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 栄進館館長の筒井勝美氏
 ゆとり教育以前の教科書との比較
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このシンポジウム、タイトルは『世界の科学教育』となっているが、目的は単に日本と外国の教育を比較するだけではない。開催目的には「今日の日本社会は科学技術に大いに依存しているにもかかわらず、科学技術に対する軽視、いわゆる『理科離れ』が進みつつある。小中等教育においても理科系教科内容削減や科目選択化などが進み、必ずしもこの傾向を改善しようとする兆しは見えない……」とあるように、どちらかというと最近の「理科離れ」「理数系学力の低下」にどのように対処すべきか、という色合いの強いシンポジウムになった。
シンポジウムは、前半は講演、後半はパネルディスカッションで、随時会場からの発言もあり、長時間にわたり活況を呈していた。ここではスペースの関係もあるので、講演、パネルディスカッションそれぞれのハイライト部分を紹介したい。なおこのシンポジウムの内容は明石書店より『世界の科学教育』(仮題)として発行される予定になっている(時期未定)。
小・中学生の数学・理科の教科書はこれだけ減らされた/筒井勝美(栄進館館長)
福岡に本部を置く学習塾、栄進館館長の筒井勝美氏は、小・中学生の学力が低下していることに気づき、理数系教科書内容の変遷を調査する。そして、教会書内容の削減に愕然としたという。
たとえば小学校4〜6年の算数について、昭和43年、平成4、14年を比較すると、すべての分野において半分以上の内容が削減され、思考力養成に必要な図形・文章問題に至っては4分の3以上も削減されてしまったことがわかる。(図1参照)
削除されなかった単元においても、今の教科書は昔に比べ幼稚で内容に乏しく、「論理的な能力を養えない代物」になっているという。
中学の数学の教科書でも同様に大幅な内容削減がなされている。また小学校と同じように、論理的思考を必要とする図形の証明問題が70%も削減されている。 (図2参照)
また中学の理科についても、物理や化学で計算を必要としない方はほとんど高校課程へと送られ、法則や原理は扱わず、うわべの現象だけを扱う教科書になっている。 (図3参照)
これでは、最近大きく報じられているように、日本の子どもたちの理数学力が国際比較で昔はトップだったのに、今は明らかな低下傾向を示すことはむしろ当然だといえる。
さらに日本では、理数学力が低下しているだけでなく、理数嫌いの子どもが増加している。ゆとり教育を導入すれば子どもたちは勉強を楽しめ、勉強が好きになるはずが実際の結果は逆になっている。一方、昔の日本より受験競争が激しいシンガポールでは、理数好きな子どもの割合が世界トップクラスにある。
このような現状を見ると、「ゆとり教育」というのは亡国カリキュラムであり、正統派教育の原点に日本は戻るべきではないのか。そうでなければ、技術立国としての日本の未来は惨憺たるものになるだろう。
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学年が上がるにつれて増える「理科嫌い」/北原和夫(日本物理学会会長・国際基督教大学教授)
2003年のTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)結果によれば、理科が好きな子どもは小学校5年生で70%、中学3年で55%と、学年が上がるにつれて少なくなっている。 また、成人の科学技術の基礎的な概念に関する理解度の国際比較においても、先進国の中では最低の部類に入る。その原因のひとつは、理科の授業がおもしろくないことにある。
授業がおもしろくないので、生徒は理科に対して魅力を感じられない。小中学校で教える項目も論理的な思考を要するものが減り、論理的に考える力が養成されない。
このような現状を見ると、初・中等教育での理科教育が重要であることがわかる。できれば、初・中等教育の理科では、理工学部出身者が教師となり、理科のおもしろさを伝えることが大切なのではないだろうか。アメリカのパードゥー大学では研究者が中学や高校で出前授業を行っている。イギリスでは大学の研究者が国民と積極的に対話をするようにしているし、研究者と議員がペアになって知識を共有する活動も行われている。日本でもこのような活動がこれから求められていくのではないだろうか。
この講演に対し会場の参加者から、「日本では理工系の学生が中学の教員になるのはとても難しいシステムになっている。教育学部出身者による理科教育という発想自体が間違っているのではないか」という意見が出された。
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 筒井勝美氏、西村和雄氏、松田良一氏共著の本『どうする「理数力」の崩壊』
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アメリカの教育改革から考える/西村和雄(京都大学教授)
アメリカでは、1981年にレーガンが大統領に就任すると、すぐに教育に関する委員会を発足させ、2年後の1983年には『危機に立つ国家』(『教育が危ない1〜学力低下が国を滅ぼす』日本経済新聞社)という報告書が提出された。この報告書では、アメリカが抱える教育の問題を指摘し、それに対してどうすればよいかという提言がまとめられている。それらは、
・人文系だけでなく、数学や理科教育に力を入れる。 ・内容が薄いカフェテリア形式の選択制を縮小する ・教員養成では、教育方法だけではなく、教科内容にも重点を置く ・少人数制クラスで、教師の質を向上させる
などとなっている。
この提言をアメリカはひとつずつ実施しアメリカ人の学力低下は危機を免れたといわれているが、この状況は今の日本の状況に極めて似ている。だとすれば、アメリカが採った対策を日本も参考にして、日本も取り組んでいくべきではないか。
とりあえずは、小・中学校での観点別評価をやめるべきだ。本来学力とは関係のないもので評価されるようになってから、学校でのいじめや暴力が増えている。観点別評価をやめることで、小・中学校の健全化を図るべきだ。
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化学教育の国際比較/渡辺正(東京大学教授)
数学オリンピックと同じように化学オリンピックというものがあり、日本も第35回のアテネ大会(2003年)から参加している。日本の参加が遅れた理由のひとつに出題範囲が日本の高校課程よりはるかに高いことがある。 (http://www.res.titech.ac.jp/~shinkin/morig/IChO35web/syllaJ.pdf参照)
このシラバスのうちレベル1はあらゆる国の普通の高校で取り上げる項目、2は多くの国の普通の高校で取り上げる項目、3は普通の高校では取り上げる国がほとんどない項目となっている。
しかし実際に日本の実情と比べてみると、レベル1でも大学にならなければ習わない項目がほとんど、というふうになっている。このことからも、日本の化学教育が世界の水準からどのくらい遅れているか、ということがわかる。
その原因のひとつに、日本の教科書検定制度が挙げられる。教科書の制作・選定・供給方法には多様な形態があるが、検定制度がある国だけを抜き出して比較しても日本の検定制度はほかの国とかなり異なっている。日本以外の国の場合、検定の基本姿勢は「最低限この項目だけ入れてほしい。あとは何を書いても自由」であるのに対し、日本では「ここまでしか書いてはいけない」という姿勢を取っている。そのため、
・どこの会社が制作した教科書も内容がほとんど似たり寄ったり ・制作側が保守化して、無難な選択をするようになる ・検定を通すため、学会では使わない「特殊な言葉」が使われている
のような問題が起こっている。そして教科書はつまらなくなり、生徒も興味や意欲を失っている。
このようなことから、科学全般に対する生徒の意欲・興味を高くさせ、理数力を高めるためにも検定制度の見直しが求められる。
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 東京大学助教授の松田良一氏 |
高校生物教科書の国際比較/松田良一(東京大学助教授)
日本とほかの国で高校生物の教科書の比較を行った。ページ数だけでなく、重さ、マージンを除いた印刷の総面積も比較してみた。(図4参照)
その結果日本の教科書は分量そのものが絶対的に少ないことがわかる。アメリカと比べると7倍もの差がある。もちろんアメリカでも教科書のすべてを教えるわけではないが、教師の選択肢が広がることは間違いない。
また、新課程の生物Iは指導要領を超えた内容は徹底的に削られ、科学的発見や社会とのつながりなどはほとんど削除され、無味乾燥な内容になっている。
内容で比較してみても、アメリカの教科書では生物の話題から身近な避妊やドラッグの話に結びつけ、生物の勉強が社会と密接に結びついていることを感じさせる。それに対して日本の教科書では実生活との結びつきがほとんどふれられていないので、生徒は「生物は自分とは関係のない別世界の話」のように感じ、生物を学ぶインセンティブを持つことができない。
さらにアメリカでは生物に興味を持った生徒がさらに高度な内容を学べるシステムがあるのに対し、日本では伸びる子どもを伸ばすシステム自体がない。これでは生物に興味を持った生徒も、その意欲が満たされないのではないか。
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 中国語教師の林 万雅氏
 中国との比較で教育の見直しを訴える |
中国に遅れる日本の教育/林 万雅(はやし・まりな 中国語教師)
日本人と結婚して、今は日本で中国語の教師をしている。20才と小学校4年生の子どもがいるが、中国と日本の教育を比べると驚くことが多い。
中国では子どもの教育は学校・家庭・社会が行うもので、教師の地位はとても高い。教師は教え子の成績がよいと給料が上がるので成績を上げるために熱心に教えるし、子どもに勉強させる。日本に来て、日本では教師が自分で問題を作らないのを知って驚いた。
小学校では1年生から一日6時間授業があり、毎日宿題が出る。中学になると一日8時間の授業がある。小学校からすべての教科はその科目の先生が教えるので授業の内容はとても濃い。小学校の算数を比べると、日本で教えている内容は中国から2年ぐらい遅れている。
大学受験前に理科系・文化系を分けないので、高校まではどちらの分野も勉強し、同じレベルで大学に入る。でも子どもは理科が好きな子が多いので、大学に入ると理系を志望する学生が多い。
今は日本に住んでいるので子どもは日本の教育を受けているが、教育の内容を比べたら中国の方が優れていると思う。日本も教育の内容を考え直してほしい。
このほか講演では、椎廣行(国立教育政策研究所社会教育実践研究センター長)氏による「科学系博物館の科学教育」、古川和(ジャパンGEMSセンター事務局長)氏による「GEMSの活動とアメリカの科学教育」、東京大学に在学中の酒井由紀子・古谷美央両氏によるアメリカのAP (Advanced Placement Program)の体験報告があった。
(取材・構成/堀内一秀
◆講演に続き行われたパネルディスカッションについてはこちら
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