意外と知らない"学校での1人1台のタブレット活用"(vol.3)
教育現場で、1人1台のタブレット整備が進みつつあります。ここまで、日本の教育用コンピュータ整備の歴史や、タブレット利用環境について説明してきました。第3回では、1人1台のタブレット端末を児童生徒が活用した授業とはどんなものか? 実際の授業事例を交えて紹介します。
1人1台タブレット端末活用の実証研究
学校でのタブレット端末の活用とその効果等について研究するため行われたいくつかのプロジェクトを紹介します。総務省は、2010年(平成22年度)から、「フューチャースクール推進事業」を開始しました。この事業は、実証校である全国の小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校の全児童生徒と全教員に、1人1台のタブレット端末を配備し、学校現場におけるICT環境の構築、運用、利活用について検証を行うものでした。
さらに、「フューチャースクール推進事業」と連携して、2011年(平成23年度)から、文部科学省の「学びのイノベーション事業」が始まり、1人1台のタブレット端末や電子黒板、無線LAN等が整備された環境において、デジタル教科書・教材を活用した教育の効果・影響の検証、指導方法やモデルコンテンツ開発等を行う実証研究が進められました。
※下記図1参照(総務省「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン」(PDFファイル)より転載)
これらの事業は2013年(平成25年度)まで行われ、その成果は報告書やガイドブックとして公開されています。それぞれ、両省のウェブサイトからダウンロードできますので、タブレット端末の導入計画や活用方法を検討する際には、ぜひ参考にしてください。
「学びのイノベーション事業」では、実証校の実践報告等をもとに、ICTを活用した学習場面を10種類に類型化し、一斉学習、個別学習、協働学習の各シーンに分類しました。
※下記図2参照(文部科学省「ICTを効果的に活用した子供たちの主体的な学びの実現へ」より転載)
これらを元に、それぞれの学習場面に適したICT機器の活用例について、具体的に説明します。
学習場面に応じた授業でのICT機器の活用方法とは?
[一斉学習に適したICT機器の活用例:電子黒板]
一斉学習の際には、電子黒板が良く利用されます。電子 黒板を使うと、写真や動画、音声等、従来の黒板では提示が困難な様々なデジタルコンテンツを、教室全体に提示することができます。提示資料に、色彩や動 き、音声といった情報を付加することで、また、特定部分を拡大したり、文字やマークを書き込むことで、提示内容に対する興味や理解が深まる効果も期待でき ます。
様々なタイプの教材を、一つの機器で提示できるため、機材の準備や提示資料の切り替えの時間も短縮でき、スムーズな授業運営にも効果を発揮します。
[個別学習に適したICT機器の活用例:1人1台のタブレットPC]
個別学習のシーンでは、児童生徒1人1台の情報端末の 利用が効果的です。例えば児童生徒個々が、デジタルドリルなどを使って、自分のペースに合わせて学習することができます。また、個々の学習履歴データか ら、個人やクラス全体の進捗・正答状況、誤答傾向などを把握することができるので、教員はその情報を参考にして、より細やかな指導を行ったり、授業の改善 に役立てたりすることができます。
また、調べ学習をする際も、各々の端末からインターネット等を用いた情報収集を行うことで、情報を個々人が主体的に収集・判断する力を身につけることが期待できます。
通常では実施が難しい実験や観察等を、デジタル教材を使ってシミュレーションできるのもデジタルならではの活用方法の一つですが、この際も、1人1台の端末を使うことで、より深い思考が促されるものと考えられます。
英語の授業では、音声録音・再生機能を使って、ネイティブの英語の発音と自分の発音とを聞き比べ発音の矯正を行うといった学習も可能です。
これらは、1人1台のデスクトップパソコンやノートPCでも実現可能ですが、特にタブレットPCを使った場合は、普通教室での学習に活用することができ、様々な授業場面で情報端末の利点を活かすことができます。
さらには、今後もし、児童生徒1人1人が個人でタブレットPCを所有するようになれば、自宅に持ち帰り、学校で与えられた課題を家庭で学習することもできるようになり、ICTを使った学習シーンはさらに大きく広がることになるでしょう。
21世紀型能力の育成や、アクティブ・ラーニングの必要性が叫ばれる中、協働学習は今後もっとも注目を集める学習シーンと言えるかもしれません。
授業でパソコンを利用するというと、子ども達がパソコンの画面に向かって黙々と作業している姿が想起され、ICT機器の活用に否定的なイメージを抱かれることもあるでしょう。
しかし、子ども同士が学び合ったり教え合ったりする協働学習の場面で、タブレット端末や電子黒板といったICT機器を活用することで、自立的かつ協調的な学習姿勢を育む助けになることが期待されます。
協働学習においては、数人の グループを作って、一つのテーマを調査したり、皆で一つの作品を制作するといった授業が行われることがあります。子ども達は、役割分担をしながら、個々に タブレット端末を使って情報を収集し、それらを見せ合いながらグループの意見をまとめたり、「電子模造紙」と呼ばれるアプリケーションソフトを使って、複 数のタブレット端末から、それぞれが作った記事などを誌面にまとめて、一つの作品を制作することができます。
さらに、学校の 枠を越えた協働学習のかたちも、ICTの活用により実現が容易になります。例えば現在では、テレビ会議システム等の活用により、離れた相手とのコミュニ ケーションが簡単に行えます。これを利用して、他校の子どもたちや地域の人々との交流を行う学校が珍しくなくなりました。他の国や地域、年代の異なる方々 とのコミュニケーションによって、異なる考えや知識・文化に触れたり、通常ではなかなか接することのできない専門家に直接、話を聞く機会も据えることで しょう。
このように、ICT機器を有効に活用すれば、子供たちの学習の幅を、もっと大きく広げていくことができるかもしれません。
様々な教科で使われ始めたタブレット端末:UTプロジェクトから
これから大きな広がりを見せようとしている教育現場でのタブレット活用ですが、まだまだ実績やノウハウが少ないのも事実です。
学びの場.comを運営する内田洋行教育総合研究所では、ICT機器を快適かつ効果的に活用するための教室内の環境、運用ノウハウや授業の方法等について研究するため、東北大学大学院の堀田龍也教授との共同研究プロジェクト(UTプロジェクト)を立ち上げました。この中で、2013年度から2年間にわたり、世田谷区教育委員会並びに世田谷区東玉川小学校にご協力いただき、児童1人1台の情報端末活用に関する実証研究を行いました。その成果は、学びの場.comからもダウンロードできる「ガイドブック『1人1台の情報端末。ここから始めてみませんか?』改訂版」で公開しています。
最後に、UTプロジェクトで得られた調査データを一つ紹介します。
下のグラフ1は、東玉川小学校で行われたタブレット端末を利用した授業の回数を教科別に整理したものです(「ガイドブック『1人1台の情報端末。ここから始めてみませんか?』改訂版」より転載)。
タブレット端末が多く使われていたのは、国語や社会、総合的な学習の時間の授業でした。国語や社会では、自分の考えを発表する活動が比較的多く、児童のタブレット画面を電子黒板に投影して発表するという用途でよく利用されていました。
また、音楽の授業では、合唱している様子をタブレット端末を使って撮影し、その場で電子黒板につないで、全員で見返すような取り組みも見られました。カメラ付きのタブレット端末は、電子黒板への投影が簡単なため、これらの利点をうまく使った授業がなされていました。
このように、様々な教科で、タブレット端末をうまく使うことで、子ども達にとってわかりやすい授業を実現し、特に子ども達同士が教えあい学び合う協働的な学びを深めることに効果があったようです。
今回紹介した先導的な取り組みにおいては、1人1台のタブレット端末と電子黒板等のICT機器が、様々な学びの場面で利用され、効果のあることが実証されつつあります。次回は、教育現場におけるICT活用の現状について、もう少し詳しく見て行きたいと思います。
※文中の写真は、全てUTプロジェクト「ガイドブック『1人1台の情報端末。ここから始めてみませんか?』改訂版」より転載
参考資料
- 総務省「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン」(PDFファイル)
- 文部科学省「ICTを効果的に活用した子供たちの主体的な学びの実現へ」
- 「ガイドブック『1人1台の情報端末。ここから始めてみませんか?』改訂版」
構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 井上信介
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)