2015.08.04
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20th New Education Expo 2015 in 東京 現地ルポ(vol.6)

「New Education Expo 2015 in 東京」が6月4~6日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。最終回となる6回目の現地ルポでは、デジタル教科書に関するセミナーと、最新のデジタル校務システムを揃えた展示ゾーン「ウチダの校務支援システム」について報告する。昨今注目のデジタル教科書の最新事情と、タブレット端末で校務をサクサクこなせるシステムの紹介とあって、どちらも大勢の教員や教育関係者が詰め掛けていた。

教科書も校務もタブレット活用の時代、ICTの進化でより便利に!

最新、デジタル教科書事情
~教科書改訂でどう変わる? 今後の展望は?~

【ファシリテータ】
(株)内田洋行……青木 栄太 氏
信州大学 学術研究院 教育学系 教授……東原 義訓 氏
東京書籍(株)ICT事業本部 部長……川瀬 徹 氏
CoNETS事務局 日本文教出版(株)ICT事業部 課長……山口 亮 氏

急速に普及が進むデジタル教科書

今、デジタル教科書が熱い。ここ数年で急速に普及が進んだ大型テレビや電子黒板で映し出す教材として人気が高く、子どもがタブレット端末で使う教材としても、注目を集めている。事実、今回のNEEでも、デジタル教科書の展示ブースは、黒山の人だかりになっていた。

そんなデジタル教科書の最新事情が聞けるとあって、本セミナーも満員御礼の大盛況となった。

まずは信州大学学術研究院教育学系教授の東原義訓氏から、デジタル教科書の概要について説明があった。
「デジタル教科書は、指導者用デジタル教科書と、学習者用デジタル教科書の2種類に大別される」
 と、東原教授は解説。この定義が固まったのは、2011年に文部科学省が出した「教育の情報化ビジョン」においてだという。意外と最近のことなのだと驚かされる。

(株)内田洋行 青木 栄太 氏

では、指導者用デジタル教科書についての話をまとめてみよう。株式会社内田洋行の青木栄太氏によると、指導者用デジタル教科書をすでに整備している学校は、小中高および特別支援学校など全校種を通じて、37.4%。小・中学校だけで見れば、実に4割以上が導入済みだという。半分近くが指導者用デジタル教科書を整備しているとは、驚くべき数字だ。
「現在、学校で一番導入・利用されているデジタル教材は、指導者用デジタル教科書です」
 と青木氏が断言すると、会場からは「やっぱり」と、どよめきが起きた。

青木氏は、指導者用デジタル教科書の整備状況をさらに詳しく解説してくれた。
「教科別に見てみると、小学校で多いのは、国語・算数・理科・社会の順。中学校では、外国語・数学・理科の順になっています。コストパフォーマンスを考え、授業時数の多い教科から導入する傾向があるようです」(青木氏)。

ここまで進化した指導者用デジタル教科書

指導者用デジタル教科書が急速に普及していく過程で、課題も明らかになった。その一つが、「教科書会社によって画面レイアウトや機能などが異なる」という問題だ。

CoNETS事務局 日本文教出版(株)ICT事業部 課長 山口 亮 氏

従来は各教科書会社が独自に開発していたため、見た目や操作方法、そして機能も会社によって異なった。その煽りを食ったのが、一人で様々な教科を教える小学校教師である。

例えば、国語はA社の教科書、算数はB社、社会科はC社の教科書を採択していたとしよう。指導者用デジタル教科書も、国語はA社、算数はB社、社会科はC社のモノを使うことになるが、それぞれ操作方法や機能などが異なるため、これらをいちいち覚えなければならなかった。教師にとっての負担は少なくない。

この問題を解決すべく立ち上げられたのが、「CoNETS」だ。これは、主な教科書会社12社が、指導者用デジタル教科書を共同開発するために2013年に立ち上げた組織。そのCoNETS事務局で、日本文教出版(株)ICT事業部課長の山口亮氏が、ねらいと成果について語ってくれた。

まず山口氏は、CoNETS以前の指導者用デジタル教科書の例を見せてくれた。
「このように、教科書会社が違うと、インターフェイスや操作性、機能も大きく異なりました。これではいけない、先生が使いやすいように、全社・全教科で共通化しましょうということで、CoNETSが立ち上げられたのです」
 改めて考えてみると、これは画期的な決断だ。本来はライバル関係にある企業同士が、教育現場のために握手したのだから、その英断には拍手を送りたい。

では、どのように共通化を成し遂げたのだろうか。その仕組みはこうだ。まず、外部のIT企業が、指導者用デジタル教科書の共通基盤となる「CoNETSビューア」を開発。これは、教科書のインターフェイスや機能を制御するものであり、このビューア上で走るコンテンツを、各教科書会社が制作するのだ。

この仕組みを採用したことで、教科書の内容は従来通り各教科書会社が独自に作りつつ、教科書会社が異なっても、同じデザイン、同じ操作性、同じ機能を使えるようになった。
「いわばCoNETSビューアは“教具”であり、教科書会社が作成した内容が“教材”に当たります。操作性が統一された教具で、各社独自の教材を使えるようになったのです」(山口氏)。

指導者用デジタル教科書は具体的にどう変わったのか。各教科書会社はどのように特色を出そうとしているのだろう。東京書籍(株)ICT事業本部部長の川瀬徹氏が、最新の指導者用デジタル教科書を紹介してくれた。

川瀬氏が強調したのは、「教育現場からの要望を反映した」点だ。

例えば、教科書には練習問題が載っているが、この練習問題をもっと増やしてほしいという要望が多かったのだという。紙の教科書では、紙面に限界があるため問題を増やすのは容易ではないが、デジタル教科書なら簡単だ。そこで東京書籍では、「問題変更」ボタンを搭載。このボタンを押すと、異なる練習問題が次々表示される。また、練習問題プリントも収録し、ボタン一つで印刷可能だという。教科書が、ドリルの役割も担うようになっているのだ。

教育現場からは「もっとわかりやすく、子どもが実感できるように教えたい」という要望も多かったとか。
「そこで、図形を画面上で切り貼りできるツールや、速さや体積などを求める問題で使えるシミュレーションツールなども搭載。理科の教科書では、星空の様子を一晩撮影した360度動画や、里山の様子を一年中撮影した定点観測360度動画などを収録し、子ども達が体感的に学べるように配慮しました」(川瀬氏)
 こういった副教材は、今まで教師が自分で集めたり作ったりする必要があった。準備に時間がかかる上、授業のねらいに合った素材が見つからないこともしばしばだった。しかし最新の指導者用デジタル教科書なら、教科書の学びに合った副教材を、ワンクリックで利用できるのだ。

学習者用デジタル教科書の今後

本セミナーでは、学習者用のデジタル教科書についても発表された。

いわゆる学習者用デジタル教科書の開発と普及を加速させたのが、総務省の「フューチャースクール推進事業」と文科省の「学びのイノベーション事業」であると、信州大学の東原教授は説明。フューチャースクールでは1人1台のタブレット端末を使用することが可能であり、
「学習者用デジタル教科書の可能性を実証するには、またとないチャンスでした」(東原教授)
 実証校に採択されている教科書を供給している教科書会社が中心となって、開発が進められた。

信州大学 学術研究院 教育学系 教授 東原 義訓 氏

とはいえ、最初から全教科の学習者用デジタル教科書が揃えられたのではない。まずは単元ごとに学習者用デジタル教科書が試作され、その試作版を実証校で実際に使って検証し、現場の声やリクエストを反映しては改良し、内容や機能を厳選するという地道な作業が繰り返された。

その過程で、今後の課題も見えてきた。その一つが、多様なOSや機種でも動作する汎用性だ。現時点では、子どもが使うタブレット端末のデファクトは決まっておらず、今後もICTの進化に伴って、様々な情報端末が学校に入ってくることが予想される。
「コンテンツとビューアを独立させ、多様な情報端末で利用可能なことが重要」
 と、東原教授は指摘。さらに
「機能の整理、ルールの策定や外部アプリとの連携も検討していく必要がある」
 と語った。

例えば、学習者用デジタル教科書コンテンツの書式が共通化され、対応するビューアが開発されれば、機能や操作方法で迷うことがなくなる。また、児童生徒が学習者用デジタル教科書と共に活用する、電子ノートや協働制作ツールなどの外部アプリの充実とそれとの連携も求められるという。

今年5月には、文部科学省が「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」を新設した。いわゆるデジタル教科書の位置づけのみならず、教科書制度の在り方についても、抜本的な議論が行われる予定だという。多くの教育関係者が注視するデジタル教科書は、今後も大きな動きがありそうだ。「デジタル教科書から目が離せない」と、改めて感じたセミナーだった。

展示ゾーン

[ウチダの校務支援システム]タブレット活用で校務が変わる!

展示ブースでは「デジタル出席簿」を紹介するミニセミナーも開かれ、盛況だった

校務支援の分野でも、タブレット端末の波が押し寄せている。株式会社内田洋行では、タブレット端末で出欠管理や成績管理を行える「デジタル出席簿」システムを開発した。

出欠管理では、タブレット端末に座席表が表示され、児童生徒の名前をタッチすれば簡単に出欠を入力できる。欠席の理由や病名などを、プルダウンメニューからワンタッチで選べるのも便利だ。

成績管理もタブレット端末で行える。タブレットに表示された座席表から子どもの名前をタッチし、発表回数や授業態度、提出物の有無などを入力できるのだ。成績管理の項目は自由にカスタマイズでき、タブレット端末で児童生徒のノートや作品を撮影して保存したり、音声メモを取ったりすることも可能だ。

こういった校務情報は、出欠管理なら紙の出欠簿に記録しておいたり、授業の評価ならメモしたり頭で覚えておくなどして、職員室に帰ってから教員用PCで校務支援システムに入力するのが今までのやり方だった。しかし、タブレット端末で同システムを使えば、教室に居ながら、授業をしながら、これらの情報を入力できる。校務の効率化や迅速化につながるのは間違いない。

入力された情報は、校内無線LANを経由して、「デジタル校務」システムに反映されるので、情報の共有も速やかに行える。例えば、管理職の教員は、職員室にいながら全クラスの出欠状況をすぐ把握できるので、緊急の対応が必要な場合は、すぐに手を打てるだろう。成績管理もより細やかになる。毎日の授業の様子を、一人ひとりにつき細かく記録できるので、子ども達の成長や変化を見逃すことなく、正確に評価できるはずだ。

タブレット端末で出欠管理等を手軽にできる「デジタル出席簿」

「デジタル校務」の機能面も充実している。その一つが、入力ミスの防止機能だ。成績管理では、入力間違いの事故がよく起こりがち。例えば、エクセルで管理していた成績データを、校務支援システムへコピー&ペーストしようとして、入力箇所を一つズラしてしまう話をよく聞く。本当はA君の成績なのにB君の欄にコピペしてしまったり、理科の成績を社会の欄にコピペしてしまったり。そのまま気づかずに処理してしまったら大変なことになる。そこで内田洋行では、入力ミスを知らせる機能を盛り込んだ。

前期比で成績が大きく変動している場合は、文字色を変えて確認を促す。また、成績表に確認用の児童生徒名を表示し、コピペしたデータと名前がズレている場合は、警告メッセージが出るようになっている。これなら入力ミスを見過ごして処理してしまう危険がグッと減るだろう。

同システムは小中連携の緊密化にも一役買っている。それは、「個人カルテ」機能だ。住所や保護者情報、各学年の担任名、出欠記録、これまでの通知表情報はもちろんのこと、歴代の担任がつけた指導要録からアレルギー情報まで、様々な情報を記録し、共有することが可能。これなら学年間・学校間の引継ぎもスムーズに進み、小中9年間を通じて継続的に指導や支援をしやすくなるだろう。この製品は小中一貫校でよく導入されており、とても好評だという。

校務にICTが入り始めて十数年。その進化はとどまることを知らず、今後もますます便利になっていきそうである。

写真:言美 歩/取材・文:長井 寛

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