2015.07.21
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20th New Education Expo 2015 in 東京 現地ルポ(vol.4)

「New Education Expo 2015 in 東京」が6月4~6日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。4回目の現地ルポでは、情報活用能力に関するセミナーと、最新の理科教育機器を一堂に揃えた展示ゾーン「UCHIDA SCIENCE」について報告する。セミナーでは、国が実施した「情報活用能力調査」の調査結果や今後の課題等をパネリストの先生方が語ってくれた。「UCHIDA SCIENCE」には、最新技術でますます便利に進化した機器からテレビで話題の製品までが賑やかに登場した。

情報活用能力を育む! 理科教育を面白くする!

明日から始めよう、情報活用能力の育成
~情報活用能力調査の結果から見える課題と指導のポイント~

【コーディネータ】
東北大学大学院 情報科学研究科人間社会情報科学専攻 教授……堀田 龍也 氏
お茶の水女子大学 基幹研究院人間科学系 教授……坂元 章 氏
奈良教育大学大学院 教育学研究科 教授……小柳 和喜雄 氏

初となる全国規模の情報活用能力調査

子ども達の情報活用能力を測る全国規模の調査を、平成25年10月~26年1月に国が実施したのをご存知だろうか? 今回のNEEでは、この「情報活用能力調査」に携わった3人の先生方によるセミナーが行われた。

東北大学大学院 情報科学研究科人間社会情報科学専攻 教授 堀田 龍也 氏

まず冒頭、東北大学大学院 情報科学研究科人間社会情報科学専攻 教授の堀田龍也氏から、同調査の概要説明が行われた。
「なぜ今、国が情報活用能力を測定する初めての調査を行ったか。今や子ども達にとって、情報活用能力は必要不可欠であり、次の学習指導要領でもその能力の育成がさらに盛り込まれることが予想されます。このため、現時点での子ども達の情報活用能力を正確に把握する必要があり、今回の調査が行われたのです」。

調査は大掛かりとなった。全国各地にある国公私立の小中学校から、小学校116校中学校104校を抽出。その学校に通う小学5年生と中学2年生のうち1学級の児童生徒に対し、情報活用能力を測るテストを行った。その数、実に約6,700人。

テストの内容と実施方法も特徴的だ。紙ではなく、コンピュータ上で問題を解かせたのである。情報活用能力の3観点「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」に基づき、様々な問題を出題。例えば、複数のホームページから情報を集めてまとめる問題、発表スライドを作る問題、ブログの利用に関する基礎知識を問う問題などが出題されたという。基本的な操作スキルを確認するため、タイピング能力を測る問題も出題された。

また、児童生徒と学級・教科担任の教師、そして学校長などを対象に質問紙調査も行われた。子どもに対しては、学校や家庭でのICTの利用状況を質問。学校関係者には、情報活用能力育成につながる授業の実施状況などを、アンケート形式で調査した。

調査結果に表れた上位学校群、下位学校群の傾向

奈良教育大学大学院 教育学研究科 教授 小柳 和喜雄 氏

続いて、奈良教育大学大学院 教育学研究科 教授の小柳和喜雄氏から、調査の結果報告が行われた。今の子ども達が、何が得意で何が苦手なのか、具体的にわかったという。
「小学生中学生とも、整理された情報を読み取ることはできるが、複数のウェブページから目的に応じて特定の情報を見つけ出し、関連付けることに課題があります」
 小柳教授は実際に出題された問題を紹介しながら、解説してくれた。選択肢に対応する箇所を見つけて正誤を判断する問題(例えば「熱中症について書かれた四つのホームページを読み、熱中症に関する以下の文の中から当てはまらない文を一つ選びなさい」という問題)には答えられるものの、別々のページにある情報を統合する必要のある問題(例えば「S市でCDケースを捨てていいのは何曜日か。S市のホームページを見て調べ、全て選びなさい」という問題。S市ではプラマークの付いていないCDケースが「燃やすごみ」なのか「プラスチック」なのかを調べた上で、そのごみを出せる曜日を調べるという手順を踏む必要がある)は苦手な傾向にあるそうだ。
「また、プレゼンテーションソフトを使って、文字やイラストで発表資料を作る問題も正答率が低く、中学生では正答したのはわずか18%でした。受け手を意識した表現力が弱いようです。時間が足りなかったのか、無回答が25%もいました」
 という。聴講していた方々も、腑に落ちることが多かったのだろう。時に大きくうなずき、時にため息をつきながら、報告に聞き入っていた。

お茶の水女子大学 基幹研究院人間科学系 教授 坂元 章 氏

お茶の水女子大学 基幹研究院人間科学系 教授の坂元章氏からは、学校や児童生徒への質問紙調査の結果報告が行われた。その要旨は――

◆情報活用能力調査結果の上位の学校群の教員は、下位の学校群に比べ「自分の考えを表現させる」「情報を整理させる」「情報手段の特性に応じた伝達および円滑なコミュニケーションを行わせる」などの授業を頻繁に行っている傾向がわかった。
◆情報活用能力を育成する授業を週1回以上実施している教員は、小中学校とも1割以下にとどまっている。

学校によって情報活用能力の育成にバラつきがあり、その差が子どもの情報活用能力の格差になって現れているという事実は衝撃的であり、険しい顔で聞き入る参加者も見られた。

調査結果から今後の課題、改善ポイント

セミナーの最後にはパネルディスカッションが行われた。まず小柳教授から、「情報活用の実践力」において、得意分野と不得意分野の二極化が進んでいると指摘があった。
「情報を収集・読み取り・整理する問題は比較的出来が良いのだが、その情報を判断・創造・解釈する問題を苦手としています」
 しかも、比較的得意とされる「情報を収集・読み取り・整理する力」も、情報活用授業をよく実施している学校とそうでない学校との間で明らかな格差が生じていると小柳教授は指摘し、
「この状態を放置しておいてよいのだろうか」
 と、警鐘を鳴らした。

その背景には、タイピング能力のような基本的なICT操作スキルの欠如も関係しているのではないかと、議論が始まった。堀田教授は
「タイピング能力の低さは深刻だ」
 と指摘し、こう続けた。
「タイピング能力は、現行の小学校学習指導要領の総則で、『身につける』と明記されています。にもかかわらず、苦手な子どもが多すぎます。問題が解ける解けない以前に、タイピングができなくて答えを書けなかった子がかなりいると思われます」。

それには坂元教授も同意見だった。
「情報活用能力調査に立ち会いましたが、子ども達のタイピング能力はとても低い。特に小学生が悲惨な状況です。タイピングができなければ、答えを入力するどころか、ホームページの検索ワードの入力さえできません」
 さらに坂元教授はこうも指摘した。
「情報活用能力を下支えする力として、タイピング能力は必須。タイピングがおぼつかないと、キーを叩くのに気を取られ、考えをまとめることができません。小学校の段階できちんとタイピングを教える必要があります。しかし、タイピング能力が強調され過ぎると、タイピングの指導にのみ力が注がれ、情報活用能力を育むことがおろそかになる恐れもある。そこは気をつけないといけません」。

しかし今や、スマホやタブレット端末が主流の時代。キーボードではなく、タッチパネルでフリック入力する機会が増えている。
「それでもキーボードでタイプする力をつける必要があるのか? という意見もありますが」
 と堀田教授が問うと、坂元教授は答えた。
「技術革新は今後も進んでいくでしょうが、キーボードが姿を消すことはないと私は思います。仕事や学業において、キーボードはまだまだ必要とされるはずです」。

ディスカッションは情報モラル教育についても及んだ。今回の調査で、子ども達は情報モラルに関する正しい知識を持っていることがわかった。だが、
「知識を持っていることと、正しく行動できるかは、また別の問題」
 と、坂元教授は言い、
「ダメとわかってはいるけどやってしまうのでは意味がない。知識を学ぶだけでなく、行動を変える教育にしていく必要がある」
 と課題を述べた。

最後に、コーディネータの堀田教授が総括した。堀田教授は、
「今回の情報活用能力調査と、全国学力・学習状況調査の結果は似ているところがある」
 と指摘した。つまり今の子どもは、情報を読み取るといった基礎的なこと、すなわち全国学力・学習状況調査で言う所のA問題は得意だが、情報の判断や発信といったB問題に該当する応用については課題も多い。

また、情報活用能力の基盤となるタイピング能力の育成は喫緊の課題であり、学習指導要領の総則に明記されているにもかかわらずこの現状であることを考えると、
「次の学習指導要領ではより明確な記載への検討が期待される」
 と、堀田教授は語った。

次期学習指導要領に関して言えば、
「情報活用能力を向上する指導内容を、各教科等で明確にする必要もある」
とも堀田教授は示唆した。学校間の取り組みの格差が子ども達の情報活用能力の格差を生んでしまっており、学習指導要領で指導内容を規定することで、学校間の格差をなくす必要があるからだ。

国が初めて全国規模で実施した「情報活用能力調査」。この結果が、次の学習指導要領に何らかの影響を与えるのは間違いない。今年度は高校を対象にした同様の調査が行われる予定だという。今後の動向に注目したい。

展示ゾーン

[UCHIDA SCIENCE]理科授業を面白くする、優れもの実験機器が勢揃い!

顕微鏡の画面を大型テレビに映せば大迫力! ミジンコの細かい器官までばっちり観察できる

多くの人々で賑わっていたのが、内田洋行が最新の理科教育機器を展示した「UCHIDA SCIENCE」のコーナー。昨年は5インチの液晶モニタ付き顕微鏡が注目を集めていたが、今年は更にパワーアップ! なんと顕微鏡に7または10インチのタブレットが付いた製品が登場した。実際に体験してみると、タブレットの大きさと鮮明さにびっくり。ミジンコの心臓が脈打つ様子が大迫力で観察できた。モニタが大きく見やすいので、グループの観察に最適だろう。

さらにこの顕微鏡の映像を、電子黒板や大型テレビに投影できるのも便利。付属のHDMIケーブル(5m)でつないでもいいが、無線対応プレゼンテーション機器「wivia(R)3」と連携させれば、顕微鏡からWi-Fiで複数のPCやタブレット(Android、iOS)に投影することもできる。また、「wivia(R)3」の画面4分割機能を使えば、4台の顕微鏡の映像を同時に大型TVに映し出せるので比較観察も容易にできる。

タブレットなので操作も簡単。映像の拡大表示をはじめ、撮影・保存・閲覧などを、画面タッチだけで行える。観察対象の長さや面積をタブレット上で計測する機能もついている。

話題のヒット製品「水たまグラス」

この顕微鏡で使用していたスライドグラス「水たまグラス」 も注目だ。なんとカバーガラスが不要。微生物などの観察対象が入った水をスポイトで吸って、この水たまグラスの穴に垂らすだけでいいのだ。垂らされた水 は、特殊な撥水加工と表面張力で水玉になる。その水玉の中を、微生物が立体的に、自由に動く様子を観察できるのだ。カバーガラスで挟む従来の方法では、平 面的な鈍い動きしか見られなかったが、これなら微生物本来の動きをリアルに観察できる。

「水たまグラス」には水を垂らす穴がいくつもあるが、これにもワケがある。従来の方式だと、微生物がいそうな箇所を狙っ てスポイトで吸い取り、スライドガラスに水滴を垂らし、慎重にカバーガラスを被せて、やっとの思いで顕微鏡をのぞいてみると、中に何もいなくて最初からや り直しということがよくあった。ところが、水たまグラスなら水玉を複数作成できるので、微生物が入っている“当たり”の水玉をじっくり観察すればいいの だ。これなら時間も手間も大幅に削減できる。

ピペット君も来場。サイエンスとは深い関係が!?

この水たまグラスは、テレビ東京の報道番組「ワールドビジネスサテライト」の人気コーナー「ト レンドたまご」で、『2014トレたま年間大賞』の最終12候補に選ばれ、且つ、「トレたま4,000回スペシャル」においては、ベスト・オブ・トレたま の「大江・大浜賞」を受賞。現場教師からの評価も高く、売れ筋製品の一つになっているそうだ。

珍しい機器がずらりと並ぶ同コーナーで、特に異彩を放っていたのが「AgIC回路マーカー」 だ。一見普通のフェルトペンに見えるが、なんとこのペンで「AgIC回路専用紙」に線を書くと、それがそのまま電気回路の導線になるというのだ。従来は、 電気ケーブルやミノムシクリップを使い、導線を1本ずつつないでいく必要があった。しかし、同製品ならペンで線を書くだけ。修正ペンもあるから導線を足し たり消したりも自由自在だ。

  • 一見普通のフェルトペンに見える「AgIC回路マーカー」

  • LED電球の電極もマグネットになっているので、このように掲げても落ちない

紙に書けるということは、提示も容易。電気回路を書いた紙を掲げたり、黒板に掲示したり、実物投影機で見せるなど、グループやクラス全体で共有しやすい。見学者の先生方からも
「電気回路を足したり消したりが簡単なので、どんなときに電気がつながるか、つながらないかを体感的に学べそう」
 と好評だった。

最後に紹介するのが、「アルミおもり」だ。文字通り、アルミでできたおもりである。

理科では、質量の計測からバネの実験、振り子の実験など、おもりを使う実験が数多くある。しかし、従来のおもりは、錆び防止のため手で直接触れず、また「分銅」「フック付きおもり」「連結できるおもり」など、実験ごとに異なるおもりを使い分ける必要があった。

これら問題点をアルミおもりは一挙に解決。まず錆に強く、素手で扱えるため、実験作業が簡単になり、子ども達は手のひらに乗せて重さを体感できる。次に、アルミおもりは、ぶら下げたり、つなげたり、積み重ねたりできる構造になっており、あらゆる実験を同じおもりで行うことが可能。小学校から高校までのおもりの実験を、体感的に理解しやすくなるだろう。

「アルミおもり」は、5g・10g・20gの3種類

アルミおもりは、この新しいデザイン性が高く評価され、世界の3大デザイン賞の一つ、ドイツの「iFデザイン賞」を受賞。このおもりを使った実験で、子ども達の好奇心や探究心を育むことができそうだ。

写真:言美 歩/取材・文:長井 寛

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