2015.10.20
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この はしの むこうに(vol.1) 【食とくらし】[小2・生き方]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第109回目の単元は「この はしの むこうに」です。

伝統的な(正しい)箸の持ち方をしているのは、全国の18 歳以上の男女のうち約半数の54%という調査結果があります(出典:平成22年1月内閣府食育推進室調査「食事に関する習慣と規範意識に関する調査報告書」より)。統計的に見れば、正しい箸使いを二人に一人ができているという計算です。しかし、箸を持つ前の「箸の取り上げ方」を意識している人はどれくらいいるでしょうか。箸の作法では、箸を利き手で持つ前に、箸を両手で大切に取り上げる美しい瞬間があります。

一方で、日本の割り箸の消費量は約250億膳(出典:「林野庁 こども森林館 森林Q&A」より)と言われています。これは、一人当たり年間200膳程度の割り箸を利用していることになります。箸に「お」を付けて「お箸」と呼ぶ文化がある一方で、大量に捨てられている割り箸文化もあるのです。この差の中にあるのは何でしょうか。

このような疑問を種に、食と命を子どもの願いをもとにつないでいった、2年生「領域:生き方」の授業実践「この はしの むこうに」(全21時間)を4回に渡って紹介します。今回はその第1回目です(領域「生き方」とは、生活科〈3年生からは総合的な学習の時間〉、学級活動、道徳の時間の内容を再編成して行った学習。詳しくは記事末の筆者プロフィールをご参照ください)。

色々な長さの箸を使ってみる

「明日から、お箸の勉強をしますよ。楽しみにしていてくださいね」
 これだけを前日の帰りの会で子ども達に伝えると、
「僕、ちゃんとお箸使えるよ」
「私、ちゃんとお箸を持てません」
 など、「正しい持ち方」についての声があふれ出てきました。子ども達の中には、「お箸の勉強=正しい持ち方」というイメージが強くあるようです。本当は、お箸の持ち方の向こうにある失われた命について学んでいくのですが……。子ども達がいつ「命」の存在に気づくのかを楽しみにしながら、全21時間の「生き方」学習がスタートしました。

第1時はあえて「正しさ」から入りませんでした。教師の「箸を正しく使いましょう」という言葉に応じるのではなく、「箸を正しく使えるようになりたい」と子ども達が自ら思わなければ、子ども一人一人の食に対する生き方は変わらないと考えたからです。そこで、それぞれの班の机上に以下のような様々な箸を用意しました。

  • 竹でできた、丸い菜箸(30cm)
  • プラスチックでできた、方形の子ども用の箸(18cm)
  • 木でできた、方形の子ども用の箸(18cm)
  • 木でできた、方形の大人用の箸(24cm)

 そして、水の中に浸した3cm四方のスポンジ10個と大豆の山を置きました。

好きな箸を使って大豆や湿ったスポンジを皿に移す

好きな箸を使って大豆や湿ったスポンジを皿に移す

「今日は、まず、箸を使って目の前にあるスポンジや大豆を別の皿に移すことをやってみましょう」
 と投げ掛けると
「先生、種類がばらばらだけど、どの箸を使ってもいいのですか?」
 という質問が出ました。
「もちろんです。自分が好きな箸を使っていいですよ」
と伝えると、子ども達は真っ先に一番長い菜箸を手に取りました。普段使わない長さの箸で自分の力を試したいといった所でしょうか。子ども達は、スタートを告げる私の声を合図に、30秒で大豆や水を含んで重たくなったスポンジを別の皿へ動かしていきます。
「スポンジが意外と重い!」
「豆がつるつるする!」
 などのつぶやきと、友達を応援する「頑張れ!」の声が教室内に響き渡りました。これを何度か繰り返し、結果と感想を交流しました。
「スポンジはつまみやすかったけれど、大豆はすべってなかなかつまめませんでした。短い箸がよかったです」
「プラスチックの箸はすごく滑ったので、短い木の箸が一番大豆を動かすことができました」
「菜箸は、長いからつまみにくいと思っていたけれど、多分先がギザギザになっているから、思っていたよりもつまみやすかったです」
 このように、長さや材質、滑り止めの有無など様々な視点から感想が出てきました。今まで箸を「物」として見ていた子ども達が、箸の「質」や「特徴」にも目を向け始めたのです。

自分の手に合った箸の長さを知る

子どもによって使いやすい箸は異なりましたが、大多数は「プラスチックでできた、方形の子ども用の箸(18cm)」か「木でできた、方形の子ども用の箸(18cm)」を一番に挙げました。そこで、箸には手の大きさによって使いやすい長さがあることを伝えました。そして子ども達に、
「自分の手の大きさに合った、箸の長さを知りたいですか?」
 と尋ねると
「知りたいです!」
 と元気な声が返ってきました。

「まず、自分が箸を持つ手でこの形を作ります(右写真)。次に親指の先と人差し指の先の間の長さ(写真中の赤い線部分)を測って、その長さをノートに書きましょう」
 早速、子ども達は友達と協力して長さを測ります。14.4cm などは14cmとして近い整数に合わせるように指示をしました。
「次に、ノートに書いた長さの半分の長さを考えて、書きましょう」
「うわぁ、難しい! どうすればいいの?」
 割り算を知らない小学校2年生の子ども達には難題です。そこで、活躍したのが大豆です。12cmの半分の長さを12個の大豆を6個と6個に分けることで確認し、見事に「6cm」という答えを導き出しました。しかし、大豆では解決できない問題もありました。
「先生、13cmの半分がわかりません」
 という声が……。小数を知らない子ども達に「6.5cm」と言ってもわかりません。そこで、
「皆の体はどんどん大きくなるので、大きくなっても大丈夫なように、きれいに半分にできない長さの9cm、11cm、13cm、15cmの人は、『ノートに書いた長さ』を10cm、12cm、14cm、16cmに変えましょう」
 と伝え、何とか「半分の長さ」を求めました。

「さあ、いよいよ最後です。『ノートに書いた長さ』と『半分の長さ』を合わせましょう。それが、自分の手の大きさに合った、箸の長さですよ」
 子ども達は一斉に計算を始め、
「私は18cmだよ! これくらいかあ」
 と、30cmものさしの18cmの所を眺めたり
「僕は16cmだ。Aさんよりも短いね」
 と、お隣のAさんよりも手が小さいことを確かめたりするなど、様々な歓声がわき起こりました。

そのような中、ある子どもが
「先生、『ノートに書いた長さ』は何と言うのですか?」
 という疑問を投げ掛けてきました。
「大変良い質問ですね。この親指の先と人差し指の先の間の長さを『一咫(ひとあた)』と言います」
「じゃあ、半分も足したから『一咫(ひとあた)と半分』ですね」
「そうです、『一咫半(ひとあたはん)』と言います」
 子ども達は、「へえ、知らなかった。いいことを聞いたな。家に帰ったら、お母さんや妹に教えよう」と大喜びです。このようにして、自分の手に合った箸の長さを知った所で、次時の学習を伝えます。

最初の体験につなぐ

「今日は、自分の手の大きさに合う箸の長さがわかったからよかったです。家の箸の長さを確かめたいと思いました」
「自分の手に合った箸を使って大豆つまみをもう1回したいです。多分、今日よりも良い記録が出ると思います」
 このような振り返りの感想が述べられる中、私から子ども達に提案をしました。
「せっかく、自分の手の大きさに合う箸の長さがわかったのだから、次の時間は自分で自分の箸『マイはし』を作ってみましょうか」
「ええっー!!」
 驚きと共に、教室に割れるような歓声が響いた後、つぶやきがさざ波のように広がっていきます。
「僕達に出来ますか?」
「どうやって作るのですか?」
「ちゃんと作れるかなあ」
「でも、やってみたい……」
「うん、やってみたい。世界に一つだけの自分の箸!」
 もう一度「自分の箸を作ってみる?」と尋ねると、「はい!」と元気な声が返ってきました。こうして次回、第2時~第5時にて「マイはし」作りに挑戦することとなりました。

山田 深雪(やまだ みゆき)

福岡教育大学附属福岡小学校 教諭

現任校勤務2年目。言語文化部(国語科)担当。
心から思うことや考え抜いたことを自分の言葉で伝えることを通して、人や社会とのつながりを築くことができる子どもを目指して日々実践を進めています。

領域「生き方」は平成25年、26年度の2年間「文部科学省教育課程特例校」の指定を受けて、生活科(3年生からは総合的な学習の時間)、学級活動、道徳の時間の内容を再編成して行った学習です。本校は新たに、平成27年度より4年間、文部科学省研究開発学校の指定を受け「未来社会を創造する主体としての子供の育成」をめざし、新しい6領域1時間の教育課程編成の中においても領域「生き方」の学習を継続しています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・山田深雪/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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