2015.05.19
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塩かげん(さじかげん) 【食と言葉】[小5・国語科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第104回目の単元は「塩かげん(さじかげん)」です。

4年生で熟語を学んだ子ども達は、本単元(光村図書:国語5年「漢字の読み方と使い方」)で「漢字には複数の音を持つものがある」「特別な読み方をするものがある」ことを学びます。漢字はそれ自体に意味を持っていますが、時代と共に言葉が変化するように漢字の使い方も変わってきました。「塩梅」もその一つです。

今回は、教科書を使って上記の学習をした後に、「塩梅」を手がかりに類語を探す学習に取り組みました。子ども達は、「塩梅」の意味を推測したり文脈から違う熟語に置き換えたりして、言葉が変化することと、一つの言葉が多様な使われ方をすることに気づきました。さらに、栄養教諭と連携することで、食に関する言葉から日本人が大切にしてきた味覚や調理方法等、日本の食文化に興味・関心を広げることができます。

「塩梅」の読み方と意味は?

前時に学習した「特別な読み方をする漢字」の復習をした後、言葉カード「塩梅」を提示して、読み方と意味を尋ねます。
「この漢字は何と読むでしょう?」
「意味も併せて考えてみましょう」
 という教師の発問に、子ども達は悩みながらワークシートに読みと意味を書いていきました。漢字一文字ずつの意味を確かめた後、「塩梅」の読み方を尋ねると、大半の子は「しおうめ」「エンバイ」と読みました。意味を尋ねると、
「塩と梅だから、塩に漬けた梅のことかな」
「塩水に漬けた梅かも」
「塩がたくさんかかった梅のことや」
「きっと、しょっぱい梅のことです」
「でも何かおかしい。わからないな」。

ここで、汁物をおいしく食している人の絵カ-ドを提示しました。すると、絵を見た一人の子が、
「味付けのおいしいお吸い物や」
 という意見を言いました。そこで、教師が「アンバイ」と読むことを伝え、さらに昔は「エンバイ」と読んでいたのが時代と共に読み方が変化して変わり、塩と梅酢で調味することから味加減を整える意味を持っていることを簡単に説明しました。

すると、一人の子が、
「『大造じいさんとガン』で『アンバイ』の言葉が出ていたよ」
 とつぶやきました。隣に座っていた子がすかさず、大きな声で
「『大造じいさんとガン』に『アンバイ』って載っている」
 と大きな声で言いました。その子は、該当のページを開いて見せてくれました。それは、2の場面で、大造じいさんがガンを捕獲するためにタニシをばらまいて餌場にする所でした。
「ほんまや、アンバイって書いてある」
「私のおばあちゃんが、よく『いいアンバイや』と言っていたわ」
 等の発言がありました。

「アンバイ」の様々な使い方

「アンバイは、味がおいしいときだけでなく様々な場面で使われます。どんな意味で使われるか例文を基に考えてみましょう。意味を考えながら、アンバイを違う熟語で表してみましょう」
 と言って、2枚の絵を提示します。そして、
「どんな様子でしょう?」
 と尋ねると、1枚目については、
「風邪をひいている」
「熱が出ている」
「しんどそう」。
 2枚目については、
「温泉に入っている」
「い・い・ゆ・だ・な~」
「気持ち良さそう」
 という意見が出ました。

ここで例文を提示し、
「体のアンバイがよくない」
「湯がいいアンバイだ」
 と全員で読みます。
「では、塩梅(「案配」「按排」とも書く)を使わずに同じような意味の文章にするには、どんな熟語を使えばいいでしょう?」
 という発問に、次のような意見が出ました。

<身体> 体のアンバイがよくない。
→(具合)(調子)(加減)

<物事> 湯がいいアンバイだ。
→(加減)(具合)(温度?)

出てきた意見の中の(温度)については頑張って考えたことを認め、教師がこれら意見を整理して(具合)や(加減)に留意するよう促した後、「類語」について押さえました。

この後、国語辞典で「アンバイ」を引き意味を確かめました。

※参照:『広辞苑』【塩梅・按排・按配】より

塩梅(アンバイ)はエンバイの転で、按配・按排とは本来別系統の語であるが、混同して用いる。(1)塩と梅酢で賞味すること。一般に料理の味加減を整えること。また、その味加減。(2)ものごとのほどあい。かげん。特に体の具合。(3)ほどよく並べた、ほどよく処理したりすること。

「アンバイ」と「食」との結びつき~栄養教諭からのメッセージ

「今、加減という言葉が出てきたけど、皆は塩加減っていう言葉を聞いたことはないですか?」
 と聞きます。
「料理のときに聞いたことがある」
「塩加減がいいとか……」
 と子ども達。そこで、
「今度、皆は調理実習をする予定ですね。ここで、栄養教諭の先生から皆にメッセージが届いています。紹介します」
 と言って、栄養教諭のメッセージを紹介しました。次の通りです。
「塩」は、調理をするときに一番大事な調味料であり、味の中心となるものです。しかし、日本人は他国の人に比べて、塩を摂りすぎているそうです。だしを上手く利用して、できるだけ塩を控えたいものですが(だしがよく効いていると、塩は少なくてもおいしく感じることができます)、どれだけ塩を入れるか、さじ加減一つで料理のおいしさに大きく影響が出ます。
料理に使う言葉にも、「塩小さじ1」「塩ひとつまみ」「塩少々」と、微妙な塩の加減があります。皆さんはどれくらいの量か想像できますか。「小さじ1」は小さじの軽量スプーンにすりきり1杯。「ひとつまみ」は親指、人差し指、中指の3本の指で塩をつまんだ量。「少々」は親指、人差し指の2本の指でつまんだ量のことを言います。この微妙なさじ加減が味の差につながるのですね。

家庭科とつなげる~「ごはんと味噌汁を作ろう」

栄養教諭の話を紹介した後、これから家庭科の調理実習(ごはん・味噌汁)があることや和食の「だし」について学習することを伝えました。授業を振り返り、子ども達は次のような感想を持ちました。

「昔と現在とで字や読み方が変わっていることについて不思議に思いました。他にも変化した漢字を知りたいです」。

「この勉強をして、漢字の中でも特別な読み方をするものがあることは知っていたけど、塩と梅と書いてアンバイと読むことは知りませんでした。類語をもっと調べたいです」。

「漢字の読み方が食生活によって変化していて、漢字は色々なことに関係していることを知りました。意味も様々だったから、漢字は面白いと思いました」。

「4年生で『青菜に塩』を習いました。他にも塩に関係する言葉を調べたいです」。

「最近、テレビでよく『減塩』って聞くよ」。

「塩加減が味を決める。塩って大事だと思いました」。

授業の展開例
  • 普段使っている「料理の言葉」には、秘密が隠されています。食の世界がさらに広がる「料理の言葉」を調べてみましょう。
  • 肉や魚に下味をつけるときに使う塩少々とは、どれくらいの量を言うのでしょうか。

南あわじ市立榎列小学校 食育推進部会

「どこでも いつでも みんなで」を合言葉に、食育を学校教育全体で取り組む研究を進めている。栄養教諭が学校に在籍していないため、栄養教諭(給食センター)との連携方法や給食の時間の活用の仕方、教科における食育実践を主な課題として取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文:南あわじ市立榎列小学校 食育推進部会/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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