2014.08.12
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4・3・2制のメリットと課題は

教育再生実行会議が7月3日にまとめた第5次提言に、小中一貫教育学校(仮称)の制度化が盛り込まれた。来年の通常国会での法改正を経て正式に新たな学校種として位置付けられれば、自治体の判断で9年間の教育課程の区分を4・3・2や5・4など弾力的に設定できるようになる見通しだ。ところで文部科学省のまとめ(2013年4月現在)によると、研究開発学校または教育課程特例校の中で6・3以外の学年の区切りを実施している153校のうち4・3・2が127校、5・4と5・2・2が各2校と、4・3・2制が圧倒的だ(その他一部教科のみの実施など22校)。4・3・2制にはどんなメリットや課題があるのか。

児童期の前期・後期と青年期で区分

東京都品川区教育委員会は、2006年度から独自の「小中一貫教育要領」に基づいて4・3・2制の小中一貫教育を区内の全小・中学校で実施している。教育要領によると、小学校1~4年生は児童期といっても特に前半は「幼児期」の延長に属する一方、中学校2年生からは青年期に入るが、その間の小5~中1は児童期前半から少し大人になって複雑で抽象的な考え方ができると同時に、心が最も揺れ動く「児童期後期」とも言うべき時期でもある。

そこで9年間の教育課程に一貫性を持たせながらも1~4年生と5~9年生という二つのまとまりで編成した上で、1~4年生は基礎・基本の定着(読み・書き・計算の習得)、5~7年生は基礎・基本の徹底、8~9年生は個性・能力を十分に伸ばすというように、4・3・2制を教育内容や教育方法を変えるまとまりとして指導の重点を変える。5~7年生では教科担任制を取り入れたり、小・中学校の教員が一体となって指導したりする体制をつくるとしている。独自に「英語科」「市民科」も開設した。

第5次提言も指摘しているように、現在の学制の原型が導入された戦後すぐの時期に比べ子どもの身体的成長や性的成熟は2歳ほど早まっていることが指摘されている。学校の区切りの方を子どもに合わせることで小・中学校のスムーズな接続を図るのが、同区の小中一貫教育の眼目だ。

ポイントは5~7年生に

7月14日に開かれた中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会では、小中一貫教育に対応した教員免許の在り方を考えるためのヒアリングで同区立小中一貫校品川学園の新井陽子校長が発表した。同学園は2011年4月に品川小学校と城南中学校を統合して開校した、区内に6校ある施設一体型小中一貫校の一つ。新井校長は開校2年目に同学園に赴任したが、6年生に活躍の場がない、8年生の中だるみはあまり変わっていないなどの課題もみられた。一方で、4・5年生と7・8年生の間には段差をしっかり設定した方がいいと考えたという。

そこで2014~16年の経営理念のコンセプトを「『4・3・2』制のよさを最大限に生かした教育活動の創造」と設定。1~4年生を「寺子屋的指導期」(45分授業、学級担任制、4年生のリーダーシップ)、5~7年生を「道場的指導期」(50分授業、教科担任制、7年生のリーダーシップ)、8~9年生を「私塾的指導期」(50分授業、教科担任制、将来設計と自学自習)と位置付け、各ブロックに明確な目標と段差を設定した。とりわけ児童・生徒会長や各委員会委員長は7年生から選出して校内でのリーダーシップを発揮させる一方、8~9年生は地域の連合自治会活動に携わらせることで、地域の中で活躍できる場をつくろうとしている。

さらに、5~7年生のブロックの中間に当たる6年生では、土曜授業日に「学び方学習」を新設して中学校籍教員による授業を実施する工夫も加えることにした。新井校長は発表で「小中一貫教育は第5~7学年がポイント。小学校でも中学校でもないのが5・6・7年生であり、ブロックであってブロックではない。学年によって独自の教育をしないといけない」と指摘した。

地域の特色も生かして

2000年度から研究開発学校で研究を開始し、2007年度から全中学校区で4・3・2制を実施している広島県呉市教育委員会も、中期(小5~中1)における自尊感情の急激な低下や問題行動の増加などを課題として、小中一貫教育に取り組んだという。各学校区の特色を生かした取り組みを進めているのが特徴の一つで、家庭・地域との連携を深めている。幅広い異年齢集団が構成され自尊感情が高まり、問題行動が減っただけでなく、小学校への教科担任制導入などにより学力も向上。2009年の調査では保護者の7割以上が「小中一貫教育は教育的効果がある」と回答している。

コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育を実施している東京都三鷹市教育委員会の貝ノ瀬滋教育委員長は、委員を務める教育再生実行会議の会合で「9年間でカリキュラムを精査すると半年間分くらいの時間が浮き、それをどう使うかが自治体や地域、学校の特色になる。本市においては学力面での効果が見られた。制度化すれば(今の仕組みで不明確になりがちな)ガバナンスの問題もはっきりする」(2014年3月13日の第18回会合)と指摘していた。

渡辺 敦司(わたなべ あつし)

1964年、北海道生まれ。
1990年、横浜国立大学教育学部を卒業して日本教育新聞社に入社し、編集局記者として文部省(当時)、進路指導・高校教育改革などを担当。1998年よりフリーとなり、「内外教育」(時事通信社)をはじめとした教育雑誌やWEBサイトを中心に行政から実践まで幅広く取材・執筆している。
ブログ「教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説」

構成・文:渡辺敦司

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