろすは無駄、のんはノーという意味が含まれています」
 と説明します。子ども達は
「むだノー」
 と声に出してみます。
「そう、ろすのんは『無駄は嫌だ』と言っているのです。では、何について、ろすのんは無駄が嫌だと言っているのでしょうか?」
 と聞きながら、ろすのんの口の部分に注目するよう、手で示します。子ども達からすぐに、「はし……」「箸?」と声が聞こえてきました。
「正解。お箸です」
 と、返すと「和食」「食べ残し」という声が聞こえ始めました。
「そう正解です。食品のロスをなくすためのノンという意味で名づけられました。ろすのんは男の子です」
 と答えを言い、続いて、ろすのんのデザイン画を元に名前の由来について説明していきます。
「これはお皿です。そしてでっかい鼻、これはお箸です。ろすのんのプロフィール、皆の考えたことは、当たっていましたね。『もったいない』と言って右目は泣いています。食品のロスをなくしたいと願って泣いているのですね」
 と、食品ロスについて押さえます。

自分達の生活から「もったいない」を考える

「日本の政府が、ろすのんをゆるキャラにして皆さんに『食べ物を残さないで下さいね』『無駄を出さないで下さいね』って言っているのだけれど、私達はそんなにたくさん食べ物を無駄にしているのかな?」
 と問い掛けました。もちろんこの問いだけでは広すぎるので、
「給食ではどうでしょう?」
 と焦点を絞って子ども達に問い掛けます。すると、
「お汁」
 という声が出てきました。
「お汁なんかを残すってことかな?」
 と促すと、
「ご飯粒とかさ、周りに残るから……」
 子ども達は自分達の生活の中で、どんなもったいないことがあるだろうと考え始めました。

そこで
「皆の家の冷蔵庫は…」
 と切り出します。
「賞味期限が切れているものがある」
 との一人の子の発言に、皆納得の表情。それを受けて教師は食品援助量と日本の食品ロスのグラフを提示し、食品援助量の約2倍、日本は食品ロスしていることを資料から読み取らせます。
「国民一人当たりで考えると、先生も皆も、おにぎりを毎日約2個分捨てていることになります」
 と確認し、食品ロスをなくすことの大切さに目を向けさせるようにします。そして、
「買い物している所から調理、後片付けをする所まで家庭科の授業のことを思い出して、食べ物を無駄にしない工夫や方法を班で考えてみて」
 と、投げ掛けます。子ども達は熱心に話し合いを始めました。
「私の家ではね」
「ニンジンとかは、さ」
 と、家庭で実際に行っていること、家庭科で習ったことを思い出しながら真剣に話し合っています。

そして全体発表。「買う・調理・後片付け」の時系列で意見を出し合うことを、子ども達と確認した上で始めます。

[買うときの工夫]
・必要なものだけ買うこと
・家でメモ用紙に箇条書きして買う
・冷蔵庫の中を確認したり、自分で確認したりしてから買いに行く

[調理の工夫]
・賞味期限を見て、考えて調理する
・無駄がないように調理する
・カレーが余った分をカレーうどんにしてなくなるまで使い切る
・家庭科で習ったように、大根などは皮ごと調理する

[後片付けの工夫]
・分別する
・油を先に拭き取る

以上のような子ども達の発言に対して、
「自分の家で実際にやっているということは素敵だよね。それに、昔ながらの知恵にも、ろすのんが泣かない知恵があるかもしれませんね」
 と、整理しながら茶殻の活用法を考える活動に進みます。

茶殻の活用法を話し合う

茶殻に着目させるために、急須にお湯を入れ、お茶を湯呑に注いで、実際に子ども達の前でお茶を飲んでみせます。飲み終わった後、急須を持って
「この中に何か残らないかな?」
 と子ども達に聞きます。子ども達からは、勢い良く
「茶葉」
 という声が上がります。その声を拾って、茶殻が残ることを子ども達と確認します。
「食べると言うことで『ろすのん』が泣かない工夫を皆はこれまで考えてくれましたね。家庭科で実践したり、おうちで行ったりする、そんな知恵がたくさん集まりました。では、今度は食べ物ではないのだけれど、この茶殻を活かす方法はないかな?」
 と聞きます。子ども達は少し悩んでいるようです。そこで、考える足がかりとして
「昔の人は畳に乾いた茶殻をまいて箒で掃除していました」
 と伝え、茶殻には「消臭性」と「抗菌性」という良さがあるのに、捨ててしまうのはもったいないことに気づかせます。子ども達が発想しやすいように株式会社伊藤園の茶殻リサイクルの例を紹介します。
「実は、伊藤園の人達も茶殻を再利用するアイディアを考えました」
 と、企業が茶殻を活かした取組を実際に行っていることを伝えました。それだけ茶殻が余ってしまう切実な悩みがあることを確認します。
「伊藤園の人が考えた第一弾は……」
 と言いながら、茶殻を利用した封筒を見せます。
「えぇっ、封筒!?」
 子ども達から驚きの声が上がります。この封筒を足がかりに子ども達に茶殻の再利用の方法について考えさせます。
「君達だったらどんな風に茶殻を利用するか考えてみてください」
 と改めて問い掛け、活動の仕方を次のように指示します。
・ホワイトボードを使う
・書記を一人決める
・横書きをする
・大きな文字で遠くからでも見えるサイズに書く
・思いついただけ書く

班ごとに活発な話し合いが始まります。
「抗菌性があるから病院のトイレに……」
「ノートに使うといいよね」
「靴箱に入れる」
「三角コーナーにする」
等々、茶殻の活用法のアイディアが次々と出てきます。

考えが出揃った所で、班ごとに話し合って書いたホワイトボードを黒板に貼ります。子ども達が貼ったホワイトボードに線を引き、
「先生が線を引いた理由は何か、わかる?」
 と聞き、子ども達の考え出したアイディアの共通項に目を向けさせます。子ども達からは「紙類」と返ってきました。その他にも、「歯磨き粉」「和紙」「消臭力」「マスク」など、茶殻の消臭性と抗菌性を活かしたアイディアがたくさん出てきました。

協同すれば問題解決できる展望を持つ

「伊藤園の人が色んな人と知恵を出し合って作った商品を紹介します」
 と、畳の芯や靴の中敷き、三角コーナーの写真を子ども達に見せていきます。実際に、お茶で作ったビニール袋を各班に配りました。子ども達は「すごい」と大喜びです。皆、夢中で袋に鼻を近づけて香りを楽しんでいます。
「わぁー、いい匂い」
「和の匂いがする」
 とお茶で作られた袋に感動していました。さらに、袋に書いてある「ジェイフィルム(株)」という表記に気づかせ、伊藤園の人達だけでは商品の開発ができないので、協同開発をしていることを教えました。
「色んな人と協力して考えることはいいことだね。他にもこんなことを伊藤園の人は考えました」
 と言って、茶殻を使ったプランターや名刺の写真を見せていきます。子ども達からは
「すごいなぁ」
「欲しい」
 といった声が聞こえてきました。

「こうやって企業の人も頑張っているのですね。茶殻って無駄なものですか? 違いますね。こういう風にして、皆で協力して知恵を出し合って茶殻を利用したら、茶殻は有価物になるのですね。茶殻も価値のあるものになるよと伊藤園の方も話して下さいました。こうやって皆でアイディアを使って活かしていくとMOTAINAIが世界に広がります」
 と、最後に締めくくり、授業を終えました。MOTTAINAIを聞いた子ども達は
「知っているよ」
 と授業が終わっても楽しそうに話していました。

授業の展開例
  • 環境に優しい調理を実際にやってみましょう。
  • 世界共通語「MOTTAINAI」として広めることを提唱したワンガリ・マータイさんの活動について調べてみましょう。
関連情報

◆「ろすのん」について
6府省庁(内閣府、消費者庁、文部科学省、農林水産省、経済産業省、環境省)が連携してプロジェクトを進めるに当たり、ロゴマークを作成しました。

[名前:ろすのん(男の子)]
・食品ロスをなくす(non)という意味から命名
・280件の応募の中から決定(平成25年12月)

[ろすのんに込めたメッセージ]
・真ん中の赤丸「●」は、お皿をイメージ(食品ロス問題を訴える)
・下の二本線「=」は、お箸をイメージ
・右目の涙は「もったいない」感情を表現

[ろすのんの口グセ]
・語尾に「のん」が付く

日本人は毎日、おにぎり 1~2個を捨てていると言われます。この数字は、食べられるのに廃棄されている食品、いわゆる「食品ロス」から試算したもので、日本国内で年間約500 万~800万トン(平成22年度推計/農林水産省)にも上ります。これは、世界全体の食料援助量の2倍に当たり、日本の米収穫量に匹敵するとい言います。

◆伊藤園の「茶殻リサイクルシステム」
緑茶飲料『お~いお茶』の製造工程で発生する茶殻を有効活用する取組。茶殻を乾燥させることなく輸送・保存して工業製品に配合する技術を確立しました。現 在は異業種と組んで、抗菌性、消臭生、香りといったカテキン機能を生かした製品開発を様々な分野で展開しています。

松井 香奈(まつい かな)

武庫川女子大学大学院在籍中。教育学の研究の傍ら、ワークショップを取り入れた楽しみながら学ぶ食育の授業プラン作成にも取り組んでいる。現在、「宇宙食」をテーマにした食育プランを開発中。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・松井香奈/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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