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科学エッセイ:ガリレオと物体の落下法則
ガリレオと物体の落下法則

科学エッセイ「科学夜話」では、理科の学習指導要領に掲載されているいろいろなモノや現象を入口に、少々掘り下げた内容や、意外なうんちくなどをわかりやすく紹介します。授業の合間に、明日の授業に備える夜のひとときに、くつろぎながら読んでいただければ幸いです。第7回のテーマは「ガリレオと物体の落下法則」。新宿区立新宿中学校主幹 小林輝明がご案内いたします。

 同じ大きさの鉄球とビー玉を、同じ高さから同時に落とすとどうなるでしょうか? どちらが先に床に落ちるでしょうか?
 右手に鉄球、左手にビー玉を持ち、台の上に立って手を伸ばし、持っている手を離す。さあ、やってみましょう! 

物体は重い方が速く落ちる??

ガリレオ・ガリレイ―科学エッセイ

 古代ギリシャの偉大な哲学者であるアリストテレスは、大きな石は小さな石よりも速く落下すると考えました。つまり重いものは軽いものより速く落ちるということです。今では誰でもこの考えが誤っていることを知っていますが、今から2300年以上前のことですから、こうした考えは当然のことと信じられていたのです。さらにそれから2000年近くもこの間違いは支持され続けました。

 この誤った伝統に真っ向から挑戦したのが、ガリレオ・ガリレイ(1564〜1642イタリア)です。ガリレオは、アリストテレスの理論を信じ込み、その応用ですませていた学問に、「自分の目で観察して確かめる」という手法をとりいれました。彼は実験や観察を重視し、自分の正しい考えを証明するには実験するしかないと結論づけました。今では当然のこととされている手法ですが、当時は伝統やカトリック教会という大きな壁が彼の前には立ちはだかっていました。それでもガリレオは屈することなく自分を信じて研究を続けました。

ガリレオが示した真空落下の思考実験

科学エッセイ:ガリレオと物体の落下法則
どれが速く落ちる??


科学エッセイ:ガリレオと物体の落下法則
3個のまったく同じ鉄球は
同じ速度で落ちるが…
科学エッセイ:ガリレオと物体の落下法則
2個をくっつけたら、途端に
1個だけより速く落ちる。


科学エッセイ:ガリレオと物体の落下法則
一方が他方の100倍の重さの
鉄球を同時に落とせば…
科学エッセイ:ガリレオと物体の落下法則
重い方が地面に着いた時、
軽い方はまだ落ちていない。
 

 ガリレオは、正しい結果を求めて、学生たちに一つの思考実験を示しました。思考実験とは、実際に実験を行うのではなく、実験をしたとすると、こうなるはずだとして推論を重ね、議論を進めていく方法のことです。さあ、私たちも同じように、物体の落下について思考実験をしてみましょう。

もし、アリストテレスがいうように重い物体は軽い物体より速く落ちるなら……

問1:重い鉄球と軽いビー玉をひもでつないで、同時に落とすとどうなるだろうか?

 回答a :重い物体(鉄球)が速く落ち、軽い物体(ビー球)がゆっくり落ちようとするから、この物体は、鉄球1個が落ちるよりおそく落ちるはず

 回答b :この物体は、鉄球にビー玉がついているので、鉄球1個よりも重くなる。だから鉄球1個が落ちるより速く落ちるはず

問2:同じ鉄球を3つ用意し、そのうち2つをのりでつけて同時に落とすとどうなるだろうか?

 回答:2個をつなげたら、それまでは同時に落ちていた鉄球は、もう一つの鉄球より速く落ちるはず

問3:1kgの鉄球と100kgの鉄球を高い所から同時に落とすとどうなるだろうか?

 回答:重いほうの100kgの鉄球が地面に落ちたときに、軽い方はまだ落ちていないはず。

 問1では、思考の進め方によって、2つの結論が導かれてしまいます。また、問2,3はあり得ないということになるわけです。
 このようにもともと設定した理論が間違っていると、答えは矛盾したものになってしまいます。これを解決するには、最初の設定を変えるしかありません。物体の落下する速さは重さによって異ならない、つまり重いものも軽いものも同時に落ちる、と考えるのが正しいのです。実際に、真空中では、すべての物体は同時に落下します。

真空落下実験を行った
アポロ宇宙船

 真空落下実験は、真空ポンプと専用のガラス容器があれば、中学校の授業でも簡単に行うことができます。真空排気したガラス容器中でコインと羽毛が同時に落ちる様子を見た生徒は、必ずといっていいほど「おおっっ!!」とつぶやきます。結果に意外性のある大変インパクトのある実験です。でも、こうした装置がない場合はどうしたらよいのでしょうか。お薦めは、WEBにあります。

 本当に真空中で手から離れた物体が同時に落ちるのか、これを実際に確かめたのはアポロ宇宙船によって月面に降り立ったアメリカの宇宙飛行士でした。

 1971年7月30日アポロ15号月着陸船(ファルコン)に乗って月面に降り立ったデビッド.R.スコット船長とパイロットのジェームス.B.アーウィンは、様々な調査活動を終えた8月3日に、テレビの前で真空落下実験を行ったのです。

 スコット船長が右手にハンマー、左手に羽毛を持ち、同時に手を離すと、ハンマーと羽毛がゆっくりと落下して月面に同時に着地しました。月の重力は地球の1/6ですから落ちる様子もはっきりとわかります。

NASAゴダード宇宙飛行センター(GSFC)のWEBサイト

(※リンク先の画像はクリックすると拡大します。また、Quicktimeのムービーで動画を見ることができます。)

 画像が不鮮明なのは、時代を感じさせますが、動画で宇宙飛行士が興奮したように解説しているのが印象的です。会話は中学生でも理解できる英語です。

「So I'll drop the two, and hopefully, they will hit the ground at the same time. 」
 この2個を落とすと、それらは同時に地面に落ちるはずです。
「How about that!」
 やった!
「Mr. Galileo was correct in his findings.」
 ガリレオが発見したことは正しかったんだ。

ピサの斜塔と、ガリレオが行った(?)実験

ピサの街並 サンタ・マリア・デッラ・スピーナ教会―科学エッセイ
ガリレオが生まれ、学生として、また大学教授として過ごしたピサの街並。街を流れるアルノ川、右にあるのはサンタ・マリア・デッラ・スピーナ教会。「スピーナ」とは針の意味。針が何本も刺さったような造りになっている。

 ガリレオが重い鉄の玉も軽い鉄の玉も同じ時間で落ちることを証明したという、あまりにも有名な斜塔があるピサ(Pisa)は、イタリアのトスカーナ州にあります。フィレンツェから電車で1時間。どこにでもあるような穏やかな丘陵に広がる小麦畑を抜ければピサに到着します。この街は斜塔ばかりがクローズアップされますが、ローマ時代の浴場跡があるなど歴史的な建造物が多く、特にドゥオーモ(Duomo 大聖堂)はロマネスク様式の最高傑作といわれています。

ドゥオーモ ピサの斜塔―科学エッセイ
ドゥオーモと斜塔

 斜塔はこのドゥオーモの付属鐘楼として1173年に着工されましたが(当然ながら当時は垂直)、現在は北側の高さが55.22m、南側が54.52mとその差が70cmあり、傾斜角度は約3.97度で傾いています。

ピサの斜塔―科学エッセイ
斜塔

 長期にわたって倒壊を防ぐ工事が行われ、これ以上傾く心配はなくなりました。現在ドゥオーモと斜塔のある広場は世界遺産に認定されており、芝生の緑と大理石の建築群は大変美しい風景です。

 ところで、ガリレオが斜塔で行ったという「落体の法則」実験ですが、これは後生の創作らしいのです。

 この実験は、ガリレオが76歳のときに住み込みで付き添った助手のビビアーニが書いた「ガリレオ伝」に書かれているものですが、ビビアーニがガリレオ伝を書いたのはずっと後のことだからです。ガリレオの偉大さを伝えたくて、少々手を加えすぎたのかもしれません。

ドゥオーモ―科学エッセイ
ドゥオーモ内のランプ

 これとは別に、ガリレオはドゥオーモの天井につり下げられたブロンズのランプが振れる様子を見て「振り子の等時性」を発見したとも言われています。

 ある日、ピサの大聖堂に入ったガリレオは、天井から吊した大きなランプに何気なく目がとまった。ランプは、大きく揺れたり小さく揺れたりするが、ランプが行って戻ってくるまでの距離に関係なく、1回の運動にかかる時間は変わらない。この時代に時計はないので、ガリレオは手首の脈を取り、時間を計ってみた。そして確信した。ランプの揺れが小さくなっても大きくなっても脈の数はほぼ同じ。つまり振り子が揺れて往復する時間は、振り子が揺れる幅で違うのではなく、おもりの重さでもない。振り子の長さによるものなのだと。

ピサの街―科学エッセイ
ピサの街の石畳と建物

 こうしてガリレオによって「振り子の等時性」は発見された――というような内容ですが、実はこの逸話も創作らしいのです。ガリレオが何らかの観察によって、振り子の等時性に気づいていたのは間違いないでしょうが、どうもランプができるよりも前に法則は発見されていたらしいのです。やはりこの話もビビアーニの伝記に基づいています。

  

  

斜面落下の実験

 ガリレオが生きていた17世紀には、今のようにストロボ写真やストップウオッチ、時計さえなかったので、物の落ち方を解明することは大変でした。そこでガリレオは落とす代わりに、なめらかな長い斜面を用意し、この上で金属球を転がして落下運動をゆっくりとさせ、それを観察するという今までにない方法で実験を行ったのです。

科学エッセイ:ガリレオと物体の落下法則
記録タイマー:実験に合わせて10Hzと50/60Hzの選択ができます。(ウチダ理化電子カタログ:型番2-120-2151)

 斜面落下運動を調べることは、今では中学校で必ず行われる実験です。今は力学台車や記録タイマーというすばらしい教材があるので、運動の様子を調べることは短時間で簡単に行えます。ですが、国立教育政策研究所が実施した「平成15年度教育課程実施状況調査」によれば、第3学年の「運動の規則性」において、物体に働く力と運動の関係についての定着に、一部課題が見られる、と報告されています。記録タイマーにより得られたデータから平均の速さを求める問題、慣性の法則に関する問題などにおいて、設定通過率を下回るものが見られているのです。

 これには、いくつかの理由があると思います。
 例えば、

(1) 記録タイマーの操作や記録テープの実験結果を処理する技能は難しいので、実験の作法を学ぶ学習になってしまい生徒の学習意欲が高まらない。
(2) 学習の動機付けが十分でなく、なぜ運動の規則性を調べ学ぶのかという、最も大切な点が生徒に欠けてしまっている。
(3) 記録タイマーの台数が少なかったり、生徒が役割分担して実験を行うために、すべての生徒が記録タイマーを扱う機会が失われている。
(4)

実験の時間が限られていたり、記録テープを無駄にしないことを強調しすぎるばかりに、何度も試行錯誤して実験をするようなことがない。

などです。

 対策として考えられることは、

(1) 50Hzや60Hzの記録タイマーを使わず、実験では10Hzの記録タイマーを使う。5打点(6打点)ごとに切るという手間が省けます。5打点(6打点)式のデータ処理は、実験とは別に問題演習で解説します。
(2) 導入として、本稿で述べてきたように、ガリレオの生涯や、ピサの斜塔のことや、アポロの実験のことなどにふれ、ガリレオの思考実験を行わせるなどして、落下運動に対する興味・関心を高めさせる。
(3) 運動の実験をデモンストレーションにしない。様々な運動を繰り返し確かめる活動を取り入れ、活動の中から規則性を導き出させるよう工夫する。

といったことが考えられます。

 私たちは「自分の目で見る」ことの重要性を授業で繰り返し生徒達に訴えています。まずは、鉄球とビー玉を落としてどちらが先に落ちるか、授業で生徒に実際に確かめさせることから始めてみてはいかがでしょうか。

最後に:ガリレオの名誉回復

 地動説を唱えたガリレオは、自分の主張を曲げずにいたため、キリストの教えに背くとして裁判にかけられ、有罪の判決を受け監禁生活を余儀なくされました。しかし1992年ローマ法王は「裁判は間違いであった」と正式に謝罪し、ガリレオの汚名は晴れたのです。それは彼の死後350年経ってのことでしたが。

文・写真:小林輝明/イラスト:みうらし〜まる、あべゆきえ(ガリレオ)
※写真・図版等の無断転載を禁じます。

小林輝明 プロフィール

小林 輝明(こばやし てるあき)
所属: 東京都新宿区立新宿中学校 主幹

1963年生まれ、東京都出身。1986年、東京学芸大学教育学部卒業後、葛飾区立葛美中学校、文京区立第十中学校で勤務。1996年、東京都立教育研究所物理研究室で1年間研究生として研究生活を送り、燃料電池の教材化に取り組む。この研究で開発された燃料電池が、現在教材として多く販売されている燃料電池の礎となった。翌年、東レ理科教育賞を受賞。その後、新宿区立西新宿中学校、スペインマドリッド日本人学校勤務を経て、現職。
宇宙教育にも積極的に取り組み、2007年には、JAXAから派遣され、米国ヒューストンにあるNASAの教育施設で行われた研修会(SEEC)で、全米から集まった先生方に燃料電池の製作と実習を発表した。
元文部大臣の 有馬朗人 塾長(元東京大学総長、現科学技術館館長)の呼びかけで設立された「創造性の育成塾」にも、初年度から講師として関わっている。
日頃の授業では、日常生活と科学との関連や、実験・観察などの体験を重視しており、科学のおもしろさを伝えるために、新しい教材の開発にも積極的に取り組んでいる。

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