2005.10.25
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学校内に株式会社!? 何でも有りの進んだ実践教育 アメリカ・ミシガン州より

今回はアメリカの椰子ノ木やほいさんからの話題です。ミシガン州のある公立高校では職業訓練校が併設され、テレビ番組制作、建築、インテリアデザイン、自動車修理、水道工事、介護、農業、マーケティング......など、多彩なプログラムの中からさまざまな授業を自由に修得できます。しかも、それらはすべて履修単位として認定されるのだそうです。

設備の整ったハイスクール

設備の整ったハイスクール

我が家の子どもたちは、アメリカ・ミシガン州の公立学校にお世話になっている。「公立」で概ね想像できる日本の教育システムと違い、アメリカの場合は、義 務教育の期間や制度は州によって異なる。さらに学校の方針やカリキュラムなどは、州で定められた教育事項に基づき、カウンティー(郡)の下、学校区の教育 委員会により決められるので、一口に「アメリカの公立学校」と言っても、地域格差は大きく、それぞれの地域や学校によりさまざまな個性が見られる。
隣のエリア・テクニカル・センターとは、中で繋がっている。

隣のエリア・テクニカル・センターとは、中で繋がっている。

我が家が住む地域のハイスクールでは、実践教育がたいへん盛んだ。特に、ハイスクールの隣には、エリア・テクニカル・センターという名の職業訓練校が併設 されているおかけで、ハイスクールの生徒たちは、必須科目をこなしてさえいれば、並行して、そちらに用意されている授業を選択科目として自由に取ることが できる。入り口も校長も違うのだが、建物は中で繋がっているので自由に両校を行き来できる。
まるでほんとの テレビ局みたい。

まるでほんとの テレビ局みたい。

たとえば、数学や生物、化学、英語、歴史、体育などの普通の授業をハイスクールで勉強する傍ら、となりの職業訓練校に用意されている、テレビ番組制 作、木工、建築、インテリアデザイン、設計、自動車修理、水道工事、空調設備、コンピューター、介護、農業、機械、マーケティングなど、多彩なプログラム の中からもまた、それぞれの興味にあったクラスを受講できる。そして、その単位はハイスクールの履修単位として認定されるのだ。

そんな背景のなか、日本人である私の常識を打ち破った「実践教育」の例を紹介しよう。校内にある売店やカフェは、それぞれ マーケティングやフードサービスというクラスが運営している。学校内放送が充実していると思ったら、ブロードキャスティングやテレビ番組制作のクラスが授 業の一環として番組の製作から放映を担当していた。ハイスクールの生徒たちがやけに毎日、道路を一本隔てたところにある民間ボーリング場に、ぞろぞろ入っ て行くなぁと思っていたら、ボーリングは体育の授業の一環だった。そして極めつけは、設計、インテリアデザイン、空調、水道設備など建築に関わるクラスが 協力し合い、学校の近所に本物の家を建ててしまうというものだ。生徒たちによって建てられた家は競売にかけられ一般に売られるというのだから恐れ入る。

  • 建築中の家。一年 がかりで建てられる。

    建築中の家。一年 がかりで建てられる。

  • スタジオで撮影中のテレビ製作のクラス。

    スタジオで撮影中のテレビ製作のクラス。

昨年、息子が選択したもので「スモールビジネス」という科目があった。これはその名のとおり小売業を勉強するというものなのだが、その学習方法が変わって いる。一つのクラスは、一種の商店とか会社のようなもので、営業、広告、販売担当などを配置する。最初の授業で、株に見立てた一枚二ドルのチケットを一人 二枚まで購入させ、そのお金がこの会社の資本金となる。その資金を元に、それぞれのクラスが知恵を絞り何かを販売して利益を競うのだ。あるクラスはオリジ ナルTシャツを作り校内で他の生徒たちに売る。あるクラスはカフェテリアで飲み物を売る。またあるクラスはピザを仕入れて昼食時に販売してみたりと、まる で、ほんとに商売をしているような感じでスモールビジネスを学んでいく。売り上げだけが伸びても利益が少なくては意味がない。最初に買った一枚二ドルの株 価は、それぞれのクラスの利益の変動により、上がったり下がったりもする。しっかりと利益をあげたクラスの株を持つ生徒は配当金がつくので儲かることにな る。
ハイスクールやエリア・ テクニカル・センター の生徒たちが建てた家。

ハイスクールやエリア・ テクニカル・センター の生徒たちが建てた家。

いくら勉強だからと言って、学校内で物品を販売し、その利益を競ったあげくに、株の配当までつくという学習方法には少々驚いてしまったが、さらにす ごいのは、このクラスから出た利益は、過去十二年間で2万5千ドルにもなり、そのお金は地域の慈善団体に寄付されているという。教科書から理屈で学ぶ勉強 とは違い、楽しく学べて、あわよくば小遣い稼ぎもでき、さらには地域のためにもなるということで、生徒たちには人気のある選択科目だそうだ。

勉強は机の上だけでするものではない、という型枠にはまらない学習スタイルは理解できる。ただ、物理のクラスの生徒たち で、バスを貸しきり隣の州にある遊園地まで絶叫マシーン体験に行くことも「物理の実践教育」なのだろうか?…と、首を傾げたりもする日本人母であった。 (絶叫マシーンの落ちる速度を計算しながら乗ったという話は聞いていないぞっ!)

関連情報

記事協力:海外書き人クラブ  http://www.kaigaikakibito.com/

海外書き人クラブお世話係 柳沢有紀夫さん の本もご覧ください!
 『オーストラリアの小学校に子どもたちが飛び込んだ.

アメリカ・ミシガン州 椰子ノ木やほい

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